ジャンルを超えた弦楽器の活用シーンが広がり、年々高まりを感じるエレキ弦楽器への関心。
“斬新で美しいデザインとステージユースにふさわしい優れた性能を兼ね備えたパフォーマンスのための新世代のエレクトリックバイオリン”として2016年に誕生したヤマハ YEV。立体的な造形美と木材の質感を活かしたオーガニックなデザインは発売当初より、多くのファンの心をつかみ、エレキ弦楽器の裾野を広げることに大きく貢献してきた。
そして今秋に加わったのが、シリーズ2代目となるYEV PROだ。初代YEVから8年ぶりとなる新型の登場とあって、初代YEVからの買い替えを検討している方も多いのではないだろうか。そんな注目のニューモデルを、開発担当を担った松嶋朗生さんと、生粋の“エレキバイオリニスト”として活躍を続けるTao(たお)と共に紐解いていこう。
アコースティックバイオリンの本格的な響きと演奏感を追求したNEWモデル
プレイヤーの表現力を最大限に引き出す上位モデルとして、新たに発売となったYEV PRO。エレクトリックバイオリンに求められる性能をしっかりと確保しながら、思わず手に取りたくなるようなワンランク上の高級感を実現。さらには重量の軽量化、弾き心地を含めたトータルバランスもしっかり高められたオールラウンド・パフォーマンスモデルとなっている。
開発にあたってはヤマハがこれまで培ってきたYEVの基本性能をベースとしながら、ハイエンドモデルにふさわしい外観とデザインにアップデート。新設計のボディ構造や、ブリッジの仕様改良といった大きな変化の中で、ステージユースの要望を取り入れたペグの採用、フィッティングパーツの質感の向上といった、細部へのこだわりも欠かさない。海外で先行して発売されたこともあり、多くのプロミュージシャンからの信頼を獲得しながら、満を持しての日本市場導入となったのである。
新型は細かなところが結構違う
世界に誇る木材加工技術を巧みに活かした、木目のディテールと特有のシルエットが評価され、国際的権威であるドイツのデザイン賞「iFデザインアワード2017」において、最高賞の「iFゴールドアワード」を受賞しているYEV。世界に認められた優れたデザインの次にヤマハが求めたものは何なのだろうか?
確立されたYEVのデザインを継承し、それをどういった形でより洗練させるかを考えたという松嶋氏。金属箔を使用した光沢感のあるブランドロゴや、ボディ色に合わせた上ナット、フレームの彩飾など、ハイエンドモデルに与えられた新たな装いとともに、まずは真っ先に目を惹く“指板”について伺った。
「YEVが持つナチュラルな質感をより引き上げるために、まず取り入れたのは指板材の変更です。YEVを正面から見てみると、表面積の多くを指板が占めていることがわかると思います。従来通り黒色のみで指板を統一してしまうと、どうしてもバリエーションが限られてしまう。そこでエレキギター/ベースでは馴染みのある、メイプル材を大胆に用いることで、デザインの変更を図っています」
外観の変化に大きく影響しているYEV PROのメイプル指板。
一般的にはエボニー(黒檀)と比べて柔らかいとされる木材だが、検証を重ね、遜色ない硬度を獲得しているというから驚きだ。風合いを生かしたナチュラルと、ステージ映え確実なレッドの2色を展開している。
「YEV PROでは胴部を光沢のある仕上げとすることで、木材の個性である木目の表情がより引き立つようにデザインしました」と話す松嶋氏は続いて、“新設計のボディ構造”について解説する。「胴部には伝統的なバイオリンの製法と同じ木材を使用していて、表板はスプルース材、裏板がメイプル材となっています。また、ボディ側面にはスリットを入れ、アコースティックバイオリンを模した空洞構造としました。これらによって、より自然で豊かな響きを実現できています」
実際にそれを確かめるべくTaoは周辺機器を介さず、まずは生音のみでインプレッションをスタート。
「従来のYEVも十分立派なエレクトリックバイオリンでしたが、YEV PROになって出音がよりアコースティックのバイオリンらしく、立体的になったなと感じます。これは、先ほど松嶋さんが話してくれたように、新型のボディが空洞になっているからこその恩恵だと思います。楽器全体が響き、自分の顔周りでもしっかり振動していることがわかります。ビブラートや音程移動した時のニュアンスがアコースティックなものに近く、自分で楽器を鳴らしている感覚があるのはいいことです」
「アコースティックにより近い感覚を得るための軽量化と響きの追求の中で、作り上げたボディ構造です」「採用しているピエゾピックアップは、弦振動のみでなく、楽器全体の振動も感知しますので、ボディそのものの鳴りにこだわり、それが自然な響きとなるように、スリット位置や長さを幾度となく試行しました」(松嶋)
外観の変化と統一による高級感、プレイアビリティーともに先代モデルから大幅にレベルアップしていると言えるYEV PRO。サウンドの要となるピックアップはどうか?
「ブリッジのメイプル材にA.R.E.処理(*1)を施し、音質、レスポンスがさらに向上しました。また、YEV104/105ではブリッジの両面を覆っていたシールドカバー(*2)を、YEV104/105PROでは片面を除去し、テールピース側のみとしています。素材自体も薄いものへと変更することで、ブリッジの動きがより自由になり、弓の動きの変化を繊細にキャッチし、音に変換することが可能になりました。また、駒内部にあるピックアップ部分のシールド処理を適切に行うことで、徹底したノイズ除去を行なっています」(松嶋)
(*1)「A.R.E.」とは、Acoustic Resonance Enhancementの略で、短期間で木材を熟成させ、長年使い込まれた楽器のような鳴りを生み出す画期的な木材改質技術。
(*2)シールドカバーとは、楽器本体をアンプ等の機器に接続した際に発生するノイズを防ぐための金属製カバーです。YEV104/105PROでは片面のみのシールドカバーですが、ピックアップ内部にシールド処理を施しているため、シールド性能に問題はありません。
ボディ背面に搭載されているボリュームコントロール。スイッチのON/OFFでピックアップの信号を直接出力(ダイレクトアウト)するか、ボリュームコントロールを経由して出力するかの切替を行なう。外部電源を必要としないパッシブ回路の特性上、ボリュームポッド(抵抗)を介することで、低域の成分が減少する。手元での音量調整や、若干のニュアンスを変えたい場合にはON。楽器本来のふくよかでパンチのある低音が欲しい場合はスイッチOFFが推奨となる。
キープコンセプトとして、パッシブ出力を採用しているYEV PRO。電源確保の心配がなく、シンプルで軽いというのが最大のメリットであり、「軽いは偉い」とつくづく感じる。特性上ハイインピーダンスの信号となるため、性能を十分に活かすためには、1MΩ以上の入力インピーダンスを持つ機器(プリアンプ、ダイレクトボックス、楽器用アンプ等)に接続するのがオススメだ。
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