4月中旬から下旬にかけて東名阪ツアー「新山詩織 live 2022 ~New~」を開催した新山詩織。本稿では、4月17日(日)に行なわれた東京・日本橋三井ホールでのライブの模様をレポートする。
オープニングアクトにRan、スペシャルゲストに山崎あおいを迎えてのツアー初日。まずは、福岡出身で21歳のシンガーソングライターであるRanが、最新ミニアルバム『世存』からの『17』『そんなこと』『夜逃げ』などを西野恵未(Key)と共に披露。「新山詩織さんにすごく憧れていて、音楽番組を録画してよく観ていました」とこの場に立てる喜びを伝えたり、切なさや憂いの薫る凛とした歌声を聴かせたりとステージをいい感じに温め、確かなポテンシャルを印象づけてライブ本編へと繋いだ。
開演時刻となって場内が暗転、SEなしで静かにステージへ現れた新山詩織。黒いワンピース姿の彼女がアカペラ&ハンドマイクで歌い出した、バンマスの小野塚晃(Key)のエレピ伴奏のみできりりと届けた1曲目の『Smile for you』には、さながら決意表明のような清々しさが感じられた。“嘘のない言葉を送ろう”“今ここで終わりたくはないから”といった歌詞にも、活動休止期間を経て再始動した自身の素直な気持ち、新たなスタートを切りたいという希望が滲んでいる。
「今日は集まっていただき、本当に本当にありがとうございます。初めての会場でこうやって歌を歌えて、みなさんとまた直接会えて、心から幸せです。最後まで楽しんでいってください。よろしくお願いします!」と挨拶したあとの『New』以降は、森光奏太(Ba)、上原俊亮(Dr)、イシイトモキ(Gu)と、すべてのサポートメンバーがイン。軽快なバンドサウンドに加え、キラキラと輝く照明の効果、客席のハンドクラップも相まって、ホール内の空気が瞬く間に華やいだ。
公演タイトルとなったナンバーに続いては、アーバンなアレンジが光る『気まぐれ』、新山がエレキギターを弾き、内省的なリリックを歌いながら自分の現在地を確認しているような趣があった『きらきら』『分かってるよ』と、2ndアルバム『ハローグッバイ』(2015年発表)の収録曲を披露。抑揚の効いた優雅なアンサンブルの中で、彼女のボーカルもどんどん調子が上がっていく。
「いやー、すごくライトが直接ぱあっと当たっていて。太陽の光を浴びているみたいです。(夜なので)太陽じゃなくて月か(笑)」と、ひさびさにバンドを迎えた公演だけにまだ緊張した様子で話す新山だが、彼女が敬愛するイギリスのシンガーソングライター、ルーシー・ローズのカバー『Shiver』を再び小野塚とのデュオで聴かせた中盤からは、よりライブを楽しむ姿勢も窺えた。そして、素晴らしい歌声と切ないメロディを通してルーツを感じ、いい余韻がしっとりと残ったところで、お待ちかねのスペシャルゲストが登場。山崎あおいがステージへ呼び込まれる。
「まさか、自分のライブにあおいちゃんを呼べる日が来るなんて……という感じです」(新山)、「友達としての関係はけっこう長いもんね」(山崎)、「そうだね。初めて会ったのがいつだっけ?」(新山)、「詩織ちゃんがたぶんハタチ過ぎたくらいで、“お酒飲める年齢になったので行きましょう!”みたいなのが最初だったかな」(山崎)
早速、和やかなトークを繰り広げた両者。そんな流れから小野塚を入れた3人編成(新山はコーラスを担当)でコラボしたのは、山崎のオリジナル曲『ともだち』だった。山崎曰く「詩織ちゃんをはじめ、同時期にデビューしたギターを持って歌う女の子たちとの関係性とか、エモい気持ちを詰め込んで書いた曲」とのことで、ライバル心や憧れの目線も織り交ぜられたこの曲は、再始動を遂げたばかりの新山にとてもいい刺激を与えたのではないだろうか。
さらに、この日のために書き下ろしたという新曲『Free』(作詞:山崎あおい/作曲:新山詩織)をバンド形態で演奏。同曲もお互いのキャリアを踏まえて作ったそうで、「いろんな壁を乗り越えてきたからこそ、ここからまた羽ばたいていけたらいいなと。新たな気持ちで前に進んでいきたくて。それをあおいちゃんに伝えて詞を付けてもらいました」と新山は語る。交互にボーカルを取ったり、共に声を重ねたり。“I’m free ふたりなら どこまでも きっと”と見つめ合いながらゆったり歌う2人のハーモニーが美しい。
大きな拍手で送られて山崎がステージを降り、バンドメンバーの紹介を終えると、いっそう気合が入ったのか、“私の自由がここにあるの”と凛々しく『絶対』を歌い切った新山。「ひさしぶりにやる曲です」と始まった『シャボン玉みたいに』では、イントロから客席いっぱいにサイリウムが輝き出すというサプライズも! 実はこれ、本人に内緒で進められていたスタッフ発案+オーディエンス協力による企画で、目の前に広がるその光景、「すごくきれい! ありがとう!!」と驚く彼女のピュアなリアクションは、この日のハイライトのひとつになった。
ライブ後半は、人の温もりを思い出してホッとできる『ミルクティー』、新生活が始まるシーズンの寂しさを癒す『ワンルーム』、コロナ禍におけるもどかしい想いを浮遊感のあるアレンジに乗せた『Do you love me?』など、ミニアルバム『I’m Here』からの新曲を中心に、きわめてシンプルな音数でアプローチ。春の木漏れ日のようなナチュラルな歌声とふんわりとした佇まいがそこに重なって芳醇な味わいを生み、一段と着飾っていない、等身大の新山詩織を見せてくれた。
「こないだのライブ(2021年12月12日)がちょうど私のアーティストデビュー日で、今日はメジャーデビュー日になります。記念の日にこうやってたくさんの人と会えて、歌えるということがすごく嬉しいです。本当にひさびさのバンドでのライブで、たぶん4、5年ぶりなのかな。後ろから来る音の感じと声が前にワーッと行く感じが、やっぱりアコースティックとはぜんぜん違いますね!」
ゆっくりとライブの手ごたえを噛み締め、最新作『I’m Here』については「“そのときその場所にいる自分”をテーマに作ったので、それぞれの場所で曲を聴いて何かを思ってくれたら、ちょっとでも寄り添えたらいいなという気持ちです」と話す。
本編ラストは、『I’m Here』の中でも最も生々しく自分自身の感情をダイレクトに書いた『帰り道』。彼女の抱える複雑な心模様をシューゲイザー的な轟音ギターサウンドに昇華させる、これまでにはなかったアレンジで新鮮な表情を覗かせ、大盛況のうちにステージを後にした。
ニューTシャツに着替えて再登場したアンコールでは、オープニングアクトを務めたRanとスペシャルゲストの山崎あおいを加えて、ザ・タイマーズの『デイ・ドリーム・ビリーバー』を計7人でセッション。ピースフルなムードいっぱいの空間で、それぞれのボーカリストの歌声が美しく映える。なんとも贅沢な一夜限りのカバーだ。
そして、最後の最後は『Looking to the sky』。「メジャーデビュー曲の「ゆれるユレル」よりも前に歌詞を書いた、今でも大事な大事な曲です」という、“ダメそうな時もあるけど 明日の空に 負けないように”と誓うブルージーなナンバーで、節目のライブを締め括った。 バンドを従えてのパフォーマンスで新たな一歩を踏み出し、ひと回り成長した姿が見られたこの日のステージ。初披露された山崎あおいとの共作曲『Free』の音源化を含め、デビュー10年目の新山詩織の活躍がとても楽しみになった。「またすぐに東京でライブできるようにがんばります」とのことだったので、次のアクションにも期待したい。
取材・文:田山雄士
ライブ撮影:達川範一(ビーイング)
機材撮影:小野寺将也
《SET LIST》
- Ran
- 1.17
- 2.おれんじ
- 3.そんなこと
- 4.夜逃げ
- 5.華たち
- 新山詩織
- 1.Smile for you
- 2.New
- 3.気まぐれ
- 4.きらきら
- 5.分かってるよ
- 6.Shiver(Lucy Roseのカバー)
- 7.ともだち(山崎あおい/コーラス:新山詩織)
- 8.Free(新山詩織&山崎あおい)
- 9.絶対
- 10.シャボン玉みたいに
- 11.ミルクティー
- 12.四丁目の交差点
- 13.ワンルーム
- 14.Do you love me?
- 15.帰り道
- <ENCORE>
- 1.デイ・ドリーム・ビリーバー(新山詩織&山崎あおい&Ran/ザ・タイマーズのカバー)
- 2.Looking to the sky
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