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クラシックギタリスト猪居亜美、CLASSIC×ROCK東京公演。
今年はロック系の曲をクラシックギターにアレンジした曲をレコーディングした4枚目のCD『My Immortal』をリリースし、猪居亜美にしか創り出せない独自のスタイルを確立しつつある。
そんな猪居亜美の東京公演の模様をお届けする。
前半はクラシックの重量級セットリスト。バロック時代の巨匠J.S.バッハの名曲に始まり、キューバの鬼才L.ブローウェルの人気曲など、テクニックと表現力を必要とする定番曲ながら、弾きこなすには相当なテクニックが必要な曲がずらりと並ぶ。言わば正統派のクラシック音楽の伝統をしっかり受け継いだプログラム。そして後半はメタルを中心としたロックの名曲をクラシックギターアレンジでお届けする構成だ。
幼少の頃からギタリストである父のもとでギターを弾き始め、小学生の頃には既に超絶テクニックでその存在を知られるようになっていた猪居だが、これまでの歩みは他のクラシックギタリストとは一線を画した個性的なものであった。
大阪音楽大学在学中に、YouTubeにアップした演奏がレコード会社の目に留まり、CDデビューとなった。そんな猪居亜美のYouTubeチャンネルでは、クラシックギターの定番曲だけに留まらず、「クラシックギタリストが、エレキギターで紅を弾いてみた。」でX(現X Japan)をエレキギターで見事に演奏し多くの視聴者を驚かせた。
YouTubeチャンネルをまだ見ていない方がもしいるなら、是非早く観ることをお勧めする。クラシックの名曲演奏はもちろん、前述の「クラシックギタリストがエレキを弾いてみた」の他にも、「速弾き最速チャレンジ!!」など、楽しさ満載のチャンネルだ。
近年の猪居亜美の活躍はクラシック音楽を基調としつつも、大好きだったロックを大胆に取り入れたプログラムで、他のクラシック演奏家とはあきらかにスタンスの異なる唯一無二のスタイルで演奏活動を行っている。これほどまでに独自のスタンスへと振り切ることが出来たのは、所属事務所の大澤明恵氏との出会いが大きかったようだ。「現代ギター」誌の12月号では大澤明恵氏のインタビュー記事が掲載されており、猪居亜美とのこれまでの歩みが語られている。ファンにとってはこの記事も要チェックだ。
さて、本日の会場は五反田文化センター音楽ホール。収容人数は250名。高い天井で生音の良さがダイレクトに伝わるクラシック音楽に最適の響き良いホールだ。
開演時間の19:00、明るくなったステージに登場。女性のクラシック演奏家のステージ衣装と言えばドレス衣装がスタンダードだが、膝の空いたダメージデニムで登場!温かい拍手が会場に沸き起こる。手にしているギターは愛器マーク・ウシェロヴィッチのダブルトップモデル。これまでもマーク・ウシェロヴィッチのギターをメインで使用していたが、今回は完成したばかりの新作。これまで使っているトラディショナルモデルよりも音量がアップしており、その一方で楽器のテンション感は柔らかい感触とのことだ。
1曲目はバロック時代の巨匠J.S.バッハ(1685-1750)の名曲『前奏曲、フーガとアレグロBWV998』。クラシックギターのプロはもちろん、アマチュア愛好家の腕自慢たちにも愛奏される定番曲。バロック時代の曲なので、クラシックギター演奏用に編曲されている。
チューニングを確認し、少し指を温めて集中力を高め、ゆったりと美しい単音メロディーから始まる前奏曲が流れるように紡ぎ出される。一瞬にして会場は心地よい雰囲気に包まれる。このようなゆったりした曲での歌いまわしや表現の豊かさも魅力の一つだ。
第2楽章は、バロック音楽特有の対位法で旋律が複雑に絡み合うフーガ。荘厳な響きとともに和音の美しさとリズムの妙に幸福感に包まれる。
最後の第3楽章のアレグロは速いテンポで華麗に弾ききるテクニックが必要とされるが、想像していた以上の早いテンポで演奏され、ギターの音色の美しさだけでなく一種の爽快感を感じさせる演奏で1曲目から面目躍如となった。
バッハを華麗に弾き終えて拍手に応え、MCでは、まず「平日にも関わらずお仕事の都合を付けたりして頂いてのご来場ありがとうございます!」と感謝の言葉を伝えた。そして、本日のプログラム構成を簡潔に説明した後、2曲目へ。
2曲目はL.ブローウェル(1939- )の『ラ・グラン・サラバンダ』。キューバの鬼才にして、今回のクラシックプログラムの曲目の中では、唯一現在も活躍している作曲家。バロック時代の作曲家G.F.ヘンデル(1685-1759)の有名なサラバンドを彷彿とさせる曲調に仕上げられており、ブローウェル氏の数多くのクラシックギター独奏曲の中でも特に気合を入れて作られた曲。この日のプログラムの中でもとりわけ難曲であるが、その素早い指捌きやパッと開く長い指にも眼を奪われる。あまりのスピード感と超絶技巧に圧倒されるスリリングな演奏!
3曲目はスペイン民俗楽派の大家I.アルベニス(1860-1909)の『アストゥリアス』。ピアノ曲ながら、ギターの響きを意識して作曲されており、激しいラスゲアードや高速アルペジオなどクラシックギターの魅力全開の名曲。プログラムの中では最もクラシックギターの定番曲と言えるだろう。この曲は数多くのギタリストがギターに編曲しているが、猪居亜美が使用した版は、ドイツの名ギタリストT.ミュラー・ぺリング編。ちなみに、T.ミュラー・ぺリング氏は、猪居亜美の兄で同じくギタリストである猪居謙のドイツ留学時代の師でもあり、世界的に著名なギタリストである。数多くのギタリストに演奏されてきたこの曲は、クラシックギター愛好家にとって一番耳に馴染んだ曲ながら、数多のギタリストとは一線を画すスリリングさを伴う高速テンポで華麗に紡ぎ出されていく。曲の後半ではほとんど手元を見ることもなく(ステージ左のあらぬ方向を見て弾いていた)高速のまま弾き続けているその姿はゾーンに突入したのかと思わせる。
4曲目はF.シューベルト(1797-1828)の『涙の賛美』。この曲はロマン派時代のギタリスト兼作曲家J.K.メルツ(1806-1856)によってギター用に編曲されたロマンティックな曲。クラシックギターのもつ繊細さと美しさが存分に発揮されるこの曲はファーストCD『Black Star』でも収録している。超絶技巧の曲が続いた後にロマン派の癒し系の曲でいったん会場を落ち着かせる。ゆっくりした曲での表現力や歌心にもますます磨きがかかって素晴らしい。
前半最後の曲へは聴衆の拍手する間を与えずに続けて演奏を開始する。
前半最後の『エチュードNo.12』はブラジルの作曲家H.ヴィラ=ロボス(1887-1959)の12のエチュードの最後の曲だ。これまでのコンサートでもしばしば演奏されてきたテクニカルでギターならではの演奏技法がふんだんに盛り込まれた曲で前半を締めくくった。
ギターの音色、和音の響き、華麗でスリリングな演奏に時を忘れ、あっという間に前半が終わってしまった。
猪居亜美
猪居亜美 CLASSIC×ROCK 2025 —Bach×Yngwie 開催決定!
【東京】
2025年4月19日(土)14:00開演
Hakuju Hall
【大阪】
2025年6月1日(日)14:00開演
ザ・フェニックスホール
○チケットぴあ:https://w.pia.jp/t/ami-inoi/
○ローソンチケット:https://l-tike.com/ami-inoi/
○イープラス:https://eplus.jp/ami-inoi/
猪居亜美『My Immortal』Now On Sale!!
自らのルーツを辿る ロック・カバー・アルバム
クラシックギタリストとしての地平に身を置きつつ、ロックをルーツのひとつとする猪居亜美。
世界的ギタリストのマーティ・フリードマンとの共演や「CLASSIC×ROCK」と題したコンサートシリーズの開催、クラシック専門誌「音楽の友」での「猪居亜美のGuitar’s CROSS ROAD」連載など、ボーダレスな活動を展開する猪居による、待望のロック・カバー・アルバムの登場です。
猪居自身のチョイスによる、いずれも美音とこだわりが光る珠玉の10曲を収録。本人書き下ろしの解説と合わせてお楽しみください!
発売日:2024年4月10日
商品番号:FOCD9904 POS:4988065099046
[収録曲]
Sweet Child O' Mine(Guns N' Roses)
Lithium(Evanescence)
My Immortal(Evanescence)
Endless Rain(X Japan)
雨のオーケストラ(MUCC)
紅(X Japan)
Goodbye to Romance(Ozzy Osbourne)
Dee(Randy Rhoads)
Master of Puppets(Metallica)
Numb(Linkin Park)
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