相変わらず世の中は絶望に溢れている。テレビからは連日目を覆い、耳を塞ぎたくなるようなニュースが報道され、人々は明るい未来を想像できず、憂うばかりだ。2007年に“同人メタル”バンドとしての結成以降、独自のスタンスで活動を続け、あらゆる音楽性を飲み込みながらその枠を飛び越え、ライヴ活動を開始した2015年以降メタルシーンにおいても急速に支持を得ているIMPERIAL CIRCUS DEADE DECADENCE(通称ICDD)が<IMPERIAL CIRCUS DEAD DECADENCE 2ND ONEMAN SHOW「夜と霧の中、死生の命を問う――。>を4月20日に東京キネマ倶楽部にて開催した。ICDDにとって二度目となる単独公演の模様をここに記したいと思う。

会場となる東京キネマ倶楽部には多くのファンが詰めかけていた。昨年6月に開催したICDDとして初の単独公演に続きチケットはソールドアウト。会場の規模は上がっているのにも関わらずこうしてソールドアウトという結果を残し続けているのはICDDへの期待の高さの表れに他ならない。

開演を待つオーディエンスのボルテージが高まっていくのがわかる。場内が暗転するとフロアを鎮めるように鐘が鳴り響き、雷鳴と共にICDDの面々が次々とステージイン。そして最後に満を持して首謀者であるリブユウキ(Vo)がステージ中央にスタンバイすると、彼を出迎える大きな歓声と一面に広がるメロイックサインの海に向けて邪悪なスクリームを響かせ『腐蝕ルサンチマン、不死欲の猿楽座。』でライヴの幕は切って落とされた。

Brutal Decadence from Decadenscene――。This is ICDD!!

と改めて挨拶をすると、そのまま『百鬼夜行 -Pandemic Night Parade-』へと雪崩れ込む。KIM(Gt)とIyoda Kohei(Gt)による鋼鉄ツインギターがスラッシーな刻みを繰り出し、いきなりトップギアに入れたかと思えば、流麗なツインリードでのソロを披露。さらに、「地獄へ行こうか!」とリブユウキが煽ると突進型のメロディックデスメタルナンバー『嚮導BRING+瞳EYES=死DEATH +齎INVITE』を投下。会場をさらなる退廃の世界へと誘うがごとくさらなる混沌を叩きつける。また、Shuhei(Dr)と本石久幸(Ba)の鉄壁のリズム隊がICDDの目まぐるしい音楽を支え、様々なスクリームを操るリブユウキと共に楽曲に彩りを添える奈槻晃(Vo)の存在も忘れてはならない。

MCではリブユウキが本公演のタイトルにもなっている“夜と霧”が日々起こる“悲しいこと”や“辛いこと”の比喩であると明かし、ライヴを通してその暗い夜が明けて朝が来る様や、立ち込めた霧が晴れるような風景を目指し、オーディエンスの生きる希望になれるように今日という日を迎えたと高らかに宣言。フロアからは大きな拍手が送られた。

しかし、彼らが続いてプレイしたのは生きる希望すらも打ち砕くような凄惨で凶悪なナンバー『』。さらに、リブユウキが痛みを表現するかの如く声にならない声で唸る『底ノ水滴』をはさみ、シンフォニックブラックメタルよろしくブラストビートで突っ走る『因果律ノ咎人、境界面上ノ運命。』へとノンストップでプレイし、フロアに休む間すらも与えない。

メロディックデスメタル、メロディックパワーメタル、シンフォニックブラックメタル、デスコアなどあらゆるメタルサウンドを飲み込み、独自のエクストリームメタルサウンドを構築するICDDだが、彼らを構成する要素はメタルだけではなく、ヴィジュアル系やアニソンといったカルチャーを同人音楽というフィルターを通して表現している点も見逃してはならない。そういった点では『分裂した道化と≒発狂の修道女』はメジャー初期のDir en greyのオマージュが盛り込まれているし、『黄泉より聴こゆ、皇国の燈と焔の少女。 -殯-』はSound Horizonのような我々の想像力を掻き立てる壮大な世界観を打ち出して見せてくれた。このようにメンバーのルーツとなる幅広い音楽を闇鍋的に掛け合わせ、同時にHull(VJ)が操る映像で視覚表現も含めた物凄い情報量の多さをもって「退廃藝術」として昇華したものがICDDなのだ。

また、中盤戦では各メンバーのソロコーナーが設けられ、KIMはこの日のために書き下ろしたギターソロ『流転ノ律 -Dawn from “Fall to the darkness”』で楽曲内のメタリックサウンドとは打って変わった叙情的なギターソロを披露。さらにShuheiの超絶技巧のドラムソロ『千斬』を経て、本石とのリズムセッション『重鼓線ノ獣 -BACK LINE BEAST-』へ。聴き覚えのあるこのリズムセッションはのちのMCでリブユウキの“LUNA SEAのアレっぽいやつやってよ”との発案から生まれたもので、“ならばそのままカバーしてしまえ!”とJ(LUNA SEA)がたびたび披露する『BACK LINE BEAST』をカバーしたことを告白してくれた(思い返せば、このライヴの冒頭の登場時に本石がグリスを鳴らすのもJリスペクトなのかもしれない)。

衣装を着替え、白い装束を纏ってステージ舞い戻ったリブユウキが「まだまだ行けるかい?」と両手を広げると『禊祓の神産は宣い、禍祓の贖罪は誓う。』を投下。イントロのギターフレーズを会場でシンガロングする様はとてつもない一体感であった。続く、『夜葉:罪と罰の螺旋-。』ではデスコアよろしく邪悪なスクリームとネオクラシカルなツインリードギターで会場を完全に制圧。

ライヴは終盤戦に差し掛かり、リブユウキに呼び込まれ袖から登場したのはゴシカルな装いの小岩井ことりだった。2022年にリリースした3rdアルバム『殯――死への耽る思い始めて戮辱すら喰らい、彼方の生を愛する為に命を讃える――。』にもゲストヴォーカルで参加したことでも知られ、声優界きってのメタラーである小岩井を迎えて『悲痛なる跫音は哀しき邂逅 mode:α』『悲痛なる跫音は哀しき邂逅 mode:Ω』をプレイ。男声と奈槻と小岩井による二つの女声のトリプルヴォーカルで華麗なアンサンブルを響かせ、小岩井も時に迫力のあるスクリームを操りながら、同時に美しいクリーントーンも聞かせてくれた。

ただでさえアニメっぽい世界のICDDが、よりアニメに近づいた」と笑いを誘いながらこの待望のコラボレーションを評したリブユウキが小岩井を知ったのは『じょしらく』というアニメ。波浪浮亭木胡桃というデスメタル好きなキャラクターの声を小岩井があてていたことがきっかけだそうで、そんな思い入れのある声優との共演に対しリブユウキは“自分の人生の伏線回収”と表現し、さらに小岩井は当時のオーディションでデスボイスを披露するためにARCH ENEMYを聴きながらオーディション会場に向かったという裏話を披露するとメタルを愛する同志であるオーディエンスからは大きな歓声と拍手が送られた。

ICDDと小岩井ことりが揃ったならば、誰しもが期待せずにいられない曲があるだろう。「さぁ、天の聲を響かせよう」の声を合図にアルバムでもフィーチャリングした『天聲』を本編ラストに披露。「苦しみだけで終わらない人生を共に歩むために、共に天聲を奏でよう!」とフロアに投げかけると、エッジの効いたハイトーンのスクリームをフロアに突き刺し、力強くパワーメタルサウンドを響かせた。KIMからIyoda Koheiへと繋がれたギターソロのバトンも見事で、フロアは次々にメロイックサインを天へと突き上げる。

月並みな言葉かもしれないけれど、明けない夜はありません。皆で夜が明けるように、その声を響かせて、生きていけ!命を、生きた証を響かせろ!!―

リブユウキの魂の叫びに呼応するかのごとく、オーディエンスが圧巻のシンガロングを轟かせたこの瞬間こそ、間違いなくこの日一番のハイライトであった。

鳴り止まないICDDコールに応えステージ舞い戻ったICDDの面々はシンフォニックブラックナンバー『劇愛の呼声が溺哀の叫声を喰らう』を投下。リブユウキと奈槻が掛け合いを畳み掛け、Shuheiも凄まじい手数足数を組み合わせドラマティックかつスリリングに楽曲を展開していく。そして、会場からこの日一番の歓声が上がったのが9年ぶりに披露されたという『断罪の焔と恋人たちの輪舞曲』だ。リブユウキのシャウトと奈槻のクリーンが重なることでさらに勢いは増し、本石の地を這うようなベースラインは楽曲にうねりをもたらす。オーディエンスはヘッドバンギングで臨戦体制だ。また、誰もが予想しなかった選曲にリブユウキは「まさか(この曲を)やると思わなかったでしょう?」と、してやったりの顔を見せた。

残すところあと二曲。「首、振り足りないんじゃないでしょうか?」の問いに彼らが叩きつけたのは『邪神の婚礼、儀は愛と知る』。最後の力を振り絞るようにとびきりの鋭さを持ってオーディエンスに襲いかかる。そして、この日の最後に演奏されたのはICDDにとってのアンセムである『』だった。

また、次いつワンマンができるか決まっていませんが、必ずみんなの前に戻ってきたいと思います。また会える日を願って。みんなで生きてください

9分を超える楽曲ながら、それを感じさせない各メンバーによる技術に裏打ちされた目まぐるしい展開と、この楽曲が持つアンセミックさはラストにふさわしく、オーディエンスはそのメッセージに応えるように拳を振り上げる。そして、彼らは<命を見た、其処には心がある。たとえどんな困難が待っていようとも、私はここで叫び続ける――。>の一節を持ってこの日のライヴを締めくくった。

命を讃えよ―。
また、生きて会おう!

彼らがこの明けない夜や立ち込める霧の中でも生きていく理由がわかった気がした。生きるということは時にひどく辛く、困難がつきまとうけれど、それでも生きるという選択をしてきた自分自身を愛することと同義なのだ。すなわち、逆説的にいえば自分自身を愛したいのならば、生きるという選択をするべきで、それだけで命は讃えられるはずなのである。だからこそ、彼らはICDDというバンドを通してその根底にあるメッセージをステージの上から叫び続ける。そして、彼らとオーディエンスはどんな困難があろうとも、互いに次に会う時まで生きて、また再会した時に生きて会えたこと、それまで生きてきたことを讃えあう。きっと、人はこれを希望と呼ぶのだろう。

取材・文:オザキケイト
Photo:Jun Tsuneda

《SET LIST》
  1. 情念ノ獄ヨリ(SE)
  2. 01.腐蝕ルサンチマン、不死欲の猿楽座。
  3. 02.百鬼夜行 -Pandemonic Night Parade-
  4. 03.嚮導BRING+ 瞳EYES= 死DEATH+ 齎INVITE
  5. 04.獄
  6. 底ノ水滴(SE)
  7. 05.因果律ノ咎人、境界面上ノ運命。
  8. 06.分裂した道化と≒発狂の修道女
  9. 07.黄泉より聴こゆ、皇国の燈と焔の少女。 -殯-
  10.  
  11. 流転ノ律 – Dawn from “Fall to the darkness” (ギターソロ)
  12. 千斬~重鼓線ノ獣 – BACK LINE BEAST – (ドラムソロ~リズム隊セッション)
  13.  
  14. 08.禊祓の神産は宣い、禍祓の贖罪は誓う。
  15. 09.夜葉: 罪と罰の螺旋―。
  16. 10.悲痛なる跫音は哀しき邂逅 mode:α
  17. 11.悲痛なる跫音は哀しき邂逅 mode:Ω
  18. 12.天聲
  19.  
  20. encore
  21. 断章を紡ぐ序曲(SE)
  22. 13.劇愛の呼声が溺哀の叫声を喰らう
  23. ヨミノオト(SE)
  24. 14.断罪の焔と恋人たちの輪舞曲
  25. 15.邪神の婚礼、儀は愛と知る。
  26. 16.謳

リブユウキ(Vocal)/ 奈槻晃(Vocal)使用機材紹介

Imperial Circus Dead Decadence

Imperial Circus Dead Decadence×明日の叙景 2MAN SHOW『神産む嵌合体と詩葬の彼岸』

東京を中心に活動するポストブラックメタルバンド、明日の叙景とのツーマン公演が東京と大阪で開催!

Imperial Circus Dead Decadence×明日の叙景 2MAN SHOW
『神産む嵌合体と詩葬の彼岸』
2024年9月29日(日) Veats Shibuya
2024年10月6日(日) 大阪バナナホール
会場17時/開演18時
TICKET ADV 5,000 DOOR 5,500
TICKET発売日
プレイガイド先行:6/20(木)~6/27(木)
一般販売:7/7(日)~

TICKETFROG https://ticket-frog.com/e/icdd_2409-10
イープラス https://eplus.jp/icddecadence-asunojokei/
ローチケ https://l-tike.com/icdd-asunojoke


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