「いまこそ、歌声(こえ)を上げろ。」をキャッチコピーに、6月8日~12日に銀座・博品館劇場を舞台に行われた、音楽を軸に据えた舞台SEPT ReAnimation『ARIARIUM(アリアリウム)』。

この舞台を彩ったのが、Machico・大山天・ピコ・村田寛奈(9nine)・みのり(まなみのりさ)・兵頭葵(STU48)・鈴木祐大・燿(摩天楼オペラ)・つかさし・横山統威・AtsuyuK!(.(dot)any)・Ryoko(ЯeaL)・浜川英也・笹川大輔・hoto-D・Ayano(fleufleu)・HAGI(カミツキ)・信也(トラケミスト)・浜崎正太郎・安部良治・今村美月(STU48)・杉浦タカオ・ウチクリ内倉という面々。役者・声優・アーティスト・アイドル・パフォーマーなどなど、自分を表現する様々な表現者たちが一堂に会し、互いを刺激しあいながら物語を描き出していた。

舞台となるのは、「街中の広場に設置されたステージ『アリアリウム』。誰もが自由に音楽を表現できる場所であり、そして街ゆく人たちが足を止めては心の安息を求める場所」。

これまでにも『アリアリウム』からは、人の心を魅了する様々な音楽やアーティストが生まれ続けてきた。その『アリアリウム』が存続の危機に立たされる。『アリアリウム』を残し、自分たちが音楽を通して自由になれる場所を守ろうと動き出す、今の『アリアリウム』を支える人たち。『アリアリウム』を改装し、管理下に置いて自由を奪おうとする人たち。そこへ、『アリアリウム』に伝説を残してきた人たちが絡みながら、物語が進んでゆく。

本当なら、「こう進むべき未来」が、予期せぬ運命の悪戯から、あるべき未来とは違う方向へと進みだした。歪んだ運命を、あるべき姿に直そうとする、現世とは異なる世界に生きる“時の支配者”たち。『アリアリウム』の未来をかき乱す人たちにより信頼関係に影を差し、お互いの関係性を壊してゆく、今の『アリアリウム』を支えるアーティストたち。本来の自分を見失い、みずからを輝かせていた『アリアリウム』という場所へ戻ってきた人たち…。様々な人たちの想いや思惑が複雑に絡み合いながら、物語は進んでいった。 

舞台『ARIARIUM(アリアリウム)』は、それまで“自由に音楽や自分自身を表現”していた人たちが、『アリアリウム』の存亡という現実に振りまわされながら、あるべき本当の自分を取り戻してゆく物語。

成功を夢見るアーティストたち。そのアーティストたちの夢をビジネスにしてゆく人たち。それは、この舞台劇に限らず。いや、昔も今も、音楽ビジネスを成り立たせている当たり前の図式だ。誰もが最初は、純粋に歌うことや、演奏することを、バンドとして音楽を奏でることを楽しんでいた。でも、自分たちの楽しみがビジネスになったとき、そこには人の期待はもちろん。期待に反したときの非難の声が飛び交う現実もある。夢を手にするためには、友情や信頼関係よりも、才能のある人たちと手を組むことや、成功のためのチャンスの場を選ぶことだって実際にある。

舞台『ARIARIUM(アリアリウム)』にも、成功やチャンスを手にするため、大切な場所を守ることや友情よりも、みずからの成功を求めようとしてゆく人たちの姿が描きだされていた。「売れたい」「成功したい」というアーティストたちの欲求を利用し、ビジネスにしている人たちの姿も映しだされていた。

『アリアリウム』という大切な場所を守りたい気持ちはありながらも、それぞれの願望によって、純粋だった感情に歪みが生まれ、それが亀裂に変わってゆく。ここに描かれている人間模様は、現実にあり得ること。それを、一人一人の感情をリアルに描写してゆくことで、この物語は、見ている側にも、見えないところでアーティストたちが抱えている苦悩や葛藤など、心の本音を伝えてきた。

音楽に向き合う純粋な気持ちと、夢を手にするうえで生まれる人のエゴイズムを、この舞台劇は、青春群像劇とてして描きだしてゆく…。

嬉しい見どころだったのが、現役ミュージシャンやシンガーらが多数出演していることから、実際にバンド演奏に合わせたライブ姿も、劇の間に間に楽しめたこと。

とくに、後半に描きだされたフェスの中、それぞれに出演者たちが演奏を披露したときの迫力は、まさに目の前でライブを感じているのと一緒だった。会場に足を運んだ人たちも、演奏のたびに手拍子を行い、ライブさながらに楽しめば、歌い演奏する側も、ライブシーンでは、実際に観客たちに手拍子を求めるなど煽る姿も見せていた。

何より、現役のアーティストたちが歌い演奏することでの迫力と臨場感は、舞台ということを忘れてしまうくらい。舞台『ARIARIUM(アリアリウム)』は役者だけではく、アーティストやダンサー、アイドルたちが出演していたのも、「本物」を追求していくうえで必要だったからだと、本作を見たことで強く感じさせられた。

『アリアリウム』の存亡の危機によって、壊れてゆく友情や信頼関係。そこからふたたび…という展開や、夢壊れた人たちが、もう一度アーティストとして生きる意味を見いだしてゆく姿。それを迫力あるライブパフォーマンスも通して、この物語は描きだしていった。舞台劇を見ながら感じていたのが、一つ一つの場面がドラマチックな青春劇としても見えてゆくことから、映画という形になったら、また違った興奮と感動を覚えるだろうなということ。これに関しては、筆者の勝手な妄想にはなるが、それくらい、物語の中へ気持ちを投影しながら、音楽が“心を動かし、生きる支え”になる力や魅力を持っていることを、舞台『ARIARIUM(アリアリウム)』を通して改めて強く感じた。

本編終了後に、毎回、出演者たちによるライブステージも披露され、そこも、毎回嬉しい見どころになっていた。筆者が観た日も本編での迫力を体感していたからこそ、その興奮を膨らませる形で歌い演奏し、ときにはダンスパフォーマンスしてゆくライブに触れていると、ライブのアンコールを味わっているような楽しい気分を感じさせてくれた。

本作『ARIARIUM(アリアリウム)』は、「2020年・2021年に上演した『ReAnimation』の世界感を継承する、今の時代を描いたサクセスエンターテイメントステージ」(Webより抜粋)。もちろん、以前の物語を知らなくともまったく違和感なく楽しめるが、“サクセスエンターテイメントステージ”の名の通り、今後も成功を積み重ね続いていくのであれば、こんな楽しみはない。

取材・文:長澤智典

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