2023年4月8日に開催された本誌『STAGE』主催の「Mardelas 及川樹京スペシャルギターセミナー」ここでは当日第2部の模様をお伝えするとともに、当日の及川の使用楽器・機材も紹介していく。
第1部のレポートはこちら
しばしの休憩・物販の時間を挟んで行われた第2部のテーマは「ソロ編」。第1部と同じく、歪んだサウンドでクリアに弾くコツ、ミュートの重要性といった話からスタートし、ソロの表現力、エモーショナルさを上げるための必須テクニックとして(ピッチ、リズム、トーンは当然としながら)、チョーキング、ビブラート、アーミングを挙げる。空気を読みつつ楽曲のセクションにあわせてこれらのテクニックを使い分けることでシーンに応じたエモーショナルな表現が可能になるのだ。
そして、ここではまずチョーキングについて深く取り上げる。ピッチを正しく取るための練習の仕方、チョーキングビブラートによる表現、チョーキング時のミュートの仕方といった基本となる部分から、さらに、チョーキングの際には「チョップ」と呼ばれる、実際に弾く弦より低い方の弦をブラッシングしつつプレイするテクニックも実演を交えながら紹介してくれた。こうしたテクニックを取り入れることで表現力の幅が広がり、場面に応じたエモーショナルさの表現が可能になる。そして、自身の表現の限界点がどこにあるかでギターでの表現力が決まるのだという。限界点が高ければ世の中のトップギタリストと呼ばれる人たちと並べられてもその点においては負けないプレイが可能であり、それを良いサウンドでプレイすることで多くの人にエモーショナルと評されるギタリストになれるのだ。
第2部最初のデモ演奏はYngwie Malmsteenの『Eclipse』そしてMardelasの『Apocalypse』を続けてプレイ。及川はイングヴェイの“ここが凄い!”というポイントとして(速弾きは当然としつつ)「エモーショナルさ・ピッチの良さ・タイミングの取り方」を挙げ、自身の楽曲でもその影響を受けたエモーショナルなソロを響かせた。
ここで、もうひとつ表現力の限界値を底上げしてくれるツールとしてワウペダルについても言及。「GALNERYUSのSyuさんが3rdアルバムの頃によくやっていた」といったマニアックな解説とともにそれを見様見真似でプレイするうちに自分のものにした、“出したい音と足の動きがリンクした”人が喋るかのようなニュアンスのワウプレイを披露してくれた。
また、先程のデモ演奏でも取り上げたイングヴェイの“ここが凄い!”ポイントを改めて解説。そのまま弾いたらともすればダサくなってしまうようなフレーズも「どう弾くか」でかっこよくなるとし、シンプルなフレーズも一音たりとも隙がないと称賛した。イングヴェイは耳の良さも特筆すべきポイントで、ライブでチョーキングのピッチが外れていることが本当に無いとも付け加える。さらに、その功績として、それまでペンタトニックスケール主体のソロが多くを占めていたロックギターソロは1本の弦につき2音づつのフレージングが多かったところをハーモニックマイナースケールを取り入れることで1弦3音づつ(スリー・ノート・パー・ストリング)とし、フィジカル的に速く弾きやすいフレーズを世に広めたことも解説してくれた。
この節の最後には、ハーモニックマイナースケールの解説とコード進行上での使い所(III7の箇所でハーモニックマイナースケールを弾きまくる…etc)といった興味深いトピックも。
ここで次のデモ演奏へ。楽曲はImpellitteriの『Victim of the System』と、この曲へのオマージュが感じられるリフをもつMardelasの『The Fox & The Grapes』。
一時は「世界最速」とも謳われたインペリテリの楽曲を通して教えてくれたトピックは、スリー・ノートの速弾きソロにおいてもコードトーンを意識し、強調する音を実際のフレーズ上ではあえて多く弾いたり止まる(着地する)音にすることで“指の運動”にならないようなソロの構築方法。スリー・ノートのフレージングでもコードに合わせてプレイすることでただ速いだけではないメロディアスなソロを弾くことができるのだ。
また、インペリテリの“ここが凄い!”ポイントとしては「曲のキャッチーさ・ピッキングの速さ」を挙げた。昔は肘から腕を痙攣させるような独特のフォームで速いピッキングをしていたが、その頃から音は良く、近年はフォームが全く変わっているが今も昔も速いパッセージでもしっかりとピッキングできており1音1音が綺麗に出ている。ただ、インペリテリは良いトーンを出す、しっかりギターを鳴らすという基礎がしっかりあった上で速く弾く方法として研究の末以前のフォームを編み出したのであろうから本人以外はあのフォームはやらない方が良いという及川なりの分析も聞かせてくれた。
この日最後となるデモ演奏はExtremeの『Decadence Dance』とMardelasの『Rock On!』の2曲。あえて入れるゴーストノートやブラッシングノイズでグルーヴ感やエモーショナルさが増すという観点でヌーノ・ベッテンコートのプレイを分析し、自身のプレイへの落とし込み方を実演してくれた。
また、ヌーノの持つ所謂メタル以外の多様な音楽的バックグラウンドや、それによって培われたであろうリズム感、フレーズのキレ、ブルースやカントリーをベースにしたフレーズ構築にも話は及ぶ。及川自身も若い頃はあまりピンときていなかったがロックギタリストとしてブルースのルーツを持つことの大事さを近年は特に感じていると言い、HR/HMも含めロックギターを弾くならブルースはやった方が良いと啓蒙してくれた。
最後に受講者への質疑を募りつつ、この日触れていなかった速く弾くコツについても話してくれた。曰く、速弾きは何よりも練習時間である。ただし、正しいフォームで練習することが上達への近道なのだという。速弾きで使われる運指のパターンもある程度パターン化されている面もあるのでクリアに弾ける得意なフレーズをストックし、ポジションの並行移動で様々なキーやコードに適応できるギターという楽器の特性を活かして引き出しを増やしていけば様々な場面で速弾きができるようになっていく。ギターには同じ音(音階)が出せるポジションが複数あるため、速く弾けるポジションを見つけることもポイントだそうだ。
苦手なことをやらず、最高の音が出ていれば上手いギタリストだということにはなる。クリアに弾ける得意なフレーズを増やし、ストックを増やしていくと、曲をコピーしても自分の持っているストックのどれかに当たることが増え、弾ける曲が増えていくのだという。新たな曲をコピーしていく過程で今まで練習していないパターンのフレーズに出会ったときは、速弾きは“神経”なので、その神経を通すためにチャレンジし、苦手なフレーズはオリジナルではやらない(笑)こともときには必要なようだ。ただし、自身の成長のためにもあえて苦手なフレーズをオリジナル曲の作曲・編曲段階で組み込むことで、ライブまでに否が応でも猛練習することで自身のスキルアップに繋げるということも及川は実際にやっているそうだ。
及川は最後に受講者への感謝を伝え、今後もこういった活動もバンド活動ともどもやっていきたいという展望を話し、初のギターセミナーは幕を閉じた。1部2部ともに見応えのある非常に濃密で有意義な時間であった。Mardelasでの活躍は勿論、及川のこういった活動にも今後も期待していきたい。
撮影:小野寺将也
取材・文:稲葉悠二
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