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the band apartが、9thアルバム『Ninja of Four』の2回目となるレコ発ツアー「SMOOTH LIKE BUTTER TOUR 2」を12月25日(日)の東京・LINE CUBE SHIBUYA公演で締め括った。
収録曲すべてが新曲という妥協なき制作を行ない、楽曲のクオリティを納得がいくまで突きつめたがゆえに、もともとの『SMOOTH LIKE BUTTER TOUR』はアルバムの完成に至らないまま、2022年5月からスタート。開催中の7月に『Ninja of Four』がリリースされてファイナルを迎えたものの、終盤での発売になったことを踏まえ、改めて11月より全国6ヵ所を回るツアー第2弾の実施が決定。本稿でレポートするLINE CUBE SHIBUYA公演は、the band apartにとって初のホールワンマンライブだ。
ライブ当日はクリスマスとあって、渋谷のイルミネーションイベントへ並ぶ長蛇の列が会場周辺にできていたりと大賑わい。ホール内の開演前BGMも、ロネッツやクリスタルズ、ダーレン・ラヴのクリスマスソングが流れ、ホーリーなムードが存分に漂っている。
定刻を少し過ぎた頃、まずは荒井岳史(Vo&Gt)がステージに登場しギターを弾き出すと、木暮栄一(Dr)、川崎亘一(Gt)、原昌和(Ba)も順々に姿を見せては演奏へと加わっていく形で『キエル』からライブが始まった。4人が揃った瞬間に“ああ、バンアパの音だ……!”と思えるような、安心して身を任せられるしなやかで揺るぎないアンサンブルに、早くもじわっと感動を覚えてしまう。
薄暗かった照明が激しさを増すアウトロに併せて徐々に強い逆光へと変わり、『オーバー・ザ・トップ』からはメンバーの表情がクリアに確認できるようになるなど、鉄壁の演奏もさることながら、そうしたホールならではの特性も活かして、あっという間に場の空気を掌握するthe band apart。原と木暮のリズム隊を軸にファンキーなノリを繰り出してオーディエンスを踊らせた『ピルグリム』、荒井が紡ぐ甘い響きの歌メロや川崎の華麗なギターソロが胸を打つ『photograph』と、来年で結成25周年のキャリアが窺えるさすがのライブ運びには、死角がまったく見当たらない。
「7月に『Ninja of Four』という9枚目のアルバムを出したんですけど、ツアーはそれが完成しないままに始まってね。やれなかった曲もあるし、改めて回ろうじゃないかと。今日は初めてのLINE CUBE SHIBUYA、こんな大きい舞台に立つことができました。集まってくれてありがとうございます!」(荒井)
「いやー、外はものすごく寒かったんで極暖(のヒートテック)を着てきたんですけど、演奏してたら汗がどんどん出てきちゃってね。(最初のブロック後に)ちょっと途中退場させていただきました(笑)。みなさん、メリークリスマス」(原)
そんなMCに続いては、まさかの披露でファンにはたまらなかった『Karma Picnic』。荒井の爽やかなギターカッティング、木暮がボーカルを執るパートも冴えわたるなど、ツアータイトル“SMOOTH LIKE BUTTER”のとおり、流れるような演奏をもってライブが進む。さらに、AOR的な溜めの効いたサウンドがクセになる『酩酊花火』、再びグッとテンポを上げてロックの疾走感たっぷりに届けた『SAQAVA』と、お酒にちなんだ新曲でも気持ちよく酔わせてくれる。
「さっきね、スタッフに“イルミネーションの影響で会場の入口がすごいことになってますよ”と言われて、写真を見せてもらったら想像以上の人混みでびっくりしました。そんなクリスマスの渋谷にお越しくださいまして、本当にありがとうございます」(木暮)
「渋谷なんてのは、すごくきれいなゴミ箱みたいなもんでね。俺らが20代の頃はイルミネーションも“ケッ!”という感じでしたけど、今となってはまあ……きれいですよ(笑)。最近は涙腺もおかしくなってきて、知らないおばあちゃんを見て泣いちゃったりするから」(原)
「集まってくれて嬉しいよね。俺だったら絶対に来ないもん、この人混みでは(笑)。そんなこんなで、懐かしい曲も新しいアルバムの曲もやりながらいきます」(荒井)
こうしたゆるい感じのMCと引き締まったバンドサウンドによっていい緩急が生まれるのが、バンアパのライブの楽しさ。ワルツっぽいリズムを孕んだ『bacon & eggs』で始まり、荒井のボーカルがじんわりと温かみを増す『アイスピック』、ノスタルジックなトーンが会場全体をやさしく包み込んだ『bruises』と、よりディープに聴かせた中盤の展開も、大きなホールというシチュエーションにとてもマッチしていたように思う。
「『M-1グランプリ』のヨネダ2000を観て、テレビでこんなに笑ったことないくらい笑ったんだけど、審査員の点数があまり伸びなくてね。俺はすごく好きなのに、一般的にはさほど評価されない現実を目の当たりにしたんです。それでもやっぱり、自分の好きなものは好きじゃないですか。もしかしたら、そういう感じでみなさんも我々を観に来てくれてるのかなって」と木暮が客席を沸かせたり、荒井と原がツアーの思い出をしみじみ語ったりしているうちに、ライブは後半へ。
1回目のツアーでは演奏されなかった『夏休みはもう終わりかい』、そこからポストパンクとサンバを掛け合わせたようなアレンジの『The Ninja』までを豪快かつシームレスに繋ぐという、アルバムの幕開けを再現する流れは極上の味わいで、これを生で聴くことを待ちわびていたオーディエンスも大いにヒートアップ。そのままバンアパらしい柔和で美しいメロディが際立つ『higher』、川崎のトロピカルなギターが存在感を発揮した『レクイエム』と続け、クライマックスを前に荒井が今の想いを語る。
「来年で25周年なんですが、こんなに長くやれてるのはメンバーのおかげです。そして、こうやってお客さんが観に来てくれるおかげ。そういうことを俺、20代から30代前半くらいまではあまり噛み締められなかったんですよ。自分がもういっぱいいっぱいで、バンドについていくのがやっとだったりしてね。昔は何かと雑念が多かったんですけど、この歳になってくると“いろんな人に生かされているな”って感じるわけで。やっぱり、返していかないとダメだなと思いました。みなさんにどれだけ楽しんでもらえるかを考えて、最近はライブをしています。少しでもいい気分で帰ってもらえたら嬉しいし、今後も一生懸命がんばっていきますので、どうかよろしくお願いします!」
そんな心境の変化を包み隠さず明かしたMCを受けて、バンドのグルーヴにいっそう熱が入ったのは言うまでもない。4人の音に風が吹き抜けるような心地よさを感じた『DEKU NO BOY』、いつまでも輝きを失わないキラーチューン『Eric.W』を畳みかけ、本編ラストはニューアルバムからの人懐っこいナンバー『夕闇通り探検隊』。新作のレパートリーを惜しみなくすべて披露し、辺りが暖色系の光にあふれる素敵な雰囲気の中、メンバーはステージを降りた。
そして、アンコールではこれまで沈黙を保っていた川崎から「4月15日と16日にですね、例の……やるやる詐欺と言われていたフェスを、ついに25周年のタイミングで開催することを決断しました!」という嬉しい発表も。最後は場内に歓喜のハンドクラップが湧いた『夜の向こうへ』、さらにダブルアンコールとして『beautiful vanity』を客電つけっぱなしの状態でガツンと届け、ブレない芯を示しつつ、2度にわたるロングツアーを大団円で終えたバンアパ。
この日アナウンスがあったとおり、4月15日(土)、16日(日)には株式会社タニタと共同開催するフェス『ITABASHI × TANITA × asian gothic label presents ITa FES“the band apart 25th anniversary”』が、諸般の事情を調整し5年の延期を経て、メンバーの地元・板橋区荒川の戸田橋緑地バーベキュー場で待望の開催となる。1日目はゲストバンドを招いたフェス形式、2日目はバンアパのワンマンライブを予定しているとのこと。詳しくはオフィシャルサイトをチェックしよう。
撮影:Kanade Nishikata
取材・文:田山雄士
《SET LIST》
- 1.キエル
- 2.オーバー・ザ・トップ
- 3.ピルグリム
- 4.photograph
- 5.Karma Picnic
- 6.酩酊花火
- 7.SAQAVA
- 8.bacon & eggs
- 9.アイスピック
- 10.bruises
- 11.夏休みはもう終わりかい
- 12.The Ninja
- 13.higher
- 14.レクイエム
- 15.DEKU NO BOY
- 16.Eric.W
- 17.夕闇通り探検隊
- <ENCORE 1>
- EN1.夜の向こうへ
- <ENCORE 2>
- EN2.beautiful vanity
荒井岳史(Vocal, Guitar)、川崎亘一(Guitar) 使用楽器・機材紹介
the band apart
2023.4.15-4.16 "the band apart 25th anniversary" ITa FES 開催決定!
ITABASHI × TANITA × asian gothic label presents
ITa FES
"the band apart 25th anniversary"
2023.4.15(sat)-4.16(sun)
会場:東京都板橋区荒川戸田橋緑地バーベキュー場
詳細はこちら
https://asiangothic.net/itafes/