2021.6.23 “Wonderer Tour at EX THEATER ROPPONGI” ライブレポート
エンタテインメント業界で聞かれる“これまで通りを取り戻す”という言葉。音楽業界でいえば、心置きなく声出しが出来るオールスタンディングのライヴ、モッシュやダイブで全身を使ってライヴを楽しむこと等が挙げられる。また、忘れられがちだがその中にきっと全国ツアーも含まれるだろう。これまでは当たり前だった全国ツアーという言葉はめっきり聞かなくなり、首都圏でのライヴは再開されても地方でライヴを行うまでとはいかないこの一年間だったように思う。しかし、2021年になると徐々にツアーを再開させるアーティストも増え、Nothing’s Carved In Stoneも3月から6月にかけて全国ツアーを敢行。緊急事態宣言に伴う延期分はあるものの6月22日と23日にかけて東京・EX THEATER ROPPONGIにて行われたツーデイズをもって『Wonderer Tour』を完遂した。本稿ではツアーファイナルである6月23日公演の模様をレポートする。
定刻、暗転する会場が拍手に包まれるなかNothing’s Carved In Stone(以下、NCIS)の面々がゆっくりとステージインすると、その拍手はさらに大きくなり彼らを出迎える。拍手が止んだその一瞬、すべてを飲み込むような『Like a Shooting Star』の強烈な音圧と爆音でツアーファイナルの幕は切って落とされた。「いけますか!」と村松拓(Vo/Gt)が叫ぶとオーディエンスはハンズクラップで応え、日向秀和(Ba)と大喜多崇規(Dr)は見事にユニゾンを決める。つづいて披露されたのは生形真一(Gt)の激渋リフから始まる『Bloom in the Rain』だった。剛と柔、強靭さと繊細さ、相反する二つの要素が目まぐるしく入れ替わり顔を出すのがNCISの魅力だ。さらに、村松がハンドマイクでパフォーマンスを見せた『In Future』、『Bog』では「心は自由に!体揺らせ!」と声を掛け会場の熱を徐々に上げていく。
次第に熱を帯びていくフロアに対し「よく来たね!会いたかったよ。ありがとう!」と挨拶をすると『NEW HORIZON』をプレイ。<あの日の傷を今地図に変えて、素晴らしい世界の果てを見つけ夢のような地図を残す>と歌ったこの曲は、果ての見えないコロナ禍を胸に、その先の世界を暗中模索するNCISの姿、ひいてはエンタテインメント業界の姿なのだと感じる一幕だった。つづく『Rendaman』では生形のソリッドなギターにオーディエンスが拳をあげると、日向はモンキーダンスでご機嫌の様子。さらに、村松が「踊りませんか、六本木!」と声を掛けて始まった『Brotherhood』ではその心地いいリズムにオーディエンスは体を揺らし、『Hand In Hand』では彼らの巧みなバンドアンサンブルを堪能することができた。変幻自在に音の質感やリズムを操りながら、時にはダークに、時にはキャッチーなメロディーを乗せ、洋楽と邦楽の隙間を縫うような絶妙なバランスで存在しているのがNCISなのだ。
この日のライヴは配信でも見ることができたため、画面の向こうのファンにも声を掛け、「いろんな状況がある中で、遊び方が選べるのは特別だと学びつつ、その分(ライヴハウスに足を運んでくれることを選んだ)みんなの準備が整っていることは感じてます。最高です!」と改めて感謝を述べた。そして、今回のツアータイトルにもなっている新曲に関しても「“Wonderer”という言葉には“何にでも興味を持つ”とか“いろんなことを探求していく人”という意味があるんですけど、この曲の歌詞はこんなニッチでマニアックなバンドを見つけてくれるような精神や心意気を持って、ここに集まってくれた皆さんのことを想って書きました」と語りオーディエンスに『Wonderer』を届けた。
まだまだ出口の見えないこの現状において、求められているのはまさしく“いろんなことを探求していく人”なのかもしれない。見えない明日を探し、自らの手で夜明けを引き寄せるんだと言わんばかりに『村雨の中で』で我々の心を奮い立たせると、スライドバーを使った生形のギターが印象的な『Mirror Ocean』、さらに音の説得力をもってこれぞNCISサウンドというところを見せつけるように楽器隊の個性がぶつかった『Milestone』で会場 を圧倒した。
ここからはラストブロック。「みんながそれぞれのフィールドで悩んで、頑張れるように音楽があるんだと思います」という村松の言葉が、いかにエンタテインメントが必要で大切かを物語っている。さらに「ただ、音楽があるのも音を楽しんでくれるみんなのおかげ」と付け加えて披露された『きらめきの花』でポップネスを響かせ会場をひとつにすると、『Spirit Inspiration』『Beginning』といった重厚なナンバーでラストスパートをかける。そして「今夜だけは最高の夜にしようぜ!踊れ!」とオーディエンスを焚きつけ『Out of Control』をドロップ。縦横無尽のベースプレイを魅せる日向と、ボトムを支え、巧緻なドラミングを響かせる大喜多の鉄壁のリズム隊はこの曲でも健在で、中盤笑顔で拳を合わせるシーンも見ることができた。また、この日の本編ラストとなった『Dream in the Dark』の前に村松がこんな話をしてくれた。
――去年一年ちょっとしんどいなって思うこともあったと思うんですけど、僕らも実際決めたことややろうと思ってたことがどんどん流されて、自分たちの思い通りには決してならなかったんですね。そのなかで、活動を続けてきてよかったなと思える一つの結果が、自分たちが出した曲に支えられたなという思いがあります。その曲を最後六本木に捧げて終わりたいと思います。
思い通りにいかない期間の彼らを支えたこの楽曲は<思い出せ お前にはそう 行き先がある>と歌っている。そしてさらに<僕らの行く先は一つじゃない>とも歌っているのだ。変わり続ける世の中に対し、自らも変わっていくことを恐れない強さを感じることが出来るこの曲の最後は<変わり続けてでも歌い続けるよ僕は>と締めくくられる。この決意の先にあるものこそが彼らにとっての新たな夜明けであるのだとこの日の本編を通して感じることができた。
アンコールは真っ青に染まった美しいライティングの中、すべてを包み込むような優しさで歌われた『BLUE SHADOW』から。「楽しかったな」とつい本音を漏らし、名残惜しそうに笑う村松の口から9月に2年ぶりに行われる日比谷野外大音楽堂ワンマンの告知がされると会場は大きな拍手に包まれた。そして「また必ず会いましょう」という挨拶とともに『November 15th』をラストナンバーに彼らはステージをあとにした。
一進一退を続ける世の中の流れを見ると、この長い夜はもう少し続きそうだ。しかし、変わり続ける世の中に飲み込まれることなく、彼ら自身も柔軟に変わっていくしなやかさと懐の大きさを、その圧倒的な音の説得力と楽曲を通して示すツアーだったように思う。本編中、『Wonderer』に関しての話をした際に村松は「“Wonderer”にはもうひとつ“Dreamer”という意味をもたせてあります」と話していた。彼はいろんなことを探求していく人の姿にファンの心意気を重ねたと話していたが、その姿勢と夢想家が同義であるならば、明日が見えないなか恐れることなく新たな夜明けを探求し、そこに向けて突き進むNCISの四人もまた“Wonderer”と呼ぶべきなのではないだろうか。そして、彼らが見つけた新たな夜明けがこれまで通りでなかったとしても、彼らはきっと歌い続けるのだろう。
取材・文:オザキケイト
ライブ撮影:RYOTARO KAWASHIMA
機材撮影:小野寺将也
《SET LIST》
- 1.Like a Shooting Star
- 2.Bloom in the Rain
- 3.In Future
- 4.Bog
- 5.NEW HORIZON
- 6.Rendaman
- 7.Brotherhood
- 8.Hand In Hand
- 9.Wonderer
- 10.Alive
- 11.村雨の中で
- 12.Mirror Ocean
- 13.Milestone
- 14.きらめきの花
- 15.Spirit Inspiration
- 16.Beginning
- 17.Out of Control
- 18.Dream in the Dark
- EN1.BLUE SHADOW
- EN2.November 15th
Nothing’s Carved In Stone
“Perfect Sounds 〜For Rare Tracks Lovers〜” 開催!
Nothingʼs Carved In Stone
“Perfect Sounds 〜For Rare Tracks Lovers〜”
10/11(金)GORILLA HALL OSAKA
11/15(金)Zepp DiverCity(TOKYO)
OPEN 18:00 / START 19:00
チケット:一般 5,300円(税込) / 学割 3,800円(税込)
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その都度コンセプトを打ち出し、それに沿ったセットリストでお届けするという企画です。
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