この日の東京はまだ7月だというのに最高気温36度という真夏並みの暑さに見舞われていた。“天気の話ができることは悲しいニュースがなく、それだけ平和であること”とはよく言ったものだが、会場付近に数多く見られた青と黄色のウクライナの国旗を持つ人々の存在が、より我々の住む世界の“平和”をより強く実感させる。LUNA SEA、X JAPAN、THE LAST ROCKSTARS、SHAGと様々なバンドで活躍する一方で、難民支援活動も積極的に行なっているSUGIZOが〈SUGIZO TOUR 2023「Rest in Peace & Fly Away〜And The New Chaos is Saving You〜」〉を開催。本稿ではウクライナの国民的バンド・KAZKAをゲストに招き、東京・Zepp DiverCityで行われたツアーファイナルの模様をお届けする。

会場に足を踏み入れるとオープニングアクトを務めるSUGIZO COSMIC DANCE SEXTETのメンバーでもあるMaZDAのサイケデリックトランスプロジェクト・UNIがフロアを温めていた。オーディエンスは思い思いに体を揺らし、開演を待ち侘びる。

定刻を少し過ぎた頃、まずステージに現れたのはKAZKA。KAZKAはウクライナの国民的バンドであり、軍事侵攻を受けている現在もキーウに拠点を置き活動を続けるアーティストである。彼女たちはキーウから陸路でポーランドへ渡り、日本へとやって来たわけだが、その最中で命を落とす人も少なくない状況の中、文字通り命懸けで音楽を届けたいという想いで日本へやって来たという。

ヴォーカルのサーシャ(オレクサンドラ・ザリツカ)はパワフルかつ妖艶な歌声で、我々に何かを訴えかけるように歌い、デイマ(ドミトロ・コズリアツ)は抑揚のついた情感豊かなソピルカと呼ばれる笛を操る。さらにサングラスをかけミステリアスな雰囲気を醸し出す二人の女性コーラスを加えた四人で奏でられる音楽はエレクトロダンスミュージックをベースにウクライナの伝統的な民族音楽をミックスしたもの。決して我々の耳に聞き馴染みのあるものではないが、このどこか異国情緒を感じるエレクトロダンスサウンドとSUGIZOの音楽に通ずるものがあるのは明らかだろう。

後半、KAZKAを招いた張本人であるSUGIZOを呼び込み、けたたましくギターを響かせるとKAZKAの代表曲でもある『CRY』をセッション。楽曲の終盤にはSUGIZOらしいギターソロセクションが組み込まれ、一夜限りの貴重なセッションとなった。また、『CRY』を含めた後半三曲ではSUGIZO COSMIC DANCE SEXTETよりkomakiがドラマーとして参加し、KAZKAのエレクトロダンスサウンドを生のビートで表現。「Make some noise!」とフロアを煽ると、オーディエンスはハンズクラップで応える。するとサーシャは「Thank you for all Japanese people!」と感謝を述べ、去り際に何度も「アリガトウゴザイマス!」と日本語でも感謝を伝え、ステージを後にする彼女たちには大きな拍手が送られた。言葉は通じなくとも響く音に身を委ね、踊るという行為は全世界共通であるのだと実感することができたステージだった。

ほどなくしてSUGIZOが再びステージに登場しヴァイオリンを手に取ると、ゲストピアニストであるMAIKOとともに『Rest in Peace & Fly Away』を前半部分のみ披露。荘厳なオープニングとなった。「みんなどうもありがとう。SUGIZO TOUR 2023始まります。最後までアゲアゲで、昇天しましょう」とフロアに投げかけると、MaZDA(Mani/Syn)、よしうらけんじ(Per)、komaki(Dr)、Chloe(Vo)がステージイン。さらにゲストのトランペット奏者である類家心平、VJのZAKROCKを含めた7人で官能的なSGZ MUSICがついに炸裂する。

小気味いいカッティングと四つ打ちが絡み合う中、次第に熱量を増しSUGIZOのギターと類家のトランペットが応酬を繰り広げた『DO-FUNK DANCE』から始まり、SUGIZO自らパーカッションをプレイし、よしうらのジャンベとkomakiのドラムとの圧巻の打楽器によるアンサンブルを見せた『NEO COSMOSCAPE』では我々の内臓まで揺らすほどのビートを響かせた。さらに、エレクトロの中にジャズの香りが漂う『Rebellmusik』では映像も含めてウクライナの平和を願い、改めて戦争反対の意志を示した。

続く『ARC MOON』では憂いを帯びたSUGIZOのギターと、新たなミューズと称されるCholeの歌声、さらには楽曲の世界観を表現する海や月といった神秘的な映像とで会場を飲み込んでいく。そして『ARC MOON』から『FATIMA』へシームレスに流れていく様はクラブさながら。再びヴァイオリンを手にとったSUGIZOは無数のレーザーによりライティングとベリーダンサーが踊る映像美をもって我々をさらなる深みへと誘う。

−3月にあの世へ旅立った僕の生涯の師匠であり、最も憧れのミュージシャン、坂本龍一さんに捧げる曲を聴いてください。祈りを込めて。

そう言って、黒い衣装に着替えて登場したSUGIZOがMAIKOを呼び込み演奏したのはYMOの『PERSPECTIVE』だった。ピアノに乗せ、奏でられたヴァイオリンの調べには言葉はなくとも坂本龍一氏への想いが溢れていたし、胸に手を置き祈りを捧げるSUGIZOの姿が印象的であった。また、ヴァイオリンの残響が響く中、スクリーンには「R.I.P. Mr. RYUICHI SAKAMOTO」の文字が浮かび上がり、会場からは大きな拍手がいつまでも鳴り止まず、この日のハイライトの一つとなった。

ここから再びChloeを呼び込み1stアルバム『TRUTH?』から2曲プレイ。SUGIZOとChloeがツインボーカルでゆったりと歌い上げたボサノヴァ調の『DELIVER…』、Chloeのソウルフルな歌声と終盤にかけて暴れ回るSUGIZOのギターが素晴らしかった『KANON』と、どちらも26年前にリリースされた楽曲ながら古さを感じさせるどころか、違和感なくセットリストに並んでいるところにもSUGIZOの音楽に対する造詣の深さや懐の大きさを感じずにはいられないセクションであった。

終盤戦、フロアに漂うメロウな雰囲気をかき消すような強烈な逆光の中、SUGIZOがバルカンサリュートを掲げたのを合図に『FINAL OF THE MESSIAH』をドロップ。ド迫力の四つ打ちにSUGIZOのザクザクしたハードなリフが乗り、類家のトランペットも負けじと暴れ回る。そんな狂乱の渦へと会場を陥れながら、SUGIZOはドラム台へと登りkomakiの横でオーディエンスを煽ると、会場のボルテージはさらに上がり、熱量をそのままに『』へ。ヒリヒリと張り詰めた緊張感を楽しむかのようにリフを繰り出す六重奏の面々。ジャンベを叩くよしうらと向かい合いギターを掻き鳴らし、既にアンストッパブルな状態なSUGIZOはラストソングとして『TELL ME WHY?』をプレイ。何度も問いかけるように叫ぶSUGIZOの姿が印象的であった。

アンコールを求める声は、いつしか日本在住ウクライナ人による“SUGIZOコール”に代わっていた。そして、大きな拍手で迎えられステージに舞い戻ったSUGIZOは現在KAZKAのメンバーが暮らしているウクライナの現状を説明するとともに、この日集まった大勢のウクライナからの避難民へ“ジャクユー(ウクライナ語で“ありがとう”の意)と感謝を伝えた。さらにウクライナに限らずシリアやミャンマー、スーダンといったあらゆる苦境に立たされている人々を想いながら、改めて日本で安全な状態で音楽を楽しめて、みんなと幸せな時間を過ごせていることが奇跡的で普通じゃないということを毎回細胞レベルで感じていると語ってくれた。

そして、アンコールではSUIGIZO COSMIC DANCE SEXTETとKAZKAによる一夜限りのスペシャルセッションが設けられ、SUGIZOがKAKZAの面々を呼び込むとサーシャはウクライナの国旗を手に登場し、「世界中が平和になるようお祈りしています」と終戦を願った。まず、“今だからこそ表現しなければならない曲”としてSUGIZOとChloeが参加した『I AM NOT OK』は戦争が始まってからKAZKAが作った楽曲で、戦争の時にウクライナ人が感じる気持ちを表現しているという。スクリーンには生々しい戦禍のドキュメントが投影され、戦争のリアルを感じるとともに胸が締め付けられるような思いだった。

そんな凄惨な状況には何が必要なのか。それは続いて披露されたSUGIZOとKAZKAの共作であり、“SUGIZOの過去の楽曲をKAZKAアレンジとして、新メロディー/新リリックの全く新しい楽曲として再構築した楽曲”である『ONLY LOVE, PEACE & LOVE』が答えだったように思う。そこに必要なのは“愛”なのだ。温かみのあるメロディーに導かれ、会場にはフロアが鳴らすハンドクラップとシンガロングが響き、先程まで目を覆いたくなるような映像が映されていたスクリーンにはたくさんの人々の笑顔が溢れていた。あの場所に集まった人々が愛をもって人種や国籍や宗教の壁を乗り越え、平和を祈り願い、文字通りひとつになった瞬間だったように思う。

この日のラストは再びMAIKOを招いて『Rest in Peace & Fly Away』の後半部分をヴァイオリンで演奏。国境を超えて世界の平和を願ったライヴは、このレクイエムで包み込み、弔う形で完成したというわけだ。そして、改めてこの日出演した全てのメンバーがステージに呼び込まれ、記念撮影を行うと、ここでKAZKAからSUGIZOへサプライズで花束が贈られた。そう、公演日の二日前はSUGIZOの54歳の誕生日で、それを聞いたKAZKAのメンバーが用意したというのだ。するとサーシャがウクライナ流のバースデーソングを独唱し、改めてSUGIZOの誕生日を祝うと、会場からも大きな拍手が巻き起こった。

ライヴ中にSUGIZOも話していたが、ライヴを開催すること、好きな音楽に身を委ね、時に声を出し、時に踊ることができるということ、誰かの誕生日を祝うこと、一つ歳を重ねること。そのどれもが当たり前ではなく、我々の日常は奇跡のような出来事の積み重ねでできているのだと痛感させられる。だからこそ、我々はこの普通じゃないことのありがたみを噛み締めなければならないし、自分に明日が来ないかもしれないという不安がないことの喜びをもっと理解しなければならない。そして、アンコールでSUGIZOとKAZKAが示したように、この世界に必要なことは他者を思いやる心、つまり“愛”だ。いきなり世界中の人々を丸ごと愛することは難しいかもしれないが、まずは自分の身の周りの人々を愛していけばいい。そうすればきっとそれが巡り巡って、我々が願ってやまない平和な世界につながるはずだ。その日が来るまでSUGIZOはステージから音楽に乗せて愛と平和を叫ぶのだ。

取材・文 オザキケイト
Photo by Keiko Tanabe

《SET LIST》
  1. KAZKA
  2. 01.KARMA
  3. 02.SVYATA
  4. 03.PALALA
  5. 04.Acapella Gizls
  6. 05.CRY with SUGIZO & komaki
  7. 06.tvogei kzovi with komaki
  8. 07.PSD with komaki
  9. SUGIZO COSMIC DANCE SEXTET
  10. 01.Rest in Peace & Fly Away -前半- with MAIKO
  11. 02.DO-FUNK DANCE with Chloe & 類家心平
  12. 03.NEO COSMOSCAPE
  13. 04.Rebellmusik with 類家心平
  14. 05.ARC MOON with Chloe & 類家心平
  15. 06.FATIMA
  16. 07.PERSPECTIVE with MAIKO
  17. 08.DELIVER… with Chloe & 類家心平
  18. 09.KANON with Chloe
  19. 10.FINAL OF THE MESSIAH with 類家心平
  20. 11.禊
  21. 12.TELL ME WHY? with Chloe
  22. (ENCORE)
  23. 13.I AM NOT OK with KAZKA & Chloe
  24. 14.ONLY LOVE, PEACE & LOVE with KAZKA, Chloe & 類家心平
  25. 15.Rest in Peace & Fly Away -後半- with MAIKO

SUGIZO 使用楽器・機材紹介(1)~Guitar

SUGIZO

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