春の訪れを、歌声の風を通して感じながら…
3月に発売した5thアルバム『儚く脆いもの』を手に桜の季節の訪れと共にスタートした藤巻亮太の全国ツアー「儚く脆いもの」も、4月24日にZepp DiverCityで行った公演で最終日を迎えた。ここでは、ツアーの有終の美を飾ったファイナル公演の模様をお伝えしたい。
張りつめながらも美しい、まるで冬が閉じ、春の訪れを告げるような演奏か流れだす。場内中から起きた温かな手拍子。やがて、メンバーらがステージへ。青い光に包まれた幻想的な舞台へ、少しずつ光が増してゆく。そして…。

ドラムのカウントを合図に、藤巻亮太のライブは、ここから春の幕開けを告げるように最新アルバムの冒頭を飾った『桜の花が咲く頃』から始まった。藤巻亮太はギターを弾きながら、言葉のひと言ひと言に感情を込め、おおらかな心でゆったりと歌っていた。まるで大樹のような、堂々とした姿だ。その温かい歌声へ素直に気持ちを委ねたい。次第に色づき、花咲く歌声に触れていると、心が少しずつ踊りだす。だから、ステージの上で舞い踊る歌の花びらを心の手で受け止めては、両の掌で大切に包み込んでいた。

季節を巡るように。しかも、気持ちが次第に華やぐようにライブは進んでゆく。軽快にギターを掻き鳴らし『ベテルギウス』を歌う藤巻亮太の姿に、ますます気持ちが踊りだす。彼自身も、心のストッパーを外し、少しずつ気持ちを解き放ち、沸き上がる想いのままに歌声を響かせていた。軽快に駆けるように進む演奏に触れ、フロア中の人たちも大きく手を振り、身体を揺らしていた。さすがに光の速さのようにはいかないが、身体も、気持ちの速度も、確実に上がり続けてゆく。

曲が進むごとに、期待や興奮という感情が熱を放ちだす。藤巻亮太を中心に、メンバーたちが熱く音を交わすように『Heroes』を演奏。疾走する楽曲と高らかに響く歌声に気持ちを騒がせた観客たちが、さらに熱い手拍子を繰り出し、高く掲げた手を大きく振りながら、駆け続ける演奏へ心地好く身を任せていた。気持ちが華やぐとは、この日の序盤の流れのことを言うのだろう。さすが、僕らのヒーローだけのことはある。そのイカした展開に、今は素直に身を委ねてはしゃいでいたい。
フロア中から飛び交う「亮太くーん!」の黄色く熱いコールを受け、思わず照れてしまう藤巻亮太。互いを求めあう、その熱い関係が素敵だ。MCでは、桜前線と一緒に駆け続けてきたツアーへの思いについて語っていた。

この日は、最新アルバムの楽曲を中心に、出会いと別れなど、冬と春の季節が似合う歌をいろいろと選曲。次に歌ったのが、『Glory Days』。何かが始まるワクワクやそわそわ、ドキドキと心を揺らす演奏に、ずっとときめいていられたのが嬉しい。この曲は、別れを受け入れられない主人公の、愛しい人への思いを巡らせる切ない内容。でも、明るい曲調を含め、彼自身が明日をつかもうと歌い奏でていた。だから観客たちを、切なさや悲しみを振り切ってでも前へ進もうとする前向きな気持ちへ導いていったのかも知れない。藤巻亮太は光を携えた、でも、どこかもどかしさが心の中で燻るような声で歌っていた。曲が進むにつれ躍動する楽曲に合わせ、彼の歌声に確かな熱が漲ってゆくのを、身体を揺らしながら感じていた。

続く『指先』では、まだ少し冷たい4月の冬の風を頬に覚えながら。でも、訪れた春を身体中で感じようと、肌寒い音色の上へ温もりを落とすように歌っていた。とても情緒を覚える楽曲と歌声だ。冷えた心が次第に色づく、そんなドラマを描くように藤巻亮太は歌っていた。始まりはしっとりめに。でも、何時しか朗々と歌声を響かせ、彼は歌声の光を投射しながら、もの悲しくも叙情的な物語を一人一人の心に映しだしていた。藤巻亮太の歌には、悲しみやもどかしさに身悶えながらも、未来をつかもうと踏み出そうとする物語が多く綴られている。だから、彼の歌声の筆が綴る想いの一篇一篇を読み進めるように追いかけ、耳と心で演奏と歌声を受け止めては、胸の内でギュッと抱きしめ続けていた。
MCでは、ふたたび最新アルバムに詰め込んだ想いを語っていた。そこでは、同級生や同世代の人たちの心が求める楽曲について。そして、40代の今だからこそ素直に書けた歌について語っていた。

アコギを手にした藤巻亮太は、この場にいる人たちの心へ、愛を込めた歌声の風を吹かせるように弾き語りで『愛の風』を歌っていた。日々の暮らしに追われながらも、ときに強がりながら、みずからを奮い立てて頑張る人たちの気持ちへ寄り添い、少しの元気を送るように、藤巻亮太は優しい声で『愛の風』を歌っていた。温かい演奏に乗せ、過去や現在など、いろんな時代の自分に想いを馳せながら、この場に足を運んだ、日々を頑張って生きている一人一人にエールを送るように、おおらかな心で歌っていた。

胸を優しく踊らせるような演奏に乗せ、藤巻亮太は、後悔や悲しみを胸に巡らせながら『真っ白な街』を歌いだした。冬の訪れを告げるように降り続ける雪に、その悲しみをすべて隠してしまいたい。そんなもどかしい気持ちを、彼はこの曲に乗せ、情緒を持って届けていた。暗く滲んだ気持ちへけっして闇や影を覚えないのは、演奏もそうだが、後悔を吹きとばそうと力強く歌う藤巻亮太の歌声の力に惹かれていたからだ。

悲しい心模様を綴った冬を舞台にした歌は、『粉雪』へ。悲しい心模様へさらにもの悲しさを重ね、愛しい人へ想いを届けるように藤巻亮太は歌っていた。感情が大きく揺れ動くのに合わせ、彼の歌声も高らかに響き渡る。自分の心の動きを確かめるように。心の中のスクリーンへ淡い物語を色濃く映しながら歌う。誰もが、想いを語るように歌う藤巻亮太の姿を見つめては、心の中で様々な思いを巡らせていた。
MCでは、冬の景色や雰囲気を味わっていただきたいと思いを述べていた。さらにここでは、大阪のファンたちに好評だった「ニャ~」の掛け声も、かわいらしくあげていた。ここでも藤巻亮太は、自分の原点や、日常にある想いを元にしてアルバムの曲たちを作ってきたことを語っていた。

ここから新しい世界を描き、彩ろうとするように、力強く荒々しいギターの音が心を奮い立てるように響き渡る。攻めた演奏に乗せ、藤巻亮太は気持ちを奮い立て、「戦う理由がある限り」「朝焼けの向こう側で」と、輝きを追い求めるように凛々しい姿で『朝焼けの向こう』を歌っていた。とても強烈で、刺激的で、攻撃的で、性急な演奏に乗せ、彼はひと言ひと言に強い意志と魂を込めながら。そこへ希望という光を射すように「諦めるなこの心よ」と歌っていた。朝焼けの向こうには、一体どんな景色か広がっているのだろうか。そんな希望や願いを胸にした歌が、彼の朝焼けのような光を放つ声を通して、一人一人の心に眩しい輝きを射していた。僕らの未来は、果たして朝日に染まっているのだろうか…。

「ラララ」と、寂寥感を抱いたもの悲しい演奏と、影を背負った歌声が響きだす。変拍子の利いたトリッキーな演奏に乗せ、藤巻亮太は思いを巡らせるように、言葉の一つ一つに強く思いを込めて『大地の歌』を歌っていた。とても哲学的な、触れた人たちにいろんな思いを巡らせる楽曲だ。歌うその姿を、誰もがじっと見入っていた。「大地とともに生きてゆこう」の言葉が、心を奮い立てる。この曲と彼の歌声に触れていると、いろんな感情が錯綜してゆく。藤巻亮太自身も、みずからと向き合い、この曲を通して己自身の生き方の指標を求めていたのかも知れない。後半へ進むにつれ感情的になる歌声と演奏に、いつしか高ぶる熱を覚えていた。最後に響かせた「ラララ」の歌声に、あなたならどんな想いの言葉を乗せるだろうか。

荒々しいギターの音も、印象的。腰をゆっくりと上げ、ふたたび駆けだすような演奏だ。『メテオ』で藤巻亮太は、巡るもどかしい想いを、すべて焼き尽くしてやれと叫ぶように、胸の内で燻る焦燥を燃やすように、「メテオ メテオ すべてを焼き尽くして」と歌っていた。言葉のひと言ひと言が、強い衝動ともどかしさを持って突き刺さる。とても重いテーマを据えた曲たちを集めたブロックだ。でも、そこに情熱や希望を覚えずにはいられないのも、彼がそう心を導いてくれるからだろうか。


三線の音色が響き渡る。それまでの暗く破壊的な感情を優しい海風で吹き流し、心を穏やかに染めてゆくように、言葉のひと言ひと言へ強く確かな愛を込めながら、藤巻亮太は優しい声で『ハマユウ』を歌っていた。沖縄の風を覚える穏やかな演奏に乗せ、大切な人への想い巡らせて歌うその声を、もう会えない大切な人との想い出に重ね合わせて受け止めていた。穏やかな、でも確かに躍動する南風のような歌に、今は情緒を覚えながら浸っていたい。
MCでは、最新アルバムに収録した曲たちへ、バンドサウンドという魔法をかけたことを語っていた。

ライブも後半へ。この場に熱い熱い風を巻き起こすように、藤巻亮太が歌ったのが『南風』。イントロが流れた途端、フロア中から起きた力強い手拍子。その手拍子の音も躍動するビートにし、みずからも身体を縦に揺らしながら、ステージの上から爽やかな歌の風を吹かせてゆく。フロアでも、大勢の人たちが高く掲げた手を左右に大きく振りながら、場内中に吹く優しい歌声や演奏の風を真正面から受け止め、より大きな熱風に変えるように掻き混ぜていた。誰もが心を解き放ち、その場ではしゃいでいた。曲が進むほどに、観客たちの振り上げた手の動きも大きくなる。さぁ、掲げたその両手を左右に大きく揺らし、もっともっと歌の風を巻き起こしていけ!

その勢いをさらに膨らませるように届けたのが、『以心伝心』。激しく躍動した攻撃的な楽曲に乗せ、フロア中の人たちも感情のストッパーを外し、その場で高く高く飛び跳ねだす。藤巻亮太は次々と早口で言葉たちを撃ち放ち、この場の空気をどんどん熱情させてゆく。とてもスリリングでハードな歌声と楽曲だ。だからこそ、その空気をもっともっともっと熱くしようと、大勢の人たちがはしゃいでいた。左右に動けないぶん、みんな上へ上へ飛び跳ね、高ぶる気持ちをステージ上のメンバーらにぶつけ、一緒にアガッていた。

その勢いをさらに加速させ、加熱するように、藤巻亮太はおおらかに『儚く脆いもの』を歌いだした。とてもスケールの大きな、触れた人たちの気持ちを胸の内側から熱く奮い立てる楽曲だ。だから躍動する演奏に身を任せ、思いきりはしゃいでいたかった。曲を重ねるごとに上がり続ける熱情と熱狂。春の訪れを彩るように進み続けていたこの日のライブは、何時しかこの場に真夏の風を巻き起こしていた。いや、そんな気分さえ覚えていた。どんどん気持ちが晴れ渡る。だから、はしゃがずにいられなかった。

熱情した声を次々と上げる観客たち。最後に、新しい季節の始まりに合わせ、新たな始まりを迎えた日々の中や、変わらぬ毎日へ気持ちを奮いたてて頑張っている人たちに向け、『新しい季節』を届けてくれた。イントロのギターの音が響きだすのに合わせて、フロア中から起きた熱い手拍子。彼は一人一人の心の中へ、限界へ挑み、ここから一緒に未来を変えるように走り出そうと、曲に込めた想いを声の風にして届けてきた。最後に未来を見据えた、とても力強い歌を響かせてくれたのが嬉しい。フロア中から藤巻亮太に向けて伸びていたのは、この曲を受け止め、一緒に自分も変えようとしていく、そんな勇気と力を求めたい無数の手だった。ここからまた一緒に新しい景色を描いていこう、『新しい季節』を、そんな約束の歌のようにも感じていた。

アンコールは、また会う日までの約束を交わすように『花びらのメロディー』からスタート。温かく穏やかな演奏に乗せ、藤巻亮太は言葉のひと言ひと言に想いを込め、その言葉を一枚一枚の花びらにして、フロア中へ撒き散らすように情緒に満ちた声で歌っていた。降り注ぐ歌声の花びらたちを、誰もが一枚一枚大切に受け止めつつ、彼の歌う姿をじっと見つめていた。
最後の最後に届けたのは、やはりこの歌だった。藤巻亮太が弾き語るように『3月9日』を歌いだした。温かくて優しい歌声を、その歌声が綴る想いの数々を、一つとして零さないようにと、誰もがゆったりと身体を揺らしながら、伸ばした手で受け止めていた。今はただ、その言葉と歌声に酔っていたい。藤巻亮太と心の波長を合わせ、一つに溶け合っていたい。そうすることで、もっともっと深くこの歌に浸っていけるのだから…。それが、幸せなのだから。終盤、藤巻亮太の動きに合わせて振り上げた手を左右に大きく振り、ともに「ラララ」と口ずさんでいた。いや、気づいたら、そう言葉を口にしていた。

止まない声へ呼ばれるように、ふたたびステージへ。藤巻亮太は最後の最後に、この会場を、この場にいる人たちの魂を揺らし、燃え滾らせようと、豪快にロックンロールナンバー『ゆらせ』をぶつけ、Zepp DiverCityをノリノリのロックンロールなパーティーの景色に染め上げていった。観客たちと一緒に熱情した風を巻き起こし、たくさんのタオルや手がくるくると回り続ける最高に熱した、ツアーのファイナルに相応しい景色を作りあげていった。そして、この場にいる人たちの魂を揺らし、燃やし尽くしていった。

TEXT:長澤智典
《SET LIST》
- 1.桜の花が咲く頃
- 2.ベテルギウス
- 3.Heroes
- 4.Glory Days
- 5.指先
- 6.愛の風
- 7.真っ白な街
- 8.粉雪
- 9.朝焼けの向こう
- 10.大地の歌
- 11.メテオ
- 12.ハマユウ
- 13.南風
- 14.以心伝心
- 15.儚く脆いもの
- 16.新しい季節
- -ENCORE-
- EN1.花びらのメロディー
- EN2.3月9日
- -W ENCORE-
- WEN.ゆらせ
藤巻亮太
『「THANK YOU LIVE 2024」at 日比谷公園大音楽堂 2024.03.09』映像作品
2024年12月18日(水)発売
『「THANK YOU LIVE 2024」at 日比谷公園大音楽堂 2024.03.09』
初回限定盤(DVD+2CD):品番:VIZL-2398 / 税込9,350円
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