2023.1.10@新宿PIT INNライブレポート
新年の幕開けから程なくして活躍の場を披露してくれた石井智大。パフォーマンスの場所に選んだのは新宿Pit Inn。ベーシスト水谷浩章が主催する2DAYS公演の2日目『糸と結晶』公演において、先述した水谷浩章(B)と石井智大(Vn)、波多野敦子(Vla)のトリオに安田芙充央(Pf)をゲストに加えた弦楽ユニットの編成でライブは行われた。
2022年10月に結成された新たなユニットの中で、石井はオリジナル楽曲2曲を披露した。
「アレンジされたアンサンブルと即興演奏の境目がないような弦楽ユニットを目指している」と話してくれた石井。2年程前に作ったという自身の楽曲『Tranquilizer』では「弦楽器=クラシック」のイメージを大きく変えてくれるサウンドを披露してくれた。『精神安定剤』というタイトルから放たれるのは「そういった物」が及ぼす影響や感情の起伏。それを「即興演奏」というスタイルに落とし込いく。定型なく漂いゆらめく、独自の雰囲気をまといながら場を支配していく様は聴衆をその世界観へ深く引き込んでいくのであった。
後半で魅せた『Prophet』でも石井ならではの感性が光る。繰り返される暗いベースパターンの上で一つのモチーフを変容させていく。「未来は全く未知なるものではなく確かな現在の連続」だと石井は語り、音楽的な「Prophet(預言)」を示し「即興演奏」によって未来へと歩んでゆくことをコンセプトとして描いた作品だ。
いわゆる「ジャズ」的な演奏論から離れようと試行錯誤しながら辿り着いた思い入れのあるナンバーを届けてくれた。
自身の楽曲を創造し、表現していくことにこだわる石井。それは他でもない、唯一無二の自分という存在を足らしめ、昇華させるためのプロセスなのだとこの日の演奏を聴いて強く感じるものがあった。
「Quadrangle」(Piano: 石井彰、Violin: 石井智大、Bass: 水谷浩章、Drums: 池長一美)
「柊」(Vocal: 吉田美奈子、Piano&Synth: 森俊之,石井彰、Strings: 石井智大、Bass: 吉野弘志)
「葉緑体」(Sax: 津上研太、Piano: 魚返明未、Violin: 石井智大、Drums: 外山明、Bass: コモブチキイチロウ)
「Less is more String Quartet」(Violin: 石井智大、Violin: 加藤周作、Viola: 塚本遼、Cello: 中西圭祐)
と、今後も意欲的な展開を見せていく石井。時には1つの会場にバイオリン、ビオラ、チェロと周辺機器(マイクやエフェクターボード等)という、体ひとつでは相当な労力となる機材を持ち込みプレイすることもあるから驚きだ。限界に常に挑む姿勢があるからこそ、そのパフォーマンスが人々を魅了し、感動が生まれるのだという、身体表現の本質を改めて石井は見せてくれたのだった。
取材・文:廣瀬航
撮影:m.yoshihisa