最後は、スタンディングオベーションに。もう、最高に胸を酔わせるライブだった。

川村ケン(Key)、矢萩渉(Gt)、六土開正(Ba)、ホセ・コロン(Dr)、4人のつわものミュージシャンたちが集結し、誕生したインストゥルメンタルロックバンドがSTAYCHILL。3月16日、SUPERNOVA KAWASAKIで単独公演「STAYCHILL Spring Chilling 2025」を開催。当日の模様を、ここへ記したい。

STAYCHILLのライブは、各々が楽器を手にし、川村ケンがピアノの音色を響かせ幕を開けた。とても美しい、でも、何処かもの悲しさを抱いている。次第に熱を増すピアノの調べ。そこへ3人のファンキーでブルースな演奏が乗っかりだす。冒頭を飾ったのが『OVERLOADING』。矢萩渉の燻銀なブルースの音色が、駆ける演奏の上で耳心地好い旋律の数々を響かせる。矢萩と六土開正が顔を見合わせて音を交わす様も印象的だ。演奏は、川村のメンバー紹介のトークや、各メンバーのソロプレイも挟みながら進んでゆく。最初から、4人ともリラックスした様で、互いに音を重ね合うことを楽しんでいる。川村がさりげなく『春が来た』の旋律も混ぜるなど、まずは自分たちが音の会話を楽しみながら、その輪の中へ観客たちも巻き込もうとしていた。いや、すでに彼らの演奏に合わせて手拍子をしていた人たちもいたように、最初からみんなで春の訪れならぬ、熱気と興奮や高揚を呼び起こす演奏の訪れを心から楽しんでいた。曲が進むごとに巧みに転調を繰り返し、心地好く身体を揺らすドラマをSTAYCHILLは作りだす。ギターとキーボードのユニゾンプレイを味わえるのも、このバンドらしい。ホセ・コロンの声のカウントを合図に、4人が一斉に荒々しい音を重ねだす。いつしか演奏は、激しさと華やかさを持った様に変貌。ギターの旋律が、触れた人たちの感情を勇ましく揺さぶる。気付いたら、とてもダイナミックな演奏が目の前に広がっていた。

ジャジーなセッションのような幕開け。川村とホセが作り出した広大な海のような音色の上へ、矢萩のギターが印象深くも色濃い旋律を重ねだす。続く『SIDEWINDER』では、溜めを活かしたギターの旋律を軸に据え、4人は目の前に雄大な景色を描きだす。とてもどっしりとした、でも、触れていると次第に胸が躍りだす楽曲だ。心を揺らすブルースギターの音色、そこへ絡む川村の彩り鮮やかながらも躍動した演奏。2人が音を交わしあう様に刺激的なスパイスを与えるリズム隊。矢萩のギターが演奏を通して思いを投げかけるたび、その音と言葉を交わしたくなっていた。

MCでは、川村が『OVERLOADING』を、いろんなネタを詰め込んだ、老化防止のためにやりすぎた曲と説明。そこへ突っ込む矢萩との会話も、STAYCHILLのライブを楽しむうえでの大切な要素だ。

次に奏でたのが、春を意識した『FLOWER』。矢萩のギターが、春の訪れを告げるように、ワウペダルを用いてゆっくりと穏やかな音色を奏でる。その音色が次第に色づくのを合図に、他の演奏陣も音を重ね、土の中からボコッと芽が顔を出すように暖色系の音を重ねだす。少しずつ躍動してゆく演奏の上で、野太いギターの音が存在感を強く放つ。太陽に向かって真っ直ぐに伸びるようなギターの旋律へ3人も寄り添い、主張の強いギターの調べに豊かな音の養分を与えていた。とても穏やかな、ポカポカとした春の陽気のような音楽だ。そこへ強い意志や主張を覚えるのも、矢萩を筆頭に、全員が強く生を求めていたからだ。

続く『SOMEDAY』では、4人とも最初から野太く、自己主張の強い音をぶつけて始まった。でも演奏が軽やかにステップを踏み出すのを合図に、ギターの旋律が印象深くも耳心地好い開放的な音を弾きだした。3人の演奏の上でギターの音色が軽やかに踊るたび、観客たちの気持ちも躍りだす。気がついたら、ステージ上の彼らは演奏を通して心地好く踊り、跳ねていた。4人とも気持ちを晴れ渡る様に染め上げ、青空へ向かって音の翼を羽ばたかせるよう、軽やかに音を響かせていた。

MCでは、相変わらず矢萩が、川村の語りに突っ込みを入れる楽しい一幕も。

前半部の最後に奏でたのが、ギリシャ神話や漫画「リングにかけろ」からインスパイアを受けてタイトルを付けたという『OEDIPUS』。この曲は、いなたいギターの旋律からスタート。矢萩の演奏へストリングス系の音色で深みを与える川村。そこへホセのどっしりとした重くタイトな演奏と、深みを持ってうねる六土のベース音が重なる。やがて楽曲は、情熱的なギターの旋律を先頭に、しっかりと重みを持って走りだした。矢萩の演奏を受け、川村がオルガンを用いて、同じように荒々しくも情熱的な演奏を繰り出せば、その情熱に負けてなるかと、さらに矢萩が速弾きも加えた演奏を繰り出す。この曲では、矢萩の印象深いギターの音色を軸に据えつつ、その演奏を川村が巧みに受け、情熱を増して投げ返すやりとりを見せていた。そんな2人の演奏に強烈な色を与えていたのが、六土とホセ。何時しか4人は、この場に熱情した景色を生み出していた。

休憩時間を挟み、ここからは、トークコーナーへ。事前に、観客たちに用紙を渡し、いろんな質問を募集。それに答える形でトークセッションは行われた。寄せられた「いつか矢萩さんのボーカルで演奏してほしい」のお願いに、「あと10年したらやります」と矢萩が返答。「ライブで楽器をシャッフルするのを見たいです」のお願いには、「インスタライブのときにまたやりたい」と川村が答えるなど、お願いや質問にあれこれとメンバーたちが語っていた。この様は、STAYCHILLのインスタライブでもたまに見せている。是非、彼らのインスタライブも楽しんでもらいたい。「好きな温泉を教えてください」の質問に、 矢萩が「以前は、毎日近くのスーパー銭湯に行っていた」と語りつつ、当時の思い出を好き勝手にしゃべり倒していた。他にも「演奏中に何を考えていますか?」の質問に、六土が「晩飯」。矢萩が「何も考えられなくなる境地にまでいきたい」と述べれば、「健康に良いことは何かしていますか?」の質問に、矢萩と六土が「早寝早起き」の会話を繰り広げていた。この緩いトークも、STAYCHILLには欠かせない要素になっている。

六土とホセのセッションプレイから再び演奏がスタート。後半部の幕開けを飾ったのが、不穏な空気を場内に描きだす『MILLION YEARS』。始まりこそ不穏だが、哀愁を帯びたギターの音色がゆったりと音の螺旋を描きだすのをきっかけに、楽曲はどっぷりとした夜の空気を醸しだす。カルロス・サンタナか矢萩渉かと比べたくなるくらい、その音色が胸を潤す。その音色へ、3人の演奏が際立つ輪郭を与えていた。一音一音を力強く演奏をする矢萩。その音色を際立てるように、3人のプレイヤーたちが躍動した演奏をぶつける。いつしか楽曲は、激しく情熱的な音色を響かせる様に転化。ギターとベースのユニゾンした演奏も含め、次々と転調しながら、楽曲は情熱的なドラマを描きだす。そのうえで哀愁を帯びたピアノの音色が鳴れば、ふたたび泣き濡れたギターのメロディーがこの空間いっぱいに響いていた。

重厚なストリングス系の音色が、この空間を神聖な色に染め上げる。そこへ静かなるドラマを描くように絡むリズム隊と、哀愁を帯びたギターの音色。そこへ、ホセのドラムが躍動したリズムを奏でだすのを合図に、重厚かつ躍動した、でもスケール大きなドラマを描きだす。『VANILLA』でも次々と展開しては、そのたびに胸を揺さぶる雄々しくも熱情した世界を彼らは創りあげてゆく。まるで、雄大な歴史浪漫を濃縮したような楽曲だ。曲が転化するたびに、気持ちが熱く揺さぶられる。これはまさに、STAYCHILL流のプログレッシブなロックナンバーだ。雄大かつ躍動し、熱を抱いた演奏に、心と身体が強く引き寄せられ、釘付けになっていた。緩急の波を描くように進んでゆく展開も、感動だ。

歪むベース音が創りだす暗黒の調べや、激情したオルガンの音色。そこへドラムが躍動する跳ねた演奏を描き加える。ふたたび荒らぶるオルガンの演奏。それを支えるギター。でも、矢萩が気持ちを躍らせる開放的な旋律を奏でるのを合図に、楽曲はロックなセッションの様を見せてゆく。『FLYING COOKIE JAM』。4人がジャムセッション繰り広げる楽曲だ。終始、4人とも猛り狂う様を見せていた。ここぞとばかりに攻撃的な演奏も見せていた、六土のプレイも印象的だ。それぞれに色を放つソロプレイを含め、座っているのももどかしいくらい気持ちを騒がせるセッションプレイをSTAYCHILLは見せてくれた。この曲でのホセのロングタームなドラムソロがずっと攻めた様を見せれば、後半のドラムソロでは、ホセと六土がバトルのような音のやりとりを描き出していた。各自のプレイにスポットを当てた楽曲も、STAYCHILLの演奏を楽しむうえでは欠かせない大切な要素。ソロ演奏が終わったあとの、みんなでのジャムセッションが熱の籠もった演奏として伝わったのも、4人が互いの演奏に感化されていたからだだろう。

ホセのキックが気持ちを騒がせるリズムを刻む。その音へ導かれるように、観客たちが手拍子をしながら立ち上がる。STAYCHILLが最後に届けたのが、『BLOODY MARY』。矢萩のファンキーでソウルフルなギターが炸裂するのを合図に、川村がスペイシーな音色を重ねだす。黒く躍動するリズム隊。STAYCHILLが繰り出したのが、P-FUNKな色を持った楽曲だ。ずっと跳ね続けるリズムの上で、矢萩が胸に情熱を注ぎ込む旋律を次々と繰り出す。その様を川村が華やかな演奏で彩れば、ふたたび矢萩が胸を躍らせる旋律を立て続けに繰り出す。身体を揺さぶる熱情した演奏の上で、2人がバトルするように、強い主張を持った音をぶつけ続ける。後半には、熱情一体化したハード&プログレッシブな展開も登場。4人ともずっと、気持ちを騒がせる演奏を繰り出し続けていた。だからずっと心が騒ぐままに、4人の演奏に見入っていた。演奏を終えた途端、フロア中から熱い声と拍手が飛び交っていた。

熱烈な手拍子へ呼ばれ、メンバーらがふたたびステージへ。アンコールの1曲目は、春の季節に似合う『YOZAKURA』だ。切々とした、でも温かみを持ったピアノの音色が、場内中に優しく響き渡る。満開に咲いた夜桜を愛でるように、穏やかで美しいピアノの音色と、夜風に刺激を与えるような野太いベース音が舞い踊る。その様へ鮮やかな月明かりを照らすようにドラムが輝きの輪郭を与えれば、ギターが哀愁を帯びた美しい音色を響かせる。4人の演奏の風に乗せ、目の前で、たくさんの音の花びらがヒラヒラと、ゆっくり舞い躍っていた。本当にうっとりとする、素敵なひとときだ。季節はまだ春を前にしていた時期とはいえ、この時間だけは、穏やかな春の匂いと空気を身に覚えながら、ほろ酔い気分で音の花びらたちが舞う様をうっとりと見つめていた。演奏を終えた途端、思わず大きな拍手を4人に贈っていた。

野太いベース音が響き渡る。そこへ泥臭いブルージーなオルガンの音色と後ノリのリズムが絡み合う。その上へ、ギターが哀愁を湛えたブルースな旋律を次々と塗り重ねる。STAYCHILLが最後に届けたのが、『CHILLING BLUES』。STAYCHILLの中にも、いくつかブルース色の濃い楽曲はあるが、ひと際泥臭いブルースをどっぷりと味わえる楽曲だ。まるで、アメリカ南部の場末のバーで、セッション演奏に身を浸しているような、そんな色濃い肌触りをずっと感じながら、4人の繰り広げるセッションに溺れていた。演奏が進むにつれ熱情し、躍動していく様も、嬉しい刺激だ。どんどん音に酩酊してゆく。それだけ心がスモーキーな音のモルトに満たされていたということだ。落ち着いたと思ったらまた騒ぎだすなど、何度も何度も、しかも最後まで、音の余韻を楽しませる演奏なのも最高だ。最後の最後に、一番激しく速弾きの演奏を各自がぶつけていたところも最高にかっこいい。

演奏後の場内は、スタンディングオベーション状態だ。もう、最高に胸を酔わせるライブだった。次にSTAYCHILLがどんなアクションを示すのか、その日を楽しみに待っていたい。

TEXT:長澤智典
Photo:Yoshifumi Shimizu

《SET LIST》
  1. 1.OVERLOADING
  2. 2.SIDEWINDER
  3. 3.FLOWER
  4. 4.SOMEDAY
  5. 5.OEDIPUS
  6. <Interval>
  7. Talk Session
  8. 6.MILLION YEARS
  9. 7.VANILLA
  10. 8.FLYING COOKIE JAM
  11. 9.BLOODY MARY
  12. -ENCORE-
  13. EN1.YOZAKURA
  14. EN2.CHILLING BLUES
STAYCHILL

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2025年5月18日(日) 20:00ごろよりスタート予定
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