温かく色鮮やかな春が、ここにはひと足早く訪れていた。

昨年2月に行った「MICHIYA HARUHATA LIVE AROUND at Billboard Live 2022 SPRING HAS COME」に続き、1年後となる2023年2月に「MICHIYA HARUHATA LIVE AROUND at Billboard Live 2023 SPRING HAS COME season2」を開催。今回も、大阪・横浜・東京の「Billboard Live」で開催。メンバーは、春畑道哉(Gt)/宮崎裕介(Key)に日替わりで水野由紀(Cello)/遠山哲朗(Gt)が加わる3人編成。ここでは、Billboard Live TOKYOで2日間計4公演行った中から、2月26日(日)の1stステージの模様をお伝えしたい。

満員の観客たちを前にしたライブは、美しくも儚いピアノの音色へ導かれるように『Mermaid’s Kiss』から始まった。哀愁を帯びた春畑道哉のギターの音色が泣いている。次いでピアノがスパニッシュな旋律を情熱的に奏でるのにあわせ、フロアから手拍子が鳴り出す。躍動した演奏の上で、春畑道哉も情熱を抱いたギターの音色を響かせた。気持ちが熱を帯びるにつれ、ギターの音玉たちがこの空間を自由に飛び回りだす。哀愁を抱きながら。でも、演奏陣の奏でる音のアンサンブルには、心を騒がせる情熱が秘められていた。その熱を力強く押し出すのではなく、甘いKISSを授けるように春畑道哉は音色を奏でていく。優しい音の接吻に早くも気持ちが釘付けになり、旋律の一つ一つに甘い陶酔を覚えていた。ときに音が熱を増すのに合わせ、手拍子が起きていたのも印象的だった。

ピアノとチェロが寄り添う演奏へ春畑道哉が優しくギターの旋律を重ね、彩りを深めだす。音数の少ない演奏だからこそ、一つ一つの音の主張と、そこへ重なり合う絶妙なハーモニーに気持ちが吸い寄せられる。『Dream Box』と題した夢の箱の中から出てきたのは、しばし現実を忘れ、素敵な異境の世界で微睡む夢のひととき。3人の優しい調べに、そっと抱きしめられているようにも感じていた。

乾杯の挨拶からMCがスタートするところが嬉しい。 春畑道哉のやわらかな声の語りも、酔いを進める嬉しい要素だ。

春畑道哉がギターをカッティングするのにあわせ、フロア中から熱い手拍子が起きる。その上にズシッと絡むチェロとピアノの調べ。やがて演奏は、華やかさを増しながら、軽やかに音を舞い踊らせる。眠りについていた植物や動物たちが目覚めるように、3人が華やかな気持ちへ誘(いざな)う音を交わしあう。『Spring has come』というタイトルに相応しい、演奏が進むにつれワクワクする気持ちが芽吹き、心が華やぐ楽曲だ。3人が顔を見合せて演奏を奏でるごとに、音が明るい色を増す。春畑道哉のギターの旋律は、ウズウズした気持ちを止められず、春の香りを覚えて早くも芽吹き出した桜の花たちの様にも感じられた。

深い哀愁味を帯びた春畑道哉のギターの旋律が、ゆっくりと音を奏でだす。嘆く心へ寄り添うように響くピアノの調べが、さらに哀愁を増してゆく。春畑道哉は『東京classical』を奏で、ノスタルジーへ浸る気持ちを持って音を奏でていく。そこへチェロの演奏が重なることで、その情景は、セピア色した、どこか郷愁という言葉を想い起こすような景色を心の中へ映し出していた。たとえ舞台が東京であろうと、そこに刻んできた様々な思い出が、懐かしいいろんな記憶のページをめくるように甦る。何時しか、心を濡らす微睡みに浸っていた。

1曲ごとに、様々な景色や記憶を春畑道哉の楽曲と演奏が甦らせる。続く『Continue』でも、ハーモニクスも交えた春畑道哉のギターの音色が、まだまだ掘り出しきれていなかった記憶のアルバムを見つけ出し、時を旅するように、胸を温かくする様々な思い出に浸らせる。それは、自分が少年や少女時代に体験した記憶であり、大人になって、色々な運命の転機へと繋がる小さな物語の断片であったり。そんな忘れていた記憶の欠片を呼び戻し、しばし3人の演奏に触れ、いろんな記憶に酔いしれながら微睡みを覚えていた。

MCでは、この日がソロ活動36周年の日であり、周年の日を迎えられたことの喜びを語っていた。

『Mystic Topaz』と『The ONE』では春畑はピアノを演奏した。

ピアノの前に座った春畑道哉は、自らピアノを奏でながら『Mystic Topaz』を披露。ゆったりとした演奏の中、一つ一つの音色を大切にしながら。淡い旋律へ巧みに音を塗り重ね彩りを与えるように、春畑道哉はピアノの弾き語りで演奏を届けてくれた。音数の少ない中だからこそ見えてきた一つ一つの音色の持つ強い存在感が、とても印象的だった。

重厚な、でも、美しい響きを持ってチェロの演奏が始まった。そこへ、春畑道哉がピアノを奏でながら、優しく寄り添いだす。『The ONE』を通して2人は、信頼のおける関係だからこそ、互いに旋律と旋律で手を繋ぎ、ゆったりとした音を通して見つめあっていた。静かな2人の表情とは裏腹に、演奏が少しずつ熱を増してゆくのは、互いの鼓動や波長に、熱い思いが満ちていたからだろうか。そんな風に、演奏に触れながら思いを巡らせていた。後半に見せた情熱的な演奏は、いつしか気持ちに小さな熱い炎を生み出していた。

ふたたび、ギターに持ち替えた春畑道哉。彼は、次の曲の演奏へ入る前に「春が来る頃には、このシリーズを毎年のように続けていきたい」と語っていた。

原曲を斬新にアレンジした形でお届けしたのが『God bless you!』。ズシッズシッと歩くピアノの旋律。それを、煽るように奏でるチェロの演奏。2人の勇壮な音の連なりへ、春畑道哉は繊細なガットギターの音色を弾(はじ)くように響かせながら、淡い彩りを与えだす。ギターの音が強く弾けるのにあわせ、2人の演奏も気持ちを高ぶらせるように音を荒らげだす。祈りを捧げるように。いや、揺れ動く気持ちへ身を委ねながら音を奏でる3人。情熱的でドラマチックなのに、それだけではない、深い情感を抱く楽曲であり、演奏だ。

跳ねたピアノの演奏にあわせ、フロア中から手拍子が起き出した。その演奏へ乗り込むように春畑道哉がブルーズなギターの旋律を重ね、セッション演奏を始めた。そこにチェロの演奏が加わり、楽曲は輪郭をくっきりと描きながら『EXPERIENCE #9』へ形を成してゆく。勇壮な3人の演奏が作り出すアンサンブルが、気持ちを熱く騒がせる。だから、騒ぐ感情を抑えられなくて、3人に向けて観客たちが熱い手拍子を届けていた。ピアノとチェロの演奏に乗せ、はしゃいだ音を自由奔放に舞い踊らせる。そんな春畑道哉の姿を、手拍子をしながらも視線はずっと追いかけていた。

ライブも終盤へ。MCではフジテレビ系サッカー中継テーマ曲を書き下ろしたときのエピソードを語っていた。代表選手の覚悟やプレッシャーはもちろん、選手とファン・サポーターが一体となって歓喜興奮するイメージで制作したという。

ディストーションの効いた音で激しくギターを掻き鳴らせば、勇壮な旋律を雄々しく響かせる場面も。春畑道哉は『FANTASIA~LIFE WITH FOOTBALL』を通し、戦いへ挑むような雄々しい感情を持って、ギターの音をフロア中に響かせた。高らかなその音色に気持ちを掻き立てられた観客たちも、熱い手拍子をぶつけだす。後半には穏やかで温かい、まるで母性に包まれていたような表情も投影。終盤、ふたたび演奏が勇ましくなるのにあわせ、場内から響く手拍子の音がさらに強さを増していたのも印象的だった。

荘厳で雄大ながらも、触れた人たちを温かく抱きしめるピアノとチェロの演奏。だが、2人の凛々しい演奏が緊張感を持つのにあわせ、そこへ春畑道哉が強く主張を示す演奏を重ねだした。荒々しく、雄々しい、まるで王国を牽引する勇者のような様で、春畑道哉は時に豪快に、ときに繊細に『Kingdom of the Heavens』を奏でていた。雄々しきその演奏へ気持ちを引っ張られるように感情を高ぶらせた観客たちも、熱い手拍子を舞台の上へ送り、その様を讃えていた。

アンコールで演奏したのが、Jリーグのオフィシャルテーマソングとしてもお馴染みの『J’S THEME(Jのテーマ)』。この曲が誕生してから、すでに30年の時が経過。この曲を長く支持してくれることへの感謝の気持ちも込めながら、春畑道哉は演奏していた。胸を潤すお馴染みのメロディーが響きだすのを合図に、フロア中の人たちの耳が、弾き語るその演奏に釘付けになる。淡く、優しいガットギターの独奏。そこへピアノとチェロの演奏が重なりだし、心を涙で濡らす演奏は、次第に気持ちを凛々しく鼓舞する様に変わりだす。春畑道哉もガットギターから持ち替えた、ヘビーレリックのストラトキャスターで野太いギターの音を轟かせ、雄大かつスケール大きな演奏へと楽曲を染めあげ、観ている一人一人の心を感動と同時に、熱く鼓舞していた。静かなる衝動。その言葉が似合う、とても胸を熱く奮わせる演奏だった。

このシリーズは、きっと来年にも続いていく。そう信じて、次の報告を待とうではないか。

TEXT:長澤智典
PHOTO:佐々木 史恭

《SET LIST》
  1. 1.Mermaid’s Kiss
  2. 2.Dream Box
  3. 3.Spring has come
  4. 4.東京classical
  5. 5.Continue
  6. 6.Mystic Topaz
  7. 7.The ONE
  8. 8.God bless you!
  9. 9.EXPERIENCE #9
  10. 10.FANTASIA~LIFE WITH FOOTBALL~
  11. 11.Kingdom of the Heavens
  12. -ENCORE-
  13. EN.J’S THEME(Jのテーマ)

春畑道哉(Guitar) 使用楽器・機材紹介(1)


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