TEXT:長澤智典
PHOTO:ATSUKI IWASA
ロックンロールは、魔法だ。その人の理性を消し去り、本来あるべき姿に塗りかえ、本能を引き寄せる魔法を持っている。その甘い魔法を仕掛けてきたLAZYgunsBRISKYの歌や演奏へ、このまま嬉しく溺れていたい。LAZYgunsBRISKY、活動休止前ライブレポート。
LAZYgunsBRISKYが活動休止を発表したのが、2021年11月22日のことだった(*)。理由が理由なだけに、LAZYgunsBRISKYの未来を見据えれば正しい判断だ。長い長いバンド人生を歩むうえで必要なLucyの療養と、他のメンバーたちの休息の期間。何時かの日のための長い休みに入る前の最後のひと暴れをしようと、LAZYgunsBRISKYは1月22日(土)代官山SPACE ODDの舞台に立っていた。タイトルへ記された「活動休止前ラストワンマンライブ”The Essential 2006-2022″」。その名の通り、LAZYgunsBRISKYは16年間の活動の歩みを集大成したライブを、この日見せてくれた。Lucy・Yuko・Azu・Moeの雄姿を、ここにお届けしたい。
* https://lazygunsbrisky.com/news/2021/11/22/4547/
心地好い緊張感に包まれた場内。Azuのコーラスを受け、Lucyが優しく歌いだす。そこへ絡むYukoのざらついたギターの音。メンバーたちの感情が少しずつアガるごとに演奏はパワーを増してゆく。冒頭を飾ったのが、1stミニアルバム『”Catching!”』に収録されていた『Pretending』だ。メンバーの感情のギアがグッと上がるのに合わせ、演奏もざらついた音圧を上げてゆく。緩急巧みに活かした演奏がフロア中に心地好い緊張感を生み出す。スリリングなのに、とてもエモーショナルだ。その歌声や演奏に心がすーっと惹かれてゆく。同じように感情もアガりだす。
野太いベースの音が唸りを上げた。次に演奏したのが『Navy Star』。この日のライブは、前半を2012年5月12日に解散するまでのLAZYgunsBRISKYの曲たちで。後半は、 2015年5月12日に復活して以降の楽曲を軸に据えた形で進んでいった。その姿に懐かしさを覚える人から、復活後にLAZYgunsBRISKYに出会った人たちには、奏でる曲たちへ新鮮さを覚える人たちもいただろうか。舞台の上から放たれるのはエネルギッシュなのに、心を嬉しく奮わす緊張感だ。心臓をチクチクと刺激する、その妖しい魔性なロックが興奮を呼び起こす。
唸りを上げて演奏が走り出した。いや、爆音を響かせ、揺れ動く感情のままに音をぶちまけだしたというべきか、『but I know』が嬉しく身体をシェイクさせる。いつの間にかフロア中の人たちが、LAZYgunsBRISKYが揺さぶるように突きつける音楽の衝動に煽られ、騒ぎだしていた。もっともっと興奮をくれ。身体を熱くシェイクさせる歪んだ音の刺激で理性を壊してくれ。今夜は、ヤバいロックの衝撃にどっぷり酔いしれたい気分だ。
「2006年、LAZYgunsBRISKYを結成。大まじめに怠惰なバンド。よぼよぼになっても、立てなくなってもロックンロールするバンドだ。解散、復活、メンバー交代、活動休止、いろいろあるバンドだ。我々はどんなときも、ただただロックンロールを掻き鳴らし続けてきた。ただひたすらに全力でロックンロールを掻き鳴らし続けてきた。”Catching!”のレコーディングでベンジーが私に言ってくれた。「何のためでもなく歌うんだよ」。生涯私はその言葉を忘れない。ただ、この曲だけは、私は私のために歌い、あなたは私のために歌ってほしい」(Lucy)
豪快な音の唸りに身を任せ、Lucyが『Song for me』を高らかに歌っていた。轟音の渦の中で酔いしれるように、沸き立つ気持ちを吐き出しながら、Lucyはロックンロールの海に溺れることをみずから楽しんでいた。それは、他のメンバーたちも、観客たちも一緒だ。床をガンガン踏み鳴らし演奏するAzuの姿もイカすじゃない。理屈なんかどーでもいい。身体が熱狂を求めるなら、演奏の渦の中へ身を預け、沸き立つままに歌い叫べばいい。それが歌うことの、音楽を楽しむという本能だ。
ザクザクとした荒々しい音が響きだす。その音に触れた人たちを深い奈落の世界へガンガン落とすように、LAZYgunsBRISKYは『Here we go』を歌い、演奏していた。ブルーズでヘヴィなロックンロールが、Lucyの歌声が、観ている人たちを奈落の世界へどんどん引き込み、心地好い興奮の渦の中へ溺れさせていった。
タンバリンを手にしたLucyが、『Q』の演奏に合わせ叩き鳴らす。ルーズでブルーズなロックミュージックに触れていると、心は、ロックが自由を謳歌していた時代に飛んでいた。スリリングな音の衝撃へ導かれるままに、感情を揺らしていたあの時代の空気をLAZYgunsBRISKYの姿を通して感じていた。
Moeのドラムロールを受け、YukoとAzuがセッション演奏を始めた。互いに顔を見合せ、放つ音を重ねあうことを楽しむメンバーたち。そのセッションは、次第に『Goodnight』へ。心地好いグルーヴの中へLucyも交じり、マジカルな雰囲気も匂わせる姿を見せながら、エモーショナルな歌で見ている人たちを酔わせてゆく。すげぇ心地好い。どんどん感情がアガってゆく。フロア中の人たちが大きく手を振り上げ、身体を揺らし続けるのも納得だ。このまま熱いグルーブロックに浸り続けたい。
ふたたび演奏は、熱い唸りを上げ走り出した。カラッとした開放的なロックンロールが、アッパーな気分のまま観客たちを心地好い世界へ連れてゆく。『WANTED!!』、スケール大きく解放感を抱いたとても大陸的なロックナンバーだ。彼女たちの誘いに身を預け、本能が求めるままに心の中で声を上げ、身体を大きく揺らし、飛び跳ね続ける観客たち。ノンアルコールで、こんなにも心地好くハイにトリップ出来るとは。最高に刺激的なロックンロールが、ここには生きていた。
メンバーそれぞれが質問に答える映像を受け、ここからは復活後のLAZYgunsBRISKYのライブへ。波の音と海鳥たちの鳴き声が響く場内。ふたたび舞台に姿を現したメンバーらはゆったりと、でも、野太い音をフロア中へ染み渡らせるように演奏を始めた。そこへ優しく温かい歌声を重ねるLucy。LAZYgunsBRISKYは『The Sea』を通し、彼女たちの中にあるハートフルな面を見せながら迫りだす。甘い音楽?けっしてそんなことはない。母性を覚える温かい歌声や演奏の中にも、やはり4人の強い意志と秘めた野生の逞しさを覚える。雄大な音へ心地好く包まれながら、今は、身も心も彼女たちに委ねていたい。
ザクザクとしたギターの音が鳴りだした。Yukoの奏でるギターの音がリズム隊の演奏に乗り走り出すのに合わせ、Lucyも気持ち良さそうにエモーショナルな歌声を重ねだす。『ROLL OUT』だ。メンバーみんなが弾む音を重ねあわせ、音に酔いしれることを楽しんでいた。沸き立つ気持ちへ導かれるまま、歌声を上げ、身体を揺らし続ければいい。楽しいを、存分に味わえばそれでいい。
「これまでもこれからも新しいステップをどんどん登っていくつもりです。一歩踏みださないことには、そこに道があるかわからないので、私たちはそこを踏みだそうと。それこそが、わたしたちの『Riot』」(Lucy)
『Riot』が飛びだした。跳ねた音に乗せメンバーがテンションを上げれば、フロア中の人たちも心地好く身体を揺らし、アッパーな演奏に身を任せていた。唸りを上げる演奏に触発された観客たちが飛び跳ねれば、Azuも楽しそうに跳ねながら演奏してゆく。Yukoのギターも感情が導くままに旋律を描き、楽曲にアガる衝動を塗り重ねていく。
Yukoのギターのストロークへ寄り添うように、Lucyが『Dress to kill』を歌いだす。メンバーらの演奏が次々と重なるのを合図に、楽曲は火を噴くように走り出す。ドライブする楽曲の上で、見ている人たちを射抜くような視線と歌声を魅力に、Lucyが舞っていた。ねっとり絡みつく歌声が、とても心地好い。このままずっとLAZYgunsBRISKYの奏でる音と絡み合いながら、高ぶり続けていたい。
ヒステリックかつエモーショナルな音色を響かせながらLAZYgunsBRISKYが届けたのが、『DIVE』。アガり続けるエモい演奏の上で、凛々しい表情や歌声を魅力に、観客たちへ挑みかかるLucy。メンバーそれぞれが、観客たちを歌声や演奏で挑発してゆく。その誘いを受け、フロア中の人たちが高く手を振り上げ、身体を大きく揺らし続けていた。感情のストッパーを壊し、沸き立つ想いのままに歌いあげるLucy。彼女のテンション高い歌声や感情を、フリーキーな音で煽る演奏陣。ヤバいくらいに刺激的なライブだ。
MCでLucyは、この日のライブを行えたことへの感謝の気持ちを熱く述べていた。「我々4人はポジティブな気持ち。日を追うごとに強い気持ちが増していた。強い気持ちは何にも勝るなと思っているからこそ、みんなにもポジティブな笑顔だけを持って帰ってほしいなと思います。今日というライブがあなたの一部になったらいいな。そんな気持ちを込めてあなたに贈ります」(Lucy)
演奏したのが、活動休止を控えた2021年12月に配信リリースした新曲の『So What?』。今のLAZYgunsBRISKYの想いを濃縮したこの楽曲は、感情をハイへ導く刺激的かつ極上なダンスロックナンバー。4人はダンサブルな演奏に乗せ、とても挑発的な姿を示していた。フロアでは、ただ無邪気に踊り騒ぐ人たちがあふれていた。舞台の上の4人は妖しい魔性のダンスクイーンと化し、観客たちの理性をどんどん奪い去り、興奮という魂だけを注ぎ込んでいった。
さぁ、もっともっと興奮や熱狂という宴の中へ溺れようか。LAZYgunsBRISKYは『The Rule』を突きつけ、観客たちを熱く挑発してゆく。高ぶる気持ちを熱情に変え、このままアガるところまでアガっていけと煽るように、LAZYgunsBRISKYは『The Rule』を通してロックンロールが導く心の開放を見せていった。Lucyに煽られるまま、大きく手を振り上げ、メンバーらと一緒に跳ねながら、ここをフリーダムな世界へとみんなで塗りかえようじゃないか。それこそが、ここに生まれた自由という音楽の姿だ。
先に生まれた熱いウネリをさらに熱く大きく膨らませるように、LAZYgunsBRISKYは『Kiss me』を演奏。メンバーみんな、思いきり歌いながら演奏することを楽しんでいた。いや、そうしたくなるくらいにロックンロールの魔法が、自分を、見ている一人一人を、甘い衝動に溺れる祭り人に塗りかえていった。ロックンロールは、魔法だ。その人の理性を消し去り、本来あるべき姿に塗りかえる、本能を引き寄せる魔法を持っている。その甘い魔法を仕掛けてきたLAZYgunsBRISKYの歌や演奏へ、このまま嬉しく溺れていたい。
最後にLAZYgunsBRISKYは『Dramatic』をクールに、でも、思いきり熱を孕んだ演奏と歌声を突きつけ、フロア中の人たちを無我夢中で躍らせるクレイジーでハイな音楽ジャンキーに変えていった。この熱狂と興奮をもっともっと感じ続けていたい。そんな欲求をたっぷりと身体中に、意識の奥深くまでLAZYgunsBRISKYは注ぎ込むライブを、この日見せてくれた。その続きが、何時になるのか今はまだわからない。そのもどかしさを抱えながら、少し長い旅路にLAZYgunsBRISKYは旅立つ。その欲求、これからどうやって満たそうか…。
アンコールで演奏したのが、『Hello, Again!』。Lucyの歌う「Yes We Are」の声に合わせ、気持ちをウキウキとしたアッパーな気分へ導くロックロンールに乗せ、フロア中の人たちが身体を揺らし、その場で飛び跳ねていた。気持ちをHappyへ導く音楽に身を任せ、無邪気な笑顔になれるこのひとききを、ワクワクが止まらないこの一瞬一瞬を、LAZYgunsBRISKYと一緒に分かち合っていた。
この続きは、いつになるかはわからない。だけど彼女たちはかならず戻ってくるからこそ、そのときを、今は待ち続けようか。歌い終わり、足が痺れて立てなくなったLucyの姿へ、彼女がすべての気力を吐き出した姿が重なって見えていた。
《SET LIST》
- 1.Pretending
- 2.Navy Star
- 3.but I know
- 4.Song for me
- 5.Here we go
- 6.Q
- 7.Goodnight
- 8.WANTED!!
- 9.The Sea
- 10.ROLL OUT
- 11.Riot
- 12.Dress to kill
- 13.DIVE
- 14.So What?
- 15.The Rule
- 16.Kiss me
- 17.Dramatic
- EN1.Hello, Again!