現代日本の音楽シーンに新たな風穴をあけるかのように、オーバーグラウンド/アンダーグラウンドの境界や世代間の垣根を越えていく”ライブ”がそこにはあった。

3絃の三味線と4弦のチェロ、二つの弦楽(Strings)が交錯する前代未聞の和洋弦楽ユニット、3x4xS(さしす)。日本を代表する伝統楽器である三味線を奏するのは、数多くの伝統舞台に立ちながら、その正体を明かせない狐面のしゃみお。一方西洋の伝統楽器チェロを奏するのは、日本・オランダ・イギリスで学び、国内・国外コンクールでの受賞歴も持つヌビアだ。

延べ1,700人以上のオーディエンスを熱狂させたツアーの集大成として敢行した、3x4xS JAPAN TOUR「新響地」THE FINAL@2024年4月13日(土)東京・吉祥寺CLUB SEATA。コロナ禍を挟んだことでこの全国ツアーを含む彼らのスケジュールは、当初の想定から大きな変更を余儀なくされてしまったが、「その分我々も実力・発信力・表現力を磨く自己修練の期間、そして三味線とチェロという前代未聞の組み合わせにおけるさらなる表現可能性を深考し、挑戦する期間に充当できた」という彼らの言葉の通り、この日のライブは“3x4xS・フェス”と呼びたくなるほど豪華なサポート・アクトが次々と登場することとなる。

まるで映画のワンシーンを見ているかのようなオープニング映像で会場を沸かし、待ち侘びるファンからの熱いコールと、エレクトロを意識させるSEを身に纏って、主役のヌビアとしゃみおが満を持して登場となる。エッジの効いたビートを展開しながら『3×4×STRIDE』、『TERRITOREAL』、『To The Top』の3曲を続け様にメドレー形式で繰り広げ、衝撃的なデュオ・ユニットが幕を開けた。

今日この空間を共有する「全ての人を楽しませたい!」という、熱い想いをMCで届けて披露したのは『無盡燈 -MUJINTOH-』。ユージ・レルレ・カワグチ(Dr)と、たかと(Ba)を加えての重厚なバンドサウンドでギアを上げながら疾走していく3x4xS。和田新平(Gt)とのアンセムナンバー『Lapis Lazuli』では、よりドラマチックな構成を遂げるとともに、序盤から「らしさ全開」の極上パフォーマンスでオーディエンスを一気に惹きつけていくのだった。待望のサポート・アクトとしてレヴィ・エリファ(にじさんじ)と進藤あまねが登場となると、会場は興奮の嵐となって歓声が吹き荒れ、次元の彼方からのMC参戦に全員が大はしゃぎだ。

雄大さと優雅さとを重ね合わせながら、bataojisan(Pf)が『都忘レ~Nostalgia~』を奏で、より深層へと誘いながら展開したのは『Born To Shine』。黒澤継太郎(Gt)を加えフルメンバーとした3x4xSは、ライブならではの絶妙なアレンジも加えながら、深みと力強さを増大させ、バンドサウンドに一段と磨きをかけていく。沸き上がるオーディエンスのエネルギーを受け取りながら、満面の笑顔を浮かべて躍動する姿は本当に楽しそうで、この日のライブを象徴する印象的なシーンとなってステージを彩るのであった。

普通、三味線とチェロを聴きに行くって言ったら、コンサートホールに行って聴くの?ってなるでしょ。僕らはそれをやめたい」――。「三味線とチェロってもっと色んな楽しみ方があると思うし、もっと色んな可能性があると思ってる」――。オーバーグラウンド/アンダーグラウンドの境界や世代間の垣根を越えて、現在のインストシーンを牽引せんとする彼らのエモーショナルな心模様がオーディエンスをより熱情させ、気持ちが昂っていくのを感じる。

3x4xSが歩みを進め、様々に巡り合わせた結果がこのファイナル公演であり、そうした想いと感謝の中で生まれる歓喜のムードが、この場に集いし人たちに共有され、共鳴していく。ヌビアとしゃみお、それぞれの弟子が奏でた『DE-SHI-SU』が、耽美で麗美な装いを纏って響く。たとえ主役は違えど、そこには奏者と聴衆の鑑賞態度が確かに形成されており、目の前に広がる「音」に込められた想いを感じ取ることで、心が動くのだった。

3x4xSの魅せ場に欠かせないものとして「完全即興セッション」がある。オーディエンスから好きな言葉だったり、フレーズのエッセンスを提供してもらいながら、ピースを組み合わせて創造する、彼らのシグネチャースタイルとも呼べるこれらのパフォーマンスは、3x4xS結成当時からの言わばお家芸であり、YouTubeをはじめとする再生数はもちろん、傑出した技量も相まって、ライブシーンにおいても抜群の盛り上がりを見せる大人気の一幕である。ファイナルにかける情熱を燃やさんとばかりに、この日は「ガチタンバリン」こと、話題沸騰中のレク(アラブタンバリン)奏者、大石竜輔を登場させての最強セッションをスタートさせた。10分以上にも及んだ壮絶かつ濃厚な『即興セッション』は、物足りなさなどを一切感じさせない、自身の覚悟を証明するような、堂々たるパフォーマンスであり、鳴り止まない拍手と大歓声がそれを讃えたのだった。

前半のトリを大人気コンピュータゲーム「スプラトゥーン」からのインスパイアである『Last to Next』で飾った3x4xS。ゲームの大会運営に関わるSplatoonTopPlayersの公式テーマ曲としても採用されたヒットナンバーであり、三味線とチェロにエレクトロの要素を巧みにMIXさせていくサウンドは、一聴で3x4xSの楽曲であることを強く認識させてくれる。そのスタイルを確立するプロセスと、裏打ちされた経験と知識が一体となった見事なプレイ。これが彼らの持ち味であり最高にクールな瞬間なのである。

休憩がアナウンスされ、ここでひとときのブレイクとなるはずだった。が、続けてヌビアはこの日のために手掛けたという、激アツ極上のリミックス『#3x4xSJTTF Special Medley Remix』をフロアへ投入したのである。15分間の休憩中にも余すことなく「らしさ」と「楽しさ」を盛り込む姿には思わず唸ってしまったし、当然のことながら、発した熱を冷ますどころかオーディエンスのボルテージは明らかに上がっている。この日限りの特別な空間を共有し、すべての人を楽しませようと全力投球する3x4xSの真のエンターテイナー性を感じずにはいられなかった。

ブレイクタイムで投下されたホットなリミックスで図らずも昂ってしまったオーディエンスをさらに押し上げるように『3×4×STYLE』で再びフロアを鳴らし響かせた3x4xSは、続く『遊戯三昧-Yuge Zanmai-』、『日本東西烏賊祭-fEstiVVal-』でのめくるめく展開の応酬でリードを広げていく。チェロの重厚さと三味線の疾走感を巧みに操り、EDMやハードコアといったアプローチによってアクセル開度をMAXに駆け抜けていく姿は圧巻の一言だ。巻き起こるアグレッシブなサウンドが会場を一気に飲み込み、猛る気持ちが拳となって上空で炸裂する。三味線奏者の岩田桃楠(Momox)と先述のバンドメンバーで披露した『GLORIA』は、ファン待望のアンセムということもあり、会場の盛り上がりは最高潮を迎えていく。エネルギッシュなサウンドの中にメロディックな要素を取り入れながら、2人の若き三味線奏者が沸き立つ気持ちをぶつけ合っていく。その姿は名実ともに現代シーンの旗手として確固たる存在感を示すかのようでもあり、ファンから溢れ出す熱気と熱狂がそれを証明したのであった。

三味線とチェロという前代未聞のユニットだからこそ、ライブパフォーマンスにおけるバンドの役割は重要で、豪華なメンバーでのライブが叶った喜びをヌビアは嬉しそうに話してくれた。「ロックもメタルもEDMも、ダブステップもトラップもヒップホップもやってみたい」――。ジャンルで括らず、三味線とチェロで仕掛けられる可能性を絶えず探り、「誰もやってないことをやってやる」――。その強い精神性に感化されていく中で、彼らは自身を象徴するかのように、互いの色を活かしながら2曲を切り込んでいった。哀愁を帯びた音色と感情を掻き乱す叫びが混在する『厭世』はエキゾチックと妖艶さを秘めたメタルナンバーであり、『FÉRVIDO』はハードロック的なアプローチの中で“静と動”を調和させ、色鮮やかに音に色彩を持たせながら感情を揺り動かす。演奏陣も2人の沸き立つ気持ちをより一層高めるように、もっともっとと視覚的な要素も繰り出しながらのパフォーマンスを展開し、ファンも最大のハンズアップとヘドバンで渾身の賞賛を送ったのだった。

嬉しいサプライズとして、唐突にプレゼント企画を仕掛けるあたりも3x4xSならではで、こうしたエンタメ性や緩急の付けどころも、ファンを掴んで離さない理由の1つなのだろう。微笑ましく温かな時間を過ごさせてもらった後は、EDMを色濃く反映したセットリストでフロアは再び大いに跳ねることとなる。大人気ゲーム「Apex Legends」からのインスパイアで、APEXカスタム大会(DELTA主催)の公式テーマ曲にもなった『一天万乗 -ITTEN BANJO-』では、一糸乱れぬリズムを刻む三味線の音の刺激の中で、低音楽器と思われがちなチェロがハイトーンに触れながら感情を騒ぎ立てて上昇し、次曲の『When It’s You』は、ゲストボーカル LilyPichu(リリーピチュ)の歌唱部分を三味線とチェロが互いを可憐に引き立て合いながら、フロアをポップに染め上げて身体を縦に弾ませてくれた。

登場してくれたゲストの多様さにあらためて触れたヌビアが「今日はいろんな目的の人が集まっていると思う」とした上で、「皆の中の三味線とチェロの常識をぶち破って、好きになって帰って欲しい!」と高らかに宣言すると、進藤あまねとレヴィ・エリファによるMCで次曲の『鳴動 (feat. 削除)』がアナウンスされた。アートコアを主軸に、幅広いジャンルの楽曲制作を手掛ける、削除(Sakuzyo)とのコラボレーション楽曲であり、重厚なドラムとベース音の中で、3x4xSのエモーショナルでパワフルなサウンドが大きなうねりを伴いながら複雑に絡み合っていく。駆けるしゃみおの三味線に挑むかのように、時にヌビアのチェロも唸りを上げてアグレッシブに映えていく。そんな2人の躍動する姿にあらためて胸を打たれたファンも多かったのではないだろうか。

オーディエンスの笑顔とともに、三味線とチェロの優しさが『Re:Birth』を通じて身体へと流れ込み、音を通じて伝わる幸福感にどっぷりと身を浸すファンたちの心模様が『Our Story』での2人の交わりによって美しく描かれていく。いつまでもこの心地良い音の風に誘われながら身体を預けていたくなる思いを孕ませながら、本編はいよいよクライマックスを迎えていった。

フレッシュな南風を纏わせながら、進藤あまねが『Summertime Memory』で一足先に夏を連れてくる。彼女のイメージカラーであるブルーのペンライトや掲げられたハンズがキラキラと輝く中で、3x4xSはクラシカルなチェロサウンドと三味線をマッシュアップするかの如く組み合わせ、爽快なEDMに仕立て上げていく。歌詞に込められた青春感満載の胸の内を音に乗せながら歌い、踊り、弾む。ひと足早いトロピカルな夏気分にフロア中がはしゃぎ、気持ちを熱く騒がせた。レヴィ・エリファ率いる『最小律アゲンスト』では、艶やかな美しさを携えた歌声と、麗美ながらも攻撃的でソリッドな弾奏が観客たちを大いに刺激する。沸き立つ感情を声に変えてぶつけるレヴィ・エリファとオーディエンスの熱気とがフロア中に渦巻き、この空間を熱狂という景色に染め上げながら、壮大なフィナーレでの幕引きとなった。

鳴り止まない拍手にシグネチャースタイルの即興パフォーマンスで応え、ライブを締め括った3x4xS。残る体力の全てを放出する勢いの演奏を推進力に、全員が輝き本当に楽しそうな表情なのが印象的だった。バンドメンバーに対する絶大な信頼のもと、伸び伸びとプレイできている彼らの姿は美しく、実に幸せそうで、3x4xSならではのプレイスタイルで最後まで会場を沸かせ続けたのだった。

3時間にも及ぶ盛大な空間で、音楽とエンタメによる幸福感と自由さを提供してくれた3x4xS。USAツアーを敢行するという嬉しいニュースも相まって、彼らの重ねてきた出会いと歩みが昇華し、さらなる高みへ羽ばたいていくことは確実と言えよう。今回のライブのダイジェストが彼らのYouYubeチャンネル「3x4xS (SA-SHI-SU)」で公開されている。ライブを観られなかった人たちはもちろん、今後何かのきっかけで3x4xSを知ったすべての人に、この日の断片を是非とも垣間見て欲しい。

取材・文:廣瀬航
Photo:バルティ / 神無

《SET LIST》
  1. 1. 3×4×STRIDE
  2. 2. TERRITOREAL
  3. 3. To The Top
  4. 4. 無盡燈 -MUJINTOH-
  5. 5. Lapis Lazuli
  6. 6. 都忘レ~Nostalgia~
  7. 7. Born To Shine
  8. 8. DE-SHI-SU
  9. 9. 即興セッション
  10. 10. Last to Next
  11. 11. #3x4xSJTTF Special Medley Remix
  12. 12. 3×4×STYLE
  13. 13. 遊戯三昧-Yuge Zanmai-
  14. 14. 日本東西烏賊祭-fEstiVVal-
  15. 15. GLORIA
  16. 16. 厭世
  17. 17. FÉRVIDO
  18. 18. 一天万乗 -ITTEN BANJO-
  19. 19. When It’s You
  20. 20. 鳴動 (feat. 削除)
  21. 21. Re:Birth
  22. 22. Our Story
  23. 23. Summertime Memory feat. 進藤あまね
  24. 24. 最小律アゲンスト feat. レヴィ・エリファ
  25. EN. 即興セッション

しゃみお(三味線)/ ヌビア(チェロ)使用楽器・機材紹介


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