どのアーティストにとっても“特別”と呼べる会場があるだろう。それはファンにとっても同じで、“この会場でのライヴは必ず抑えておきたい”と思うのもまた然りである。本編中のMCで村松拓(Vo/Gt)は「野音だけ早く売り切れるのはおかしい!」と笑いを誘ったが、Nothing’s Carved In Stoneと彼らを愛するファンにとってのそれこそが日比谷野外大音楽堂なのだから仕方あるまい。Nothing’s Carved In Stone(以下、NCIS)にとって三年振り五度目の野音ワンマンとなる<Live at 野音2024>を8月31日に東京・日比谷野外大音楽堂にて開催した。年始には二度目の日本武道館公演、さらにはワーナーとタッグを組んで再度メジャーからリリースと、結成15周年を迎えてもなお進化を続けるモンスターバンドにとっての“特別”な場所での“特別”な一夜の模様をお届けしようと思う。
8月も終わるというのに未だ真夏の暑さが残る東京だが、この日は列島に居座った台風10号の影響で開催することすらも危ぶまれていた。しかしながら、開演前には青空も見えたため、2021年に行われた野音ワンマンも奇跡的に台風を回避した過去も思い出しながら、彼らの晴れバンドっぷりに“持ってるな”と感心しながら開演を待つ。
そんなことを思ったのも束の間、まだ明るさの残る中SEが開演を報せると、バックドロップの出現と共にメンバーがゆっくりと登場し、『Overflowing』でライヴの幕を開けたと思った、まさにそのタイミングで図ったように大粒の雨が降り出したのだ。そんな誰も予想のできない演出さえも彼らの手にかかれば“特別”になってしまうのだろう。続く『Bright Night』は最新作『BRIGHTNESS』からのセレクト。ツアーを通して成熟した最新のNCISサウンドを叩きつけたかと思えば、初期の楽曲である『Around the Clock』では大きな歓声が野音を包んだ。
次第に強くなる雨足を気にしながら、「(こんな日に)よく来たね!四人でNothing’s Carved In Stoneです。よろしくお願いします」と挨拶も早々に、こちらも最新作から『Challengers』をプレイ。先ほどよりも大きな歓声が上がるこの事実こそがNCISの最新が最高であることの証左であろう。生形真一(Gt)の小気味いいリフと、日向秀和(Ba)のタメの効いたベースプレイがぶつかり合えば、大喜多崇規(Dr)がハンドクラップを煽った『Sing』で特大のシンガロングが巻き起こり、雨により下がる気温とは裏腹に会場のボルテージは上がる一方だ。
確かな技術に裏打ちされた幅広い楽曲の数々が彼らの魅力であるのは言うまでもない。メランコリックなダンサブルナンバー『Wonderer』では歌うような生形のギターを聴くことができたし、『In Future』では村松がハンドマイクでステージを練り歩きながら彼らのヘヴィな一面を見ることができた。さらに圧巻だったのは、これぞNCISだと言わんばかりに各メンバーの個性がぶつかり合った『Damage』だった。日向が変幻自在のベースプレイを繰り出せば、それに呼応するように大喜多は人間業とは思えない超人的なドラミングを見せつけ圧巻のパフォーマンスを見せてくれた。
「めっちゃ雨降ってるけど、今日は下に太陽があるってことなんだよね。太陽のようです、皆さん。輝きをどうもありがとう!太陽のように咲く花のように生きていたいよね。今日は皆さんのこと、そういう名前だと思ってタイトルコールします!」──
お決まりのセリフからとびきりのポップネスをもって放たれた『きらめきの花』では、まさに雨という栄養を得て、いつもより大きな花が開いたように感じることができた。さらに、そんな太陽に向かう花と太陽の関係を描くかのようにオレンジの照明が会場を照らす中『SUNRISE』をしっとりと歌い上げ、オーディエンスは村松の歌に酔いしれた。
“今日どうしても会場に来れなかった人の分も(気持ちを)込めて歌います”