ライブレポート
まだ完全と呼ぶには程遠いが、それでも着実にこれまでの日常が戻りつつある。あらゆるところから“全国ツアー”の言葉を聞くようになり、そのツアーを無事に終えるということがどれだけの音楽ファンやバンドマンの希望になっただろうか。「何事もなく(ツアー)ファイナルがやってくるって、こんなにも簡単で、こんなにも難しいことやとは思いませんでした」とは本編中の鈴鹿秋斗(Dr/Cho)の言葉だが、これまで当たり前のように行われていた全国ツアーを完遂することが、実はとてつもない配慮の上に成り立っているということを改めて知ることとなったのは言うまでもないだろう。もちろんまだオーディエンスは声を出すことができない。だがしかし、踊ることは出来るのだ。本稿では11月12日に東京・中野サンプラザホールで行われた夜の本気ダンスにとって二年ぶりの全国ツアー<TOUR 2021 “TANZ”>のファイナル公演の模様をお届けする。

定刻を少し過ぎた頃、暗転した会場に陽気な声とハンズクラップが響くと、ライヴスタートの合図だ。ゆっくりとミラーボールが回る会場にメンバーが登場するとオーディエンスはそれを拍手で出迎える。最後に満を持して米田貴紀(Vo/Gt)がステージインすると「どうも、こんばんは。僕たち京都のバンド、夜の本気ダンスです。宜しくお願いします!」と挨拶をするとすかさず「踊れる準備は出来てますでしょうか、東京!」と会場を煽り『Sweet Revolution』からライヴはスタート。<最高に最高を積み重ねる それが人生>という歌詞よろしく、最高に最高を積み重ねるのは全国ツアーにもあてはめられるだろう。そして、その集大成を披露するのがこのツアーファイナルなはずだ。

つづく『Can’t You See!!!』では米田はハンドマイクで腰をくねらせ自由に体を揺らし、シームレスに繋がるように披露された怪しげなダンスナンバー『Ain’t no magic』で徐々に会場を引き込んでいく。さらにMCでは鈴鹿が冒頭の言葉を述べるとともに、ツアー前に友達のバンドがツアーを無事完遂させた報告を聞いて勇気をもらったこと、それを受けて今度は自分たちがツアーをやり遂げることで周りのバンドへ同じように勇気を与えられたらと意気込んで臨んだツアーだったと語ってくれた。

「まだまだいけますか!溜めてきた分全部踊ろうぜ!」とこれまでの鬱憤を晴らすかのように鈴鹿が叫ぶと、米田も緩めたネクタイをステージへ投げ捨て『fuckin’ so tired』をプレイ。そのまま『NAVYBLUE GIRL』、『BIAS』、『By My Side』と曲間を感じさせぬまま流れるように巧みな演奏を見せ、これは彼らからの“休む隙も与えずに踊らせる”というメッセージのようにも感じる。ここからマイケル(Ba/Cho)と鈴鹿の遊び心あるセッションバトルを経て『Movin’』をドロップするとオーディエンスもさらに飛び跳ね会場を揺らした。

MCでは西田一紀(Gt/Cho)が淡々とした語り口でシュールな笑いをとるという関西人らしい一面も見せながらも『SOMA』で軽やかなカッティングを聴かせ、マイケルはグルーヴィなベースを響かせる。また、一転ダークな世界に会場を引き込んだ『Melting』から『empty boy』の流れではサイケなサウンドを鳴らしながら怪しげにステップを踏む。一様に踊るといっても、楽曲の幅が様々であるならば、踊り方も様々。そう、米田の言葉を借りれば“最低限のルールを守って人に迷惑を掛けなければ自由に踊っていい”のだ。椅子があろうが、声が出せなかろうが、自由に踊ることは我々に平等に与えられた楽しみ方なのだ。きっとその思いはツアータイトルである“TANZ(ドイツ語でダンスを意味する)”にも込めれられていることだろう。そして、その想いはつづく『Magical Feelin’』に乗せてオーディエンスに届けられ、さらに「クレイジーになろうぜ!」の声から始まった『Crazy Dancer』でラストスパートをかけると高速の裏打ちが自然と我々の体を揺らす。そして、とどめと言わんばかりに「一番踊れる曲で終わります!」と『GIVE & TAKE』をドロップして彼らはステージを後にした。

「日常生活でモヤっとすることも多いと思うけど、それに一番効くのがダンスやと言われているんですよ」と会場の笑いを誘ったのはアンコールの米田の弁だが、さらにこの言葉は思わぬ方向に進んでいくこととなる。
――踊っているときが一番スカッとするし、踊っているときにこそ生きている歓びを感じられると思うんだけど、みんなもそうじゃない?これまで音楽しかやってきてない僕が十年以上バンドをやってきて、僕の人生で伝えられることは踊ることの歓びだし、踊ることで生きてるなっていう気持ちを再確認できるような、そんな場所を提供するという使命を受けて生まれてきたのかなって最近は思ってます。だから、みんなが踊ってくれるというのが僕の一番の歓びであり、僕の人生に意味があるなと思えるので、これからも自由にやっちゃってください。
彼らがダンスナンバーを数多く生み出す理由、オーディエンスを踊らせる理由、そしてこのコロナ禍で声が出せない中で“ダンス”というシンプルな意味のツアータイトルをつけ、無事に完遂させたこと、そのすべてがこのMCに詰まっていたように思うのだ。そして、このMCに対して会場からはこの日一番の大きな拍手が送られた。

また、夜の本気ダンスは我々の体だけでなく心まで躍らせてくれるサプライズを用意してくれていた。このツアーを通して新曲を披露してきた彼らは、なんとアンコールにさらなる新曲を用意してくれていたのだ。まだレコーディングもされていないこの新曲はラテンの香りがするナンバーで、初めて聴くにも関わらず自然と体を揺らしてしまうような楽曲であった。また、ご機嫌なアッパーチューン『SMILE SMILE』でオーディエンスを笑顔にし、この日のラストナンバーとするかと思われた。
しかし、それでも鳴りやまないアンコールに応え、三度ステージに現れると鈴鹿が数分前に口にした「またすぐに会いましょう!」の別れの挨拶を持ち出し「またすぐに会えてうれしいです!」と笑いを誘うと、「夜の本気ダンスやんか。その名の通り(踊って)終わろうぜ。『SMILE SMILE』で笑って終わるのもいいけど、せっかくやったら笑って踊って終わろうよ!踊ったら勝手に笑顔になるからね!」と『WHERE?』を投下。米田はギターを弾きながら足を高く振り上げて踊れば、西田は気持ちよさそうにギターソロを奏でて見せた。そして、この日の正真正銘ラストナンバーとなったのは『TAKE MY HAND』。最後の力を振り絞るように鈴鹿が高速の裏打ちを放つと、呼応するようにマイケルは強靭なリズムを形成し、オーディエンスは一心不乱にダンス。盛り上がりはこの日の最高潮を迎え、やりきったオーディエンスに対して米田は「踊ってくれてありがとう!」と拍手を送った。

約二ヶ月にわたる全国ツアーを無事に終わらせた達成感と、ようやくこぎつけた全国ツアーが終わってしまうもの悲しさ、二つの感情が交錯する終演後であったが、「終わりがあれば始まりもあります!」と鈴鹿がとびきりの明るさをもって来年3月に自主企画「OH-BAN-DOSS」を約四年ぶりに彼らの地元・京都で開催すること発表すると会場は拍手に包まれ、また彼らの音楽で踊ることができる歓びを噛みしめた。もちろん、まだ予断を許さない状況であることに変わりはないが、MCでもあったように彼らが全国ツアーをやり遂げたことは周りのバンドの希望になりえるし、現状を打破するための第一歩であることに間違いない。この状況だからこそ笑うのだ。この状況だからこそ踊るのだ。暗い日々を嘆くだけでは何も始まらない。彼らが「SMILE SMILE」で<散々な日々には笑うといい ヴァンダイクみたく踊ればいい>と歌っているように、高らかに笑い飛ばして、踊り明かせばいい。そこに夜の本気ダンスが人生を賭けて伝える生きる歓びがあるはずだ。
取材・文:オザキケイト
写真:石崎祥子
《SET LIST》
- 1.Sweet Revolution
- 2.Can’t You See!!!
- 3.Ain’t no magic
- 4.fuckin’ so tired
- 5.NAVYBLUE GIRL
- 6.BIAS
- 7.By My Side
- 8.Movin’
- 9.SOMA
- 10.Melting
- 11.empty boy
- 12.Eternal Sunshine
- 13.Magical Feelin’
- 14.Call out
- 15.Crazy Dancer
- 16.GIVE & TAKE
- EN1.新曲
- EN2.SMILE SMILE
- WEN1.WHERE?
- WEN2.TAKE MY HAND
夜の本気ダンス
夜の本気ダンス presents "KYOTO O-BAN-DOSS" 2023年3月25日~26日 開催!
夜の本気ダンス presents "KYOTO O-BAN-DOSS"
2023年3月25日(土)、3月26日(日)
京都 KBSホール
出演 : 夜の本気ダンス 他
詳細は夜の本気ダンス公式サイトへ
http://honkidance.com/
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<CD収録楽曲>
1.審美眼
2.Wall Flower
3.STARLET
4.VANDALIZE
5.エトランゼ
6.Falling Down
初回限定盤付属のBlu-ray/DVDには夜の本気ダンス TOUR 2021 "TANZ" 2021年11月12日 中野サンプラザホール公演を収録!