廣瀬武雄(Keyboard/Guitar)使用楽器・機材紹介

Nektar Panorama T4 & YAMAHA S90 ES

2段にセットされたキーボードは上段がNektar Panorama T4、下段がYAMAHA S90 ES。S90 ESの右側にはオーディオインターフェイスMOTU UltraLite mk5もセットされており、これらのキーボードでApple Mainstage 3を介してApple MacBook Pro内のソフトシンセを演奏できるようにセッティングされている。

ソフトシンセは、メインのピアノ音色にModartt Pianoteq 7、オルガンにApple Vintage B3、『ダラダラ』でのメロトロン(フルート音色)にArturia Mellotron V、『愛の交差点でファンファーレ』のシンセリードがSoftube Model 72、同曲のトランペットがAcousticSamples VHorns Trumpet 1、『ユートピア』でのスティールパンの音色がApple Sampler、『悪い夢』落ちサビ部分のシンセパッドがApple ES2、そして『BABY BABY BABY』のイントロSEのプレイバックにはApple Quick Samplerを使用したということだ。

―それぞれいつ頃から愛用しているのでしょうか?この楽器との出会いや愛着の理由などを教えて下さい。

廣瀬武雄(以下、廣瀬):Nektar Panorama T4は2019年末から使用しています。2019年初頭からライブでもソフトシンセを使ってみようとApple MacBook Proと同MainStageを導入したのですが、2段積みの上段用に操作性・演奏性のよい手頃なMIDIキーボードを探してこちらを購入しました。主に下段のピアノを弾きつつ、時折オルガンやシンセを上段で弾く、という場面が多いので、鍵盤数はあまり必要ないと判断してコンパクトな49鍵のものを選びました。スプリットを多用するなら61鍵を選んでいたかもしれません。
この種のMIDIキーボードはDAWと連携させて自宅制作で使用される方が大多数かなと思うのですが、フェーダーやツマミ、パッドなどが充実していたり、フェーダー直下の8つのボタンでダイレクトにパッチを呼び出せたり、低価格のMIDIキーボードでは省略されがちなペダル接続端子もちゃんと2種(フットスイッチとエクスプレッション)完備していたりするので、PCベースのライブでは便利に使えるキーボードだと思います。バスパワーなのもセッティングがケーブル1本で済むので気軽です。ただ本体がかなり軽いため勢いよくグリスしたときに吹っ飛んでいきそうになることがあるので、弾き方にもよりますがセッティングのときに滑り止めなどの対策をしっかりしておくのも重要かなと思います。

YAMAHA S90 ESは今回、植田さんの所属レーベル所有のものをお借りしました。17年前の機種なのですが堅牢で状態もよく、鍵盤のタッチも好みです。
今回は使いませんでしたが内蔵音源のピアノやエレピもとても良くて、植田さんの今年夏のライブではそのまま使いました。
以前は自分で所有しているYAMAHA CP4 STAGEを持ち出して使用することがほとんどだったのですが、ソフトシンセオンリーに切り替えてから下段は現場のものをお借りすることも多いです。

鍵盤並みに重要な機材であるApple MacBook Pro(13inch, 2018)はOSをCatalinaまで上げて使っていますが、ソフトシンセを多用するとかなり熱を持つことが多いので、強制的に冷却ファンを強めに回すことのできるユーティリティーを使ってできるだけ冷ますようにしています。

―これら楽器のサウンド面での特徴や魅力、サウンドメイキングのこだわりについてお聞かせ下さい。

廣瀬:今ツアーの鍵盤系のサウンドはすべてソフトシンセです。
最も多用するピアノ音色はModartt Pianoteq 7で、モデリングによるピアノサウンドのため、大容量サンプルをロードする必要がありません(CPU負荷が軽いわけではないのでそこは注意が必要ですが)。
実はかつてはなんとなくモデリングを敬遠していた部分もあったのですが、バージョン6の頃に試しに使ってみたところ、旧バージョンの頃によく指摘されていた高音域のプラスチッキーさもぐっと改善されてリアルになっていて、モデリングならではの特性として演奏に対するレスポンスに段差がなくスムーズな点や、共鳴の感じがとても自然なところなどに魅力を感じ、各社のサンプルベースのピアノよりもお気に入りになってしまいました。
今回はNY Steinway Dをモディファイしたひとつのパッチを全曲共通で使用しているのですが、唯一『プロペラを買ったんだ最近』だけは強く弾いたときの低音域をちょっとゴリっとさせた、荒さの出るパッチに変えています。今回は使っていませんがエレピも良いです。

オルガンもこれまで何種類か試したのですが、軽くて音も気に入ったApple純正のものに今は落ち着いています(MainStage付属の音源はLogic Proと同じものです)。ロック!という感じの曲で弾くことが多くて、そういう場合はドローバーを下4本だけ全部出したセッティングが好みです。

MainStageは簡潔にいうとマルチトラック録音再生機能を省略したDAWのようなもので、プラグインを必要なだけ立ち上げていくつでも使えるホストとなるソフトウェアなので、エフェクトについても使えるプラグインが無数にあって自由度はかなり高いのですが、今回に関しては『JOURNEY』のピアノ単音オブリにValhalla VintageVerbを深めにかけたぐらいで、他はほぼドライな状態でPAに送っています。

KAWAI製のトイピアノ グランドピアノ(木目)1112も『EUPHORIA』『ロマンティカ』『エニウェアエニタイム』で使用された。

―このトイピアノはレコ―ディンゴでも使用されていたのでしょうか?

廣瀬:このトイピアノは植田さん所有のもので、アルバム『Euphoria』のレコーディングではこちらを使用したと伺っています。
『ロマンティカ』の間奏は、以前のライブでは植田さん自身がグロッケンを弾いていたのですが、今回はせっかくトイピアノもあるのでということでソロパートを仰せつかりました。それに伴ってその部分ではぐっと全体の音量を抑えるアレンジに変更になっています。

―トイピアノのサウンドの魅力や、弾く際に気を付けている事などをお聞かせ下さい。

廣瀬:金属パイプをハンマーで叩く構造なので、サウンド的にはグロッケンに近いとは思うのですが、減衰が短いのが特徴です。KAWAIのトイピアノは単なる玩具ではなく、チューニングなども含めちゃんと使える楽器としてしっかり作られているので、シリアスな場面で使ってもあまりファニーになりすぎることはないと思います(今回は植田さんの私物ですが、私自身もKAWAIのものを所有しています)。
トイピアノは音の小さい楽器なので、バンドのライブで使用する場合、マイクへの他の楽器の被りが大きいなどの問題もあって(実際に当日もドラムセットの真横でした)ハードルはかなり高いと思うのですが、今回のアルバムに関しては、トイピアノは出番は多くないものの重要な場面で登場するので、実際にそこにあるものが鳴っているということを大事にしたいという植田さんの方針もあり、PAエンジニアの平山雄士さんもマイクを変えてみるなどいろいろ試行錯誤して音作りをしてくださいました。

シンセやサンプラーで出せば簡単に済む話だったりもするのかもしれませんが、その場の空気感や演奏時に(極力気をつけても)どうしても鍵盤がカチャカチャと鳴ってしまうことすらも含んだひとつのサウンドとしてお届けできたのかなと思います。

大きな音を出そうと強く叩きすぎてしまうとキンキンした部分ばかり強調されてしまうようで、演奏の加減はなかなか難しかったです。できるだけ冷静に弾くように気をつけました。 木目調で天板がグランドピアノのように開いたりとビジュアル的にも可愛いですよね。

廣瀬はパーカッションも担当。ビブラスラップとタンバリン、エッグシェイカーが用意されていた。タンバリンは鳴り方をコントロールするために一部のジングル(シンバル)がテープでミュートされている。

Fender Custom Shop Stratocaster

『最果てへ』『“シグナルはノー”』では、エレキギターも演奏しており、Fender Stratocasterが使用された。今回のライブで廣瀬が使用したギター関連の機材についてはアルバム『Euphoria』のアレンジャーである森良太氏から借り受けて使用していたものだということだ。

―『最果てへ』『“シグナルはノー”』で使用しておりましたが、サウンドメイキングでのこだわりや気に掛けた事、このギターをセレクトした意味合いを教えて下さい。

廣瀬:ツアーにあたってセットリストの主たる部分になるアルバム『Euphoria』のアレンジャー森良太氏にギターをはじめ一式まるごとお借りしたのですが、私がギターを弾くのは2本目のエレキギターが必要な局面なので、エレキギター2本の音の棲み分けが一番できることと、目指している音色に近いということから、所有のギターからこちらをセレクトしてくれました。

アンプはFender Twin Reverb。

―生産年や購入時期などわかれば教えて下さい。こちらを使用しているサウンド面での意味合いなどを教えて下さい。

廣瀬:’65 TWIN REVERB で、現行品(おそらく2010年前後の製造のもの)だそうです。
12インチ2発のオープンバックのアンプのロー感と開放感が必要ということでツインリバーブを選んでくれました。クローズドバックだとコンプ感が強すぎるシチュエーションでも全体に馴染んでくれるのでツインリバーブはとても使いやすいアンプで、ジェンセンのC12スピーカーの音色も素晴らしいとのことでした。

エレキギター用のエフェクト・ペダルがこちら。すべて直列に接続されており、ディレイの後の最後段にNoel πがセットされている。

( 1 ) BOSS TU-3W(チューナー)
( 2 ) Vemuram Jan Ray(オーバードライブ)
( 3 ) Fulltone OCD(オーバードライブ)
( 4 ) Electro-Harmonix Memory Toy(アナログディレイ)
( 5 ) Noel π -Blanc-(ファズ)
( 6 ) G-LAB 8 Separated 9V Power Box(パワーサプライ)

―今回のライブにあたってサウンドメイキングについて気にした部分や肝となるエフェクターについてお聞かせ下さい。

廣瀬:エフェクターもすべて森くんのセレクトです。
Vemuram Jan Rayは常時オンで、『最果てへ』冒頭のアルペジオのみElectro-Harmonix Memory Toy(ディレイ)を、『”シグナルはノー”』のバッキングではFulltone OCDを、アウトロのツインリード部分ではNoel π -Blanc-をそれぞれオンにしています。

肝となるエフェクターは『”シグナルはノー”』アウトロで使用したbig muffです(Noelというブランドがパーツの定数はそのままにパーツの種類だけ変えてbig muffをモディファイしたものがNoel π -Blanc-です)。ファズの単音のリードの音色がリードギター2本で重なって一つに聴こえることが大事だったのでストラトをbig muff、もう片方のギター(渡邊)はRATをリードにして倍音構成を少しずらしています。

廣瀬武雄

麻井寛史(Bass)使用楽器・機材紹介

植田真梨恵

4th Album 『Euphoria』Now On Sale!!

2011年に構想が生まれ、ずっと温めてきな大切なアルバム。初めて楽曲提供を受けた前作から一転、全作詞作曲 植田真梨恵!アレンジは、弾き語り曲を除く全曲、森良太(Brian the Sun)と植田が共作。植田の頭の中になっている音をこれまでの作品より、忠実に再現。コレクション盤の特典は初めてBlu-rayを採用し[F.A.R. / W.A.H.] TOUR FINAL公演を収録。
2022.9.21 release
コレクション盤
7500 yen (tax out) / GZCA-5314
通常盤
3000 yen (tax out) / GZCA-5315


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