『MOTHER』がLUNA SEAをシーンの頂点に導いたアルバムだとするならば、『STYLE』は彼らを日本の音楽シーンのトップに導いたアルバムだと言えるだろう。とりわけその中でも『STYLE』はLUNA SEAというバンドの音楽性を確実のものにし、その後の指標となった作品ともいえる。飛ぶ鳥を落とす勢いだった彼らにとって『STYLE』を引っ提げて行われた<LUNA SEA CONCERT TOUR 1996「UN ENDING STYLE」>は総動員12万人という当時の最多動員を誇ったツアーであった。また、このツアーは伝説のスタジアムライヴとしても語り草になっている<UN ENDING STYLE TOUR FINAL Christmas STADIUM〜真冬の野外〜 in 横浜スタジアム>へと繋がったツアーでもある。そう、このツアーは前日のRYUICHIの言葉を借りるならば、“ムーヴメント”の真っ只中に行われていたツアーなのである。そのツアーが<LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023>として27年ぶりに現代に蘇る。10月8日、前日に引き続き神奈川県・Kアリーナ横浜にて行われたツアー二日目の模様をここに記したいと思う。
満員のSLAVE(LUNA SEAファンの呼称)で埋め尽くされていたKアリーナは、当時の「UN ENDING STYLE」のファイナル公演が行われた横浜スタジアムからほど近いこの会場からこのツアーが始まることにも何か運命めいたものを感じざるを得ない。定刻を少し過ぎた頃、開演を待ち侘びるオーディエンスから手拍子が巻き起こると、場内が暗転。登場するLUNA SEAの面々に拍手が送られると、レコードに針を落としたようなノイズが響き、『WITH LOVE』からゆっくりとこの日のライヴは幕を開けた。ライヴはここからギアを一気に入れるかのごとく『G.』で急加速。SUGIZO(Gt/Vn)のギターがけたたましく唸りを上げると、ド派手な特効とともにバンドイン。この一連の流れに「真冬の野外」がフラッシュバックしたSLAVEも少なくなかっただろう。
「お前らに会いたかったぜ!Kアリーナ、飛ばしていくぞ!」とそのまま『END OF SORROW』へ。SUGIZOの代名詞ともいえるロングサスティーンを響かせれば、『LUV U』ではJ(Ba)が大人の色気を漂わせながら蠢くようなベースラインで楽曲をグイグイと引っ張り、オーディエンスをLUNA SEAの深部へと誘う。ここからスリリングな『SLAVE』を経て、『STYLE』の楽曲の中でも一際ヘヴィさが光る『1999』をドロップすると、会場は一気にカオスの渦へ。RYUICHIが眼光鋭く吼えれば、INORAN(Gt)もギターを掻き鳴らし、徐々に当時のギラギラしたLUNA SEAが現代に蘇ってくるのがわかる。
そういった意味では前日と打って変わって銀髪で登場し、「真冬の野外」当時の姿を彷彿とさせた真矢(Dr)が力強いドラミングを見せた『RA-SE-N』からそのカオスは増す一方だった。壊れたように絶唱するRYUICHIを筆頭に五人がこの27年間で培った表現力を遺憾無く発揮し、現代における「UN ENDING STYLE」としてダークで退廃的な世界観を構築していく。そして、そのハイライトは前半戦ラストの『SELVES』だったのは言うまでもないだろう。RYUICHIの歌にINORANのウィスパーボイスを重ねるという新たなアレンジで独特の浮遊感を助長し、なおかつアウトロにもヴァイオリンを組み込むことで原曲からがらりと雰囲気を変え、我々を驚かせてくれた。セルフカバーといえど、ただのカバーでは終わらせないのがLUNA SEAのLUNA SEAたる所以なのだ。
しばしのインターバルを経て、真矢のドラムソロでライヴは再開。程なくしてJもステージインすると「真冬の野外」の時と同じ『BACK LINE BEAST』というニクい演出でベースソロを披露し、真矢との骨太なアンサンブルを響かせた。「Kアリーナ、飛ばしていくぞ!!」とすかさずJが会場を煽ると、一斉にメンバーが登場し『Déjàvu』をプレイ。スクリーンには当時のMVとともに左回りに回る時計が映し出され、ゆっくりとその時を巻き戻しながら27年の空白を埋めていく。
「27年ぶりの「UN ENDING STYLE」ツアー、やっぱ最高だな!『MOTHER』、『STYLE』という二枚のアルバム、そしてこの二つのツアー、もう一度地元ここ神奈川からお前らとともにスタートすることができて本当に最高です!」と喜びを爆発させ、ライヴはこのアルバムの代表曲ともいえる『DESIRE』へ。そして畳み掛けるように『TIME IS DEAD』『ROSIER』と立て続けにお見舞いし、Jお決まりのマイクスタンドへのブレーンバスターでは大きな歓声が上がった。
「約30年の時を経て蘇ったこのツアー、俺たちはみんなとインディーズからムーヴメントを起こしてきました。俺たちは過去の足跡、歴史、想いっていうのもたくさんあるけど、ここから先の未来も今日ここにいるみんなとともに刻んでいくから」と宣言すると、フロアからは大きな拍手が送られた。そう、今回のツアーは決して過去を懐かしむだけのツアーではなく、LUNA SEAの未来へと繋がるものなのだ。そして、本編ラストは真っ赤に染まるステージで『HURT』を歌い上げ、不気味な残響を残して彼らはステージを後にした。
アンコールでステージにメンバーが舞い戻ると、スクリーンには『MOTHER』と『STYLE』の新たなジャケットが映し出され、それを見たRYUICHIが「かっこよくない?」と問いかけるとSLAVEは拍手でこたえる。そして、セルフカバーアルバムに対して「約30年前の曲なのにめちゃくちゃ新しいんだよ」と興奮気味に切り出し、「今、時代はどんどん変わっているかもしれないけど、もう一度俺たちにしか作れない世界、俺たちにしか見れない景色を作りにいこうぜ!」と締めくくり、オーディエンスからは今一度割れんばかりの拍手と歓声が送られた。
アンコールはSUGIZOの付点八分のディレイとINORANのアコースティックギターが心地いい『IN SILENCE』から。ミラーボールが幻想的に会場を彩る中、どこまでも伸びていくRYUICHIの歌声を堪能することができた。この夢のような二日間ももう間もなく終わりを迎えようとしている。しかし、我々は間違いなく「MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE」、そして「UN ENDING STYLE」を2023年に目撃したのだ。これがいかに奇跡のような出来事かは「こんな瞬間、二度とこないと思ってました」とJが語っていたことからも明らかだろう。そして、『PRECIOUS…』『WISH』という30年以上LUNA SEAのライヴを支え続けるキラーチューンをもってアンコールを締め括った。
それでもなおアンコールを求める声は止まず、再びステージに戻った彼らは「本当にいい眺めを見させてもらったので、最後に俺たち五人から想いを込めて、魂を込めて次の曲を贈りたいと思います」と『FOREVER & EVER』をプレイ。心を震わせるRYUICHIの歌声、伸びやかなSUGIZOのギター、憂いを帯びたINORANのアルペジオ、全てを肯定してくれるJの語り、感情剥き出しで魂のドラミングを見せる真矢。絶望を希望に変えるこの曲こそ、この日のラストナンバーにふさわしかっただろう。
思い返せば27年前、「真冬の野外」でのラストナンバーもこの曲だった。しかし、この曲を前に彼らは一年間の活動休止を発表し、失意のアンコールラストとなった曲でもある。スクリーンにはその日の映像が映し出される中、その苦い思い出を払拭するかのごとく演奏する五人の姿に胸が熱くなる。そして、当時から27年が経った2023年に改めて<何処まで翔べるのか確かめたくて>と歌うその姿にLUNA SEAの明るい未来を見た。あの日、涙を浮かべながら横浜スタジアムのステージを後にしたLUNA SEAの面々は、27年の歳月を経て、とびきりの笑顔でKアリーナ横浜のステージを後にした。まさに、今日のLUNA SEAが現在の姿をもって、あの日の失意のLUNA SEAを救った日だった。結成30年を過ぎてもなお、LUNA SEAは輝きを増し、きっとまだまだ翔び続けるのだ。
PHOTO:田辺佳子、上溝恭香、清水義史
取材・文:オザキケイト
《SET LIST》
- 01. WITH LOVE
- 02. G.
- 03. END OF SORROW
- 04. LUV U
- 05. SLAVE
- 06. 1999
- 07. RA-SE-N
- 08. SELVES
- Drum solo
- Bass solo
- 09. Déjàvu
- 10. DESIRE
- 11. TIME IS DEAD
- 12. ROSIER
- 13. HURT
- (ENCORE)
- 14. IN SILENCE
- 15. PRECIOUS…
- 16. WISH
- (ENCORE 2)
- 17. FOREVER & EVER