彼らがこのバンドを始めた時にどんな“未来”を描いていたのだろうか。当時、ELLEGARDENの生形真一とストレイテナーの日向秀和が新たにバンドを組むと聞いたときの驚きと興奮は今でも覚えている。あれから15年、彼らは日本のロックシーンにおいて確固たるポジションを築き、フルアルバム11枚をリリース。持ち曲は優に100を超える。そんなNothing’s Carved In Stone(以下、NCIS)が2月24日に東京・日本武道館にて<15th Anniversary Live at BUDOKAN>を開催した。バンドとしては五年ぶり二度目となる今回の日本武道館ワンマンは、全楽曲の中からファン投票によって選ばれた上位20曲と、各アルバムから1曲ずつセレクトした11曲でセットリストを構成するというスペシャルなライヴとなった。ここにNCISの15周年イヤーのラストを飾るにふさわしい記念すべき一夜の模様を記したいと思う。

定刻を20分ほど過ぎ場内が暗転すると、 NCISが結成された2009年からカウントアップしながら過去の映像が映し出される。それはまるで走馬灯のようで、彼らの歴史を振り返るととともに、この日集まった多くのファンにとってもそれぞれNCISとの間に思い出深い瞬間やライヴがあったことだろう。ほどなくしてメンバーがステージインすると割れんばかりの歓声が日本武道館を包み、スクリーンに“15th Anniversary”の文字が浮かぶやいなや、けたたましいピックスクラッチが響いた。「準備できてますか!声聞かせてくれ!!」と村松拓(Vo/Gt)が叫ぶと『Out of Control』からライヴスタート。日向秀和(Ba)と大喜多崇規(Dr)のお決まりのグータッチもバッチリ決まって、ダンスホールと化す武道館。どうやらこの日はド頭からぶっ飛ばしていくようだ。

続く『Deeper, Deeper』では生形真一(Gt)のヘヴィなリフに日向の変幻自在の歪んだベースが絡み、NCISのNCISたる所以を見せつける。さらに『YOUTH City』ではスクリーンに映し出されるVJにあわせて村松が伸びやかな歌声を響かせ、ステージを青と赤で二分にしたライティングが印象的だった『ツバメクリムゾン』では一際大きな歓声が上がった。

まだ5曲しかやってないですけど、もう帰ってもいいくらい満足してます(笑)」と村松はおどけたが、事実ここまでの流れにNothing’s Carved In Stoneというバンドが凝縮されていたと言っても過言ではない。それでもまだ序盤。何せこの日は31曲披露することが約束されており、彼らにはまだまだ素晴らしい楽曲たちがあるのだ。ここからは彼らのオルタナティブな面が顔を出す。初期の作品からメンバーがセレクトした『Cold Reason』と『Words That Bind Us』はどちらも変拍子を用いた楽曲で、楽器陣の巧緻なアンサンブルをまざまざと見せつけると同時に、NCISの持つ熱い部分とクールな部分を同時に感じることができるセクションでもあった。

踊ろうぜ、武道館!」と投げかけドロップした『Brotherhood』では爽やかな風が吹き抜けるような心地よさにオーディエンスも楽しそうに体を揺らす。彼らにとって会場がどこであろうと、セッションを楽しむようにひたすらプレイヤーとしての個性をバチバチにぶつけ合い、化学反応を見せつけることに変わりはないのだ。しかしながら、スクリーンに投影されるVJや、特効や多彩なライティングといった演出がいつもとは違うNCISのライヴを作り上げていたことも事実で、『Stories』で見せたギターリフとレーザーライトの明滅がリンクするような演出もその一つと言えるだろう。

当初、NCISというバンドは村松と生形の間で英語詞の曲をやろうと決めていたという。そこからバンドに日本語詞の楽曲が増えるまでにそう時間は掛からなかったが、そうやってバンドとしての考えをアップデートして柔軟に変化していけるしなやかさもまた彼らの魅力だ。そんな日本語で歌われた『村雨の中で』や『Walk』をもってストレートなメッセージがオーディエンスへと届けられ、さらにその『Walk』のアウトロで高々とトランペットの音色が響く。すると、日向と親交の深いSOIL&“PIMP”SESSIONSのタブゾンビがゲストとして登場し、トランペットソロを披露。その後もタブゾンビをフィーチャリングしたスペシャルバージョンで『Inside Out』を演奏すると会場からは大きな拍手が送られた。

ライヴは中盤戦。生形の繰り出す重厚なリフに、日向と大喜多による鉄壁のリズム隊がファットなグルーヴを生み出すと『In Future』を投下。臨戦体制となった村松はハンドマイクでステージを練り歩く。こうしてスケールの大きさを見せつけながら、日本武道館という空間に充満させた熱量はアンセミックな『きらめきの花』にて爆発する。それは軽やかで多幸感溢れる、村松が言うようにまさしく“でっかい花”が咲き誇るような瞬間であった。

Nothing’s Carved In Stoneというバンド名は、旧約聖書におけるモーゼの十戒にて登場する“行ってはいけない10の規則が彫られた石版”からインスピレーションを受け、その真逆である“何をやってもいい/戒めのない”といういわばバンドのモットーともいえる言葉が由来となっている。それを踏まえて、武道館のスクリーンに映し出されたまっさらな石版に『Diachronic』の歌詞が彫られていく演出を見ると感慨深いものがあった。15年前、何も書かれていなかった石版には今では多くの歴史が刻まれている。

後半戦、その温かなメロディーに酔いしれた『Shimmer Song』、メンバーの個性が爆発する『Milestone』、キラーチューン『Like a Shooting Star』と立て続けにお見舞いすると、村松が口を開いた。

自分たちの積み上げてきた人生を詰め込んで詰め込んで、すごい好き勝手にやってたなっていう思い出だったんだけど、めちゃめちゃこだわって、めちゃめちゃ洗練された曲が多くて、過去の自分たちに感謝しました」―――

バンド名の由来の通り、何にも縛られず、誰か一人がイニシアチブを取るわけではなく、メンバーそれぞれがイニシアチブを取り個性をぶつけ合ってきたからこそ、NCISは常に新しさを求め様々な音楽性を飲み込みながら、それをあくまで四人で演奏することを基盤としたバンドというフォーマットに落とし込んできた。そして、それが何にも似ることのない、もはや言葉では形容することのできないNothing’s Carved In Stoneというジャンルを作り上げたのだろう。

さらに村松はこう続けた。

音楽やっててよかった。15年やっててよかった。Nothing’s Carved In Stoneです!“音楽”鳴らしていきます。よろしくお願いします!!」―――

そう高々と宣言して演奏された『Music』には彼らが積み重ねてきた15年間の矜持を強く感じるとともに、<僕らが鳴らすミュージック いつか誰か救えるような 僕ら不意に不安になるけど 大丈夫僕らは共に行ける>と歌っているように、そこには彼らの音楽を理解し、ともに歩んできた最高のファンがいるのだということも改めて再認識することができた。

ここからはラストスパートと言わんばかりにファストナンバー『You’re in Motion』でギアを上げたのち、再び登場したタブゾンビを交え『Spirit Inspiration』『Idols』を再構築。とりわけ『Spirit Inspiration』での日向のベースとの熱いソロバトルは圧巻であった。そして、「大切な曲です。リクエスト1 位の曲やります」と『November 15th』をプレイ。彼らにとって特別な曲であるこの楽曲で、吹き上がる煌びやかな紙吹雪に光が反射して生み出した絶景は間違いなくこの日のハイライトであったし、そこから間髪入れずに彼らの始まりの曲である『Isolation』へとなだれ込む展開にも胸が熱くなる。そして、本編ラストとして初期の名バラードである『BLUE SHADOW』を歌い上げて幕を閉じた。

アンコール、再びステージに舞い戻ったNCISの面々をフロアは大きな拍手で出迎えると、村松が「こんな特別な15周年で、こんだけお客さん集めておいて何も喋らない気ですか?リーダー!」と生形へナイスパスを放つと、このバンドの首謀者である生形が口を開く。

16年前に下高井戸のドトールでひなっち(日向)と二人で“めちゃくちゃかっこいいバンド作ろうぜ!”って言って、すぐにオニィ(大喜多)に声掛けて、最高のボーカリストを見つけるのに半年かかって(笑)拓を見つけて、誘って、それから15年。本当に光栄です。ありがとう。15年の間に世の中はすごく変わって、人と人の付き合いが希薄になってきていると思っていて。それはそれでしょうがないんだけど、俺らは自分の意志を曲げず、流されず、これからもこうやって一対一の付き合いをしていこうと思うので、これからもNothing’s Carved In Stoneをよろしくお願いします」―――

それを受け、村松はこう続ける。

メンバーみんな同じように思っていると思うんですけど、色々背負ってるものがある四人が集まってNothing’s Carved In Stoneという名前をつけて、一つのファミリーとして同じ釜の飯を食って、駆け足でいいことも悪いことも、酸いも甘いも味わって、喧嘩もして、意思疎通ができるまでになりました。15年やって、きちんと一つの生命体になれたと思っています。こんなに素晴らしいメンバーとバンドをやれていることに感謝しつつ、これからもNothing’s Carved In Stoneをやっていきたいと思います」―――

そして、「生まれ変わって、もっともっと先まで行きたいと思っています!」と高らかに言い放ち『Around the Clock』と『Sunday Morning Escape』という初期の人気曲を演奏。これにて公約であった31曲を無事に完遂したわけだが、彼らはさらにこの日の最後にとっておきの新曲である『Dear Future』を披露。シンプルな構成に筋骨隆々でどっしりとした正統派のロックサウンドをあえて今鳴らすことの意味を感じずにはいられない。16年目の初期衝動とも言えるNCISなりの意思表示だったように思う。こうして、彼らは未来に思いを馳せ、この特別な夜の幕を下ろした。

Nothing’s Carved In Stoneというバンドはいつだって自らの手で未来を切り拓いてきたバンドだ。その彼らが最新曲に“親愛なる未来へ”と名付け、まだ見ぬ未来に対して希望で満ち溢れているのがなんだか嬉しかった。リスペクトしあえる仲間と、さらなるロックを追い求めようとするその姿は、結成16年目を迎えてもなおロックに魅せられ、ロックを愛するキッズそのもの。<未来も夢も希望も愛で埋め尽くして>とは『Dear Future』の一節だが、ロック、自身のバンド、メンバー、ファン、挙げたらキリがないほどの愛を抱えて、NCISはまだ見ぬ未来を切り拓いていく。そして、その愛さえあれば彼らの未来は明るく照らされ続けるのだと確信した夜だった。

取材・文:オザキケイト
Photo:西槇太一、河島遼太郎

《SET LIST》
  1. 1.Out of Control
  2. 2.Deeper,Deeper
  3. 3.YOUTH City
  4. 4.ツバメクリムゾン
  5. 5.Chain reaction
  6. 6.Cold Reason
  7. 7.Words That Bind Us
  8. 8.Sands of Time
  9. 9.Brotherhood
  10. 10.Stories
  11. 11.Gravity
  12. 12.村雨の中で
  13. 13.Red Light
  14. 14.Walk
  15. 15.Inside Out
  16. 16.Everlasting Youth
  17. 17.In Future
  18. 18.きらめきの花
  19. 19.Diachronic
  20. 20.Shimmer Song
  21. 21.Milestone
  22. 22.Like a Shooting Star
  23. 23.Music
  24. 24.You’re in Motion
  25. 25.Spirit Inspiration
  26. 26.Idols
  27. 27.November 15th
  28. 28.Isolation
  29. 29.BLUE SHADOW
  30. (ENCORE)
  31. 30.Around the Clock
  32. 31.Sunday Morning Escape
  33. 32.Dear Future

村松拓(Vocal/Guitar)使用楽器・機材紹介

Nothing’s Carved In Stone

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