シンガーソングライターの新山詩織が、恒例となっているデビュー記念日ライブを12月12日(火)に東京・渋谷WWWで開催した。
開演前のフロアに響きわたっていたのは、新山詩織が敬愛してやまない、11月に惜しくも逝去したチバユウスケの精悍な歌声。自分に大きな刺激を与えてくれたという感謝の気持ちを伝えるように、ミッシェル・ガン・エレファント、The Birthday、YUSUKE CHIBA -SNAKE ON THE BEACH-……彼のキャリアを彩った楽曲の数々が、この日はオープニング&クロージングのBGMに選ばれた。登場SEもROSSOの『シャロン』で、思わず胸が熱くなってしまう。
そうした特別感も加わり、黒のワンピースとブーツにロングネックレスがきらりと輝く衣装でステージに現れた新山詩織(Vo&Gt)は、最新アルバム『何者 ~十年十色~』のキーとなる『何者』『Spotlight』を、のっけから気合十分に解き放つ。高速で畳みかけた迫真のラップパート、懸命な生きざまが薫る憂いに満ちた歌、そして和久井沙良(Key)、イシイトモキ(Gt)、まきやまはる菜(Ba)、山近拓音(Dr)を従えたバンドの切れ味鋭いアンサンブルに、オーディエンスもすぐさま歓喜の手拍子で応える。
高校生のときにオーディションを受け、デビューイベントや活動休止前のラストライブを行なった会場でもある渋谷WWWについて、「とても思い入れのある場所に、またこうしてアーティストデビュー日に立たせてもらえて、本当に本当に光栄です」と話し、「今回は懐かしい曲も詰め込んでいて、みなさんも“来た!”という感じの曲がきっとあるはずなので、ぜひ最後まで楽しくいい時間を作れたらと思っています」と挨拶した新山。
アコギを携えて、メジャーデビュー10周年の歩みを自ら称えるようでもあった初期のナンバー『今ここにいる』、4つ打ちのリズムを活かして爽やかに聴かせた『らくがきちょう』を届けると、「今の2曲、すごくひさしぶりでしたよね。当時イベントとかでよく歌っていたので、なんかいろいろ思い出しました」と笑顔を見せるシーンも。『帰り道』は一転、崩れ落ちそうな心模様が滲む切ないメロディ、シューゲイズギターを織り交ぜたサウンドが際立つなど、色とりどりの表現で魅了していく。
さらに「12月にやりたいなと思って、密かに残しておきました。この曲でひと息ついて、あったまってもらえたら嬉しいです」と、透明感のある歌声と抑制の効いたアレンジで優しく語りかけるように『ミルクティー』を披露。新山が弾くアコギのストロークが冴えていた、ファンがおそらく聴きたかったであろう『あたしはあたしのままで』も飛び出し、会場はますますいい雰囲気に。
中盤のカバーコーナーでは、デビュー記念日ライブということで自身の原点を振り返る意味を込め、THE GROOVERSの『現在地』、シアターブルックの『ありったけの愛』と、新山がリスペクトを捧げ、これまでに音源化もされてきた、ファンキーなグルーヴが渦巻く男性ボーカル曲を熱唱。秘めたるロックなマインドをガツンと打ち出し、フロアは大いに沸きまくる。
「カバーはこの2曲だけの予定だったんですけど、急遽もう1曲やりたくなって入れました。私の中でとってもとっても大切な曲です。ひさしぶりに演奏したいと思います」
募る想いとともに始まったThe Birthdayの『ピアノ』。その叙情性あふれる曲調に酔いしれるオーディエンス。ワインレッドカラーのエレキギター、Gibson ES-335を弾きながらエモーショナルに歌う新山の姿を観ていると、チバユウスケのボーカルまでがありありと重なって聴こえてくる。そんな画も浮かび上がるようなドラマティックな時間だった。
愛すべきカバー曲に続いて、アコースティックコーナーも用意され、山崎あおいとの共作曲『Free』は和久井のエレピ伴奏で、『Keep me by your side』はそこにイシイのアコギを加えた3人編成でプレイ。新山がミディアム曲をハンドマイクでしっとりと紡ぎ、癒しと呼ぶにふさわしい素敵な余韻が生まれる。そういった少人数でのアプローチの一方、ライブ冒頭のようにパワフルなバンドサウンドでも唸らせるという、“静と動”でバリエーション豊かに魅せる展開がたまらない。
再び5人のメンバーが揃い、この日のために作ってきた新曲もお披露目。公演タイトルの『NEXT PAGE』にちなみ、「みんなで信じ合って、いっしょに前へと進んでいきたい。そんな気持ちで書きました」という『Believe in us』は、力強いビートに乗せ、“急がなくていい 焦らなくていい”“大丈夫 大丈夫”と新山らしい言葉遣いで肯定のメッセージを告げる、シンプルながらも心に響く内容で、明日への、来たる2024年への希望が湧いてくるかのよう。
そのままライブはクライマックスに突入。新山のエレキギター弾き語りを経て、途中からバンドインする奥ゆかしいアレンジが映えていた『分かってるよ』。“変わりたい”という決意を綴った、今後の未来に向けて良い風を吹かせるような『New』で、大盛況のうちに本編を締め括った。
アンコールに応えてステージへ戻ってきた新山は、髪を後ろで留め、パーカーを羽織った姿になり、少しリラックスした様子で、バンドとともにソウルフルなナンバー『約束』を歌唱。色気のあるゴキゲンなサウンドがフロアを心地よく踊らせ、間奏でのメンバー紹介を兼ねた各パートのソロ回しも楽しい。
「出会いもあれば別れもあったり、“幸せと悲しみは隣り合わせだな”とか、本当にいろんな感情の起伏を味わった年でした。だからこそ、一日一日を大切に過ごさなきゃいけない。何がどうあれ、自分は前に進んでいかなくちゃいけないんだなって。改めてそう思います」
「みなさんもいろいろあったと思うんですが」と観客のことも気遣いつつ、次のページに踏み出す意志を語り、最後はとりわけ愛着が深い『Looking to the sky』。“前を向いて馬鹿にされても それが自分なんだから”と歌う、今の心情に寄り添うような曲で、温かいムードの中、新山詩織の10周年イヤー集大成となるデビュー記念日ライブは幕を閉じた。
取材・文:田山雄士
Photo:達川範一(B ZONE)
《SET LIST》
- 1.何者
- 2.Spotlight
- 3.今 ここにいる
- 4.らくがきちょう
- 5.帰り道
- 6.ミルクティー
- 7.あたしはあたしのままで
- 8.現在地
- 9.ありったけの愛
- 10.ピアノ
- 11.Free
- 12.Keep me by your side
- 13.Believe in us
- 14.分かってるよ
- 15.New
- <ENCORE>
- 1.約束
- 2.Looking to the sky
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2013年にメジャーデビューし、2023年デビュー満10周年を迎えた新山詩織。
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10周年記念となる今作は、新山詩織節とも言える心に刺さる歌詞と情感溢れる歌声に加え、新山詩織のこれまでの作品の中でもっともラウドで鋭いギターサウンドと厚みのあるバンドサウンドが重なり合い、まさに10周年の活動の集大成とも言えるアルバムになりました。参加メンバーもこれまでに様々なジャンルの最前線でシーンを作ってきたミュージシャンに加え、次世代のミュージックシーンを担う新進気鋭のミュージシャンも豪華集結。様々な個性が折り重なる万華鏡のような作品が完成しました。
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