新山詩織と一緒に気持ちを解き放ちながら揺れ続けていた。

最新4th ALBUM『何者~十年十色~』を手に、新山詩織は東名阪ツアーを実施。ファイナル公演を、7月21日にSHIBUYA PLEASURE PLEASUREで開催。O.A.にRanを迎えて行った当日のライブの模様を、ここにお伝えしたい。

オープニングアクトで出演したRan。使用したギターはYAMAHA LJ36 ARE。

演奏陣の奏でる優しい音楽の誘いに乗って、新山詩織がゆっくりと舞台へ姿を現した。エレピの音色が軽やかに弾むのにあわせ、楽曲は『Spotlight』へ。フロア中の人たちの視線というスポットライトを浴びながら、新山詩織はクールに、でも少しずつ言葉や歌声に熱を加えながらお洒落なムードで歌いだした。歌詞は、不器用な自分の生き方を肯定してゆく内容だ。ネガティブな自分を認めてゆく様も彼女らしいが、どこか毒々しさも持った感情をスタイリッシュな音に乗せてゆくところがイカしている。自らの気持ちを解き放つように歌う姿が、眩しく見えていた。

新山のエレキギターはGibson Memphis Historic Series 1963 ES-335 TDC VOS (Sixties Cherry)。

エレキギターを爪弾く新山詩織の演奏から、次の曲へ。穏やかな、優しい音色の導きによって流れだしたのが、『絶対』。彼女はときにマイクをギュッと握りしめ、心の奥底から言葉を導きだすように「もう どうしようもない 分かってるよ でも」と歌っていた。どうにもならないけど、でも、絶対に心の折れない生き方を新山詩織は呟くように、少し吐息交じりの声で一人一人の胸に届けてくれた。その歌に、彼女が示した強い意志に気持ちを寄り添え、弱い自分を強く染めあげたい。けっして投げやりになることなく、ジレンマ交じりに強い言葉を吐き出しながら気持ちを前へ前へと突き動かすように歌う姿へ、いつしか引き寄せられていた。

アコギに持ち替えた新山詩織が次に歌ったのが、『ワンルーム』。ゆったりとした演奏に触れていると、心地好い微睡みも覚える。一人暮らしのワンルームでの寂しい日常と温かな実家への思い。そこへ、自立して生きる女性のいろんな心模様を重ね、彼女は歌っていた。温かい歌声と音色にどこかほっとするような安心感を覚えていたのは、みんなのいるこの場所こそが自分にとっての家族が住む家と同じだからと伝えていたからかも知れない。

ドラムのカウントを合図に、『夜の魔法』へ。新山詩織の歌声が、心地好く駆ける演奏と重なり合い、軽やかに弾んで聞こえてきた。彼女がライブを通してかけてくれた歌の魔法が気持ちを軽やかに弾ませる。心が華やぐ、その感覚が心地好い。

アコギを置いた新山詩織は、ピアノの演奏だけを背景に『I can’t tell you』を歌いだした。穏やかに波打つ音符の川の流れに身を任せ、彼女は、ピアニストの表情を見つめながら思いを紡ぐように、美しいファルセットも用いて心の声を零すように歌っていた。破裂したい気持ちをグッと抑えながら歌うその声へ、あえて強い感情の色を塗り重ねてゆくピアノの演奏が、さらに切なさを醸しだす。

エレピとアコギを従え、ふたたびアコースティックなスタイルでの演奏へ。トリオ編成で奏でたのが、バラードの『あなたに』。原曲からアレンジをガラッと変え、あえて音数を絞ったシンプルな編成へ。新山詩織は、今は会えなくなった人への思いを声の手紙にして届けるように歌っていた。”あなた”を思い慕う気持ちが、言葉のひと言ひと言に力を入れて歌うことで、思いがより膨らんで胸に届いていた。とても引き込まれる歌声と演奏だ。視線をずっと舞台に向けながら、零れる言葉の一つ一つを心で掬い取っていた。

アコースティックギターはお馴染みのTaylor 814ceだ。

ふたたびバンド編成に。アコギを携えた新山詩織が披露したのが、『Free』。彼女のアコギの弾き語りから演奏はスタート。気持ちを果てのない空間へ解き放つように、新山詩織は「I’m free」と心軽やかに歌っていた。そこへ、哀愁や浪漫を覚えるギターの音色が寄り添いだす。少しセンチメンタルさも覚えつつ、新山詩織は自らの心も自由に大きな空間へと開放するように歌っていた。

アコギの弾き語りで歌いだした『Do you love me?』では、思い慕う相手へ。そして、自らの気持ちへ問いかけるように、何度も「Do you love…me?」と歌っていた。さりげない、でも、揺れ動く歌声が告白のようにも思えていたからだろう。何度も「Do you love…me?」と繰り返し歌う新山詩織の声に心がずっと吸い寄せられていた。

エレピの演奏をきっかけに始まった『Keep me by your side』では、自分の心の奥へ奥へと灯を求めて歩むように彼女は歌っていた。壊れそうなほどに揺れ動く儚い女性の心模様へ寄り添いながら、その感情へ色を付けるように演奏していたのも印象的だった。途中に口にしたポエトリーのような言葉や吐息のように消えそうな歌声も、この楽曲を彩る大切な要素になっていた。

後ろには新山が使用するアンプOrange Rockerverb 50 Mk III Comboも見える。

ギターの音が激しく鳴り響くのを合図に、楽器陣が荒ぶるセッション演奏を始めだす。ここから一気にテンションを上げようと、新山詩織は「いけますかー!」と声を張り上げ、『Dear friend』を歌いだした。熱を持って一気に駆けだした歌声と演奏に刺激を受けた観客たちが一斉に立ち上がり、熱い手拍子を彼女に向けて送り出す。エレキギターを掻き鳴らす新山詩織自身も、感情のアクセルをグッと踏み込むように歌を届けていた。フロアでは、大勢の人たちが手にしたタオルを高く掲げてはくるくる回し、舞台の上の新山詩織に熱いエールを送っていた。沸き立つ、沸きだす情念。新山詩織自身の感情のボリュームが上がるのに合わせて、フロア中の人たちの手拍子も熱く、高く鳴り響く。いつしかそこには、体感的なライブの景色が生まれていた。互いに熱と熱をぶつけあう。いや、ぶつけあいたいと求めあう感情の高ぶりが生まれていた。

ギターを激しく掻き鳴らす新山詩織の奏でる演奏へ導かれるように、ロックンロールナンバーの『Hate you』へ。躍動的かつ華やかに。でも、毒々しい感情を込めた言葉の数々を、彼女は気持ち高ぶるままにぶつけていた。フロア中の人たちの手拍子もどんどん強さを増してゆく。熱情したその空気がたまらない。

カッティングするギターの演奏に導かれ、フロア中の人たちが手を高く掲げ、これまで以上の勢いで手を叩き出す。そこへ新山詩織が弾む声で『約束』を歌いだした。ブルージーな演奏の上で、新山詩織はファルセットな声色も巧みに用いて、ねっとりとした声で迫ってきた。どこかルーズでブルーズな感覚が恰好いい。つい身体が踊りだす。いや、大きく反らすように身体を揺らしていた。ロックでブルーズなこの香り、たまらなく刺激的だ。

最後に新山詩織が届けたのが、『何者』。アルバムの中でも、とくにメッセージ性の強い歌として印象深く胸に突き刺さった楽曲だ。切れ味鋭いカッティングギターの演奏に乗せ、フロア中の人たちが熱い手拍子を彼女にぶつけだす。新山詩織も、スタンドマイクを両手でガチッと握りしめ、言葉をぶつけるように歌っていた。変われない自分を変えようとするように。たとえ「何者?」と思われようが、変わり者だと思われようと、それが自分らしいのならそんな自分を愛せと自らを叱咤激励するように。そして、ここにいるみんなにも人を真似した自分ではなく、素顔の、本音の自分を愛し、それを掲げて生きようと強い言葉の数々に思いを乗せて伝えていた。途中のセリフパートでは、マイクを握りしめて辛辣な言葉の数々を呟くように吐き出す姿も印象深く瞼に焼きついた。楽曲が進むごとに熱を帯びる歌声と演奏。いつしか会場が、熱い手拍子と熱を発する歌と演奏に包まれ、刺激的な空間に染め上がっていた。

アンコールで、新山詩織はふたたびエレキギターを手にする。弾き語りスタイルで最初に届けたのが、『だからさ』 。「だからさ 今 私と話してるんだ」と惑う気持ちを歌いながらも、彼女の声は、力強く真っ直ぐに胸へ響いてきた。1番を弾き語りで、途中からバンド演奏が加わった途端、楽曲は一気に雄大な様相を呈してゆく。その演奏と歌声に心が引き寄せられ、引き込まれていく。そこにハートフルな思いを覚えていたのは、新山詩織自身の歌声が醸しだしていた空気のせいかも知れない。

最後に新山詩織は、揺れ動く気持ちを解き放とうと『ゆれるユレル』を歌っていた。誰だって、そう。変わりたいと思っても、簡単に変われやしない。そんな揺れ動く思いを、彼女は「変わりたいよ 変われない」や「ゆれるユレルゆれるユレル想いが 動き出せない 今は」と歌いながら、「それでも足掻き続けよう」と、場内中の人たちの気持ちを煽るように歌っていた。曲が進むごとに熱を抱く演奏。アガるこの感覚が、とても心地好い。そのまま最後まで、新山詩織と一緒に気持ちを解き放ちながら揺れ続けていた。

TEXT:長澤智典
Photo:達川範一(B ZONE)

《SET LIST》
  1. 1.Spotlight
  2. 2.絶対
  3. 3.ワンルーム
  4. 4.夜の魔法
  5. 5.I can’t tell you
  6. 6.あなたに
  7. 7.Free
  8. 8.Do you love me?
  9. 9.Keep me by your side
  10. 10.Dear friend
  11. 11.Hate you
  12. 12.約束
  13. 13.何者
  14. <ENCORE>
  15. EN1.だからさ
  16. EN2.ゆれるユレル

和久井沙良(Keyboard)使用楽器・機材紹介

新山詩織

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2013年にメジャーデビューし、2023年デビュー満10周年を迎えた新山詩織。
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10周年記念となる今作は、新山詩織節とも言える心に刺さる歌詞と情感溢れる歌声に加え、新山詩織のこれまでの作品の中でもっともラウドで鋭いギターサウンドと厚みのあるバンドサウンドが重なり合い、まさに10周年の活動の集大成とも言えるアルバムになりました。参加メンバーもこれまでに様々なジャンルの最前線でシーンを作ってきたミュージシャンに加え、次世代のミュージックシーンを担う新進気鋭のミュージシャンも豪華集結。様々な個性が折り重なる万華鏡のような作品が完成しました。

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