タイアップがなければオリコン1位を獲得するのは難しいと言われていた1990年代において、デビューからノンタイアップを貫き続けたLUNA SEA。1994年、ついにノンタイアップでのオリコン1位を獲得した彼らにとって、同年にリリースした『MOTHER』はバンドをより一層の高みへと連れていった作品と言っても過言ではないだろう。この作品を引っ提げて翌年に行われた<LUNA SEA CONCERT TOUR 1995「MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE」>は27会場31公演という当時バンド史上最大の公演数を誇り、その年の年末に行われた初の東京ドーム公演への足掛かりとなったツアーである。その伝説のツアーが28年の歳月を経て<LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023>と題して2023年に蘇る。10月7日に神奈川県・Kアリーナ横浜にて行われたこの歴史的といえるツアー初日の模様をレポートする。

今年の9月に“世界最大級の音楽に特化したアリーナ”として横浜に誕生したばかりのKアリーナ横浜には多くのSLAVEが駆けつけ、チケットはソールドアウト。同会場が謳う“過去と現在、そして未来を結び、音楽を起点として歴史と文化を世界に発信する”というコンセプトはまさしく『MOTHER』、そして『STYLE』という四半世紀以上も前の作品を現代のLUNA SEAの姿をもって表現するという今回のツアーにぴったりであるといえる。

定刻を過ぎ、暗転する会場が強烈なムービングライトとレーザーに包まれる。オープニングはもちろん幾度となくLUNA SEAのライヴのオープニングを飾ってきた『LOVELESS』だ。おなじみのSUGIZO(Gt/Vn)のトリプルネックのギターとINORAN(Gt)の12弦のエレアコが織りなす繊細で幻想的な音色に一気に彼らの世界に引き込まれたのも束の間、特効とともにお見舞いされた『TIME IS DEAD』で会場のボルテージは急上昇。

「MOTHER OF LOVE. MOTHER OF HATE」へようこそ。お前ら会いたかったぞ!」とRYUICHI(Vo)がSLAVEへ思いの丈を述べると、続く『JESUS』でJ(Ba)はよりSLAVEの近くへと花道へ飛び出す。そして、フロアから一際大きな歓声が上がったのは『IMITATION』だった。これはこの曲が普段のライブで聴くことができないレアな楽曲であることと同時に、この日のセットリストが当時のツアーのセットリストを踏襲したものであるとわかったことへの歓声だったのだろう。

ここからライヴはさらに深いところへ。ギターのノイズを切り裂くように真矢(Dr)のタイトでパワフルなドラムが響き渡った『FACE TO FACE』ではドラムに新たなアレンジを加えて披露し、再構築された『MOTHER』の片鱗を見せたかと思えば、『CIVILIZE』で見せた『LUNATIC TOKYO』(1995年に開催されたLUNA SEA初の東京ドーム公演)と同様の導入に歓声が上がった。また、『RAIN』や『GENESIS OF MIND〜夢の彼方へ〜』ではRYUICHIの圧巻の歌声を聞かせ完全復活をアピール。こうして過去と現在をオーバーラップさせながら2023年型の「MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE」を描いていく。

中盤、しばしのインターバルを経てライヴは真矢のドラムソロから再開。おなじみのコールアンドレスポンスで会場を一つにすると、そのまま衣装を着替えたメンバーがステージインし『FATE』へなだれ込む。その中でもJは『LUNATIC TOKYO』の際の衣装をオマージュした衣装で登場するという粋な計らいを見せてくれた。「28年ぶりだって。「MOTHER OF LOVE, MOTHER OF HATE」」とオーディエンスに投げかけ、「やっぱり最高だよね!俺たちは常に前に、上に、そしてもっともっと深いところに、いつも広がっていってるんだよね。だって28年前のこのツアーの再現で、また新しいものをビシビシ感じているこの瞬間、素敵じゃない?」と続けると大きな拍手に包まれた。

もう少し時間を巻き戻してみたいと思います」と会場内にノイズが響くと、どよめきが起こる。そう、美しいピアノの旋律が耳をひく『AURORA』だ。当時のツアーでも一度しか演奏されなかったこの曲を待っていたSLAVEも少なくなかっただろう。ここからライヴはラストスパート。不穏な真っ赤なレーザーが会場を包み込むとSUGIZOのソリッドなリフから爆発的なスピード感を持つハードコアナンバー『IN FUTURE』をドロップ。スクリーンには『LUNATIC TOKYO』の映像も映し出され、聴覚だけでなく視覚でも彼らの過去と現在を対比しながら体感することができる演出を目の当たりにして、当時の荒々しさもしっかりと持ちながら、5人それそれがキャリアに裏打ちされたミュージシャンとしての深みを身につけ、LUNA SEAとしてステージに立っている現在の姿に胸が熱くなる。そして、誰もが知るキラーチューン『ROSIER』をもって本編ラストとして彼らはステージを後にした。

アンコールの声にこたえ再び5人がステージに戻ると、現在制作の最終段階だという『MOTHER』と『STYLE』のセルフカバーに対してRYUICHIは「キテる!といい意味で驚いてもらえる作品になる」と語り、不朽の名作といわれるこの2枚のアルバムのリリース時を振り返りながら「インディーズの頃のあの思い、そしてメジャーになってからのあの思い(を込めて作り上げ)、LUNA SEAの中心を支えてくれた2枚のアルバムだよ。だから、もう一度みんなとともにムーヴメントを起こしたいんだよね」と高らかに宣言。すると、フロアからは割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。

アンコールはLUNA SEAが90年代の日本の音楽シーンにムーヴメントを起こすために放った第一歩とも言える『TRUE BLUE』から。冒頭にも述べたがノンタイアップでのオリコン1位獲得という偉業を成し遂げたことでLUNA SEAはスターダムを駆け上がりシーンの頂点に上り詰めたのである。そんなLUNA SEAの運命を変えた一曲から『BELIEVE』 を経て、「Kアリーナ横浜!お前ら全員でかかってこい!!」という伝家の宝刀とも言える全てのSLAVEの心を昂らせる煽りを炸裂させ、何度もLUNA SEAのライヴでラストナンバーを飾ってきた『WISH』へと繋ぎ、銀テープが降り注ぐなか大団円を迎えた。

それでもまだ鳴り止まないアンコールにこたえステージに舞い戻った彼らは、全員が白を基調とした衣装に着替え、それに対しフロアから歓声が上がる。「アリーナツアー初日、本当にラストになっちゃいましたけど、今日集まってくれた一人ひとり、全員にこの曲を贈りたいと思います」とこの日のラストナンバーとして演奏されたのは珠玉の名曲『MOTHER』。繊細でありながらも力強く、聴く人の心を震わせるRYUICHIの歌声に酔いしれる。また、〈愛が欲しい 愛して欲しい〉と声を荒げて歌うその姿は、ある意味すべての人間が持つ本質であると感じざるを得なかった。生きていく中で愛を求め、愛とは何かを問い、行き着く愛の原体験が母の愛なのではないだろうか。きっと、母に愛されながら生まれたすべての人々もまた“愛”そのものであり、本来世界は連綿とつづく“人々の愛”によって形成されたもののはずなのだ。

そして、28年の歳月を経て、LUNA SEAは愛を求める側から愛を与える側へと移り変わっていた。20代半ばだったメンバーは50代となり、彼らを取り巻く環境や立場は大きく変わった。もちろん、LUNA SEAというバンドは常に貪欲だからこそ、今回のこのツアーも過去の作品を懐古するだけでなく、2023年のLUNA SEAが『MOTHER』と『STYLE』を表現することに意味を見出していることは容易に想像できる。しかし、一人のミュージシャンとして以前に、一人の人間としてより一層の深みを増し、我々に大きな愛をもたらしてくれるという事実こそが当時との何よりの違いだったように思う。去り際にRYUICHIが放った「愛してるよ!バイバイ!!」の声で胸がじんわりと暖かかくなる。きっとこれが愛だ。28年前にLUNA SEAが求めていた愛はここにあったのだ。

PHOTO:田辺佳子、上溝恭香、清水義史
取材・文:オザキケイト

《SET LIST》
  1. 01. LOVELESS
  2. 02. TIME IS DEAD
  3. 03. JESUS
  4. 04. IMITATION
  5. 05. FACE TO FACE
  6. 06. CIVILIZE
  7. 07. RAIN
  8. 08. GENESIS OF MIND〜夢の彼方へ〜
  9. Drum solo
  10. 09. FATE
  11. 10. AURORA
  12. 11. IN FUTURE
  13. 12. BLUE TRANSPARENCY 限りなく透明に近いブルー
  14. 13. ROSIER
  15. (ENCORE)
  16. 14. TRUE BLUE
  17. 15. BELIEVE
  18. 16. WISH
  19. (ENCORE 2)
  20. 17.MOTHER

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