中村有里の吹くサックスの音色が、心にいろんな景色を描き出す。
10月2日に2nd作『Colors 〜Relay point〜』をリリースしたサックス奏者の中村有里。10月25日には自身の誕生日を迎え、10月30日に、COTTON CLUB東京で「CDリリース記念 & Birthday」公演を1日2公演行った。ゲストにAyasa(Vn)が出演。ZENTA(g)・朝香智子(p)・目黒郁也(b)・遠藤勝彦(ds)と共に行った公演の中から、1st.showの模様をお伝えしたい。
たくさんの拍手へ呼ばれるように、中村有里がステージへ。客席から飛び交う声を受け、まさかMCからスタートするとは…。COTTON CLUB東京でのライブは、約2年振り。彼女は、最初から気持ちを高ぶらせて舞台の上に立っていた。
「最初から上げていきます!」の声を合図に、軽やかに、跳ねるように『Gold City Lights』から演奏はスタート。場内中から飛び交う熱い手拍子。駆ける楽曲の上で、まるで舞うように中村有里のサックスの音色が踊りだす。心地好く身体を揺らしながら、強い意志を持った音色を響かせる。ときに舞台の上を左右へ軽やかに動きながらも、ステージの上から溢れ出るサックスの音色は力強さを持って鳴り響いていた。曲が進むごとに、バンドメンバーたちの演奏にも熱が加わり、次第に疾走感も上がりだす。中村も、曲の表情に合わせ巧みにメロディーへ緩急を付けながら、沸きたい観客たちの気持ちを引っ張っていく。だから、観客たちも座ったままとはいえ、心は演奏に合わせて踊っていた。一度上がった熱気を冷ますどころか、どんどん熱を加えながら、演奏も気持ちも上がり続けてゆく。
演奏を止めることなく、『Purple Moon』へ。腰と手を寄せ合いステップを踏むダンスのように、中村有里のサックスの音色が、観客たちの気持ちと寄り添いながら軽やかに舞い踊っていた。この曲でも中村有里は、妖艶さを持った音色も巧みに折り込み、観客たちの気持ちをしっかりと踊らせる。途中に、ピアノのソロも登場。ときに甘いサックスの音色も響かせて観客たちの心を温めながら、でも、攻める姿勢を軸に据え、この場に艶やかな熱を抱いた景色を作りあげていった。
次のブロックの最初には、秋の匂いが漂うようなしっとりとした楽曲を披露。少し寂しさを覚えるピアノの演奏に乗せて届けたのが、『Red Leaves』。何処か郷愁を覚える演奏の上で、そよぐ秋風のようにサックスの音色が流れだす。その音たちは、木々が次第に秋色の赤い服を鮮やかに着こなしていくようにも伝わってきた。この曲が、この日の演奏が、訪れた一人一人の心を郷愁という音の筆で秋色に色づけてゆくようだ。流れるような演奏に身を任せる中、何時しか、ゆったりと微睡むような感覚を覚えていた。
中村有里の楽曲を手がけるサウンド・プロデューサー/コンポーザーでもあるZENTAのギターが、ブルーズなフレーズを描き出す。次第に跳ねだす演奏の上で、ふたたび中村有里のサックスの音色が踊りだす。『Blue Spirit』の登場だ。荒ぶるロックンロールな演奏に乗せ、中村のサックスの音も、一音一音を蹴りながら、力強く躍動したステップを踏むように踊りだす。ZENTAのギターの旋律と中村有里のサックスの音色が、ときに攻め合うように、でもっしっかりと絡みながら、前のめりの空気を作りあげる。ブルーズな香りも漂う、ZENTAの奏でるロックンロールなギターの演奏が炸裂。中村有里も身体を揺らし、気持ちの内側から沸き立つ感情をサックスの音にして重ね合う。とてもパワフルな演奏に乗せて感情と感情を交わす様が、そこから見えていた。
中村有里と言えば、エアロフォン奏者として、世界を駆け巡っていることでも有名だ。ここでは、エアロフォンを手に、尺八の音色で『いのちのかぎり』を演奏。尺八特有の息を加えた張り詰めたような雰囲気よりも、厳かさを出しながらも、尺八の音色を用いて、この場を、時の流れを忘れた悠久の原野へ染め上げてゆくように彩っていた。美しい虚無僧になった中村有里が、その音色で、ここにいる人たちの心を現実から引き離す。何時しか誰もが、描き出された地球の命が始まる物語を目の当たりにし、その中で、不思議な旅をしているような感覚を覚えていた。そこにはまるで、命の起源があるかのように…。
ここで、ゲストのヴァイオリニストAyasaが登場。2人の馴れ初めを語ったあとに、ここからは、中村有里の曲とAyasaの曲を、それぞれ2人でコラボ演奏していくブロックへ。彼女たちは、2年半ぶりの共演であることも語っていた。
最初に演奏したのが、中村有里の『Green Breeze』。AyasaのヴァイオリンとZENTAのギターが軽やかに絡み合う。そこへ、勢いという彩りを与えるように中村有里のサックスの音色が重なり合う。曲中、Ayasaの奏でるヴァイオリンの音色が優雅に流れれば、その上へ、中村有里の吹くサックスの音色が勢いよく駆けだすように絡み合う。その演奏へ刺激を受け、今度はAyasaのヴァイオリンの演奏も勢いを増してゆく。そのやりとりも、見ていて刺激的だ。演奏陣の生み出す音の風に乗って、中村有里のサックスの音色がこの空間を自由に飛び回れば、Ayasaのヴァイオリンの演奏が、中村有里の生み出した音色の数々を優しく包み込むように音を寄り添えていた。別の言い方をするなら、Ayasaの敷いた軽やかな絨毯の上で、中村有里のサックスの音色が軽やかに、自由奔放に転げ回っていたようにも感じられた。
Ayasaの『Bloomy merry-go-round』では、先の表情とは装いを変えるように、Ayasaが速弾きで荒々しい音を次々と繰り出し、そこへ中村有里のサックスの音色が優しく寄り添う様を見せる。その中から、自己主張していく姿が見えてきたのも嬉しい。Ayasaの激しく挑発するような演奏に刺激を受け、場内中からも気持ちを熱くした人たちが力強く手拍子をぶつける。とても攻めた演奏だ。その上に、中村有里が優しい音の彩りを与える。その絶妙なコントラストが心を踊らせた。
ここからは、最新作『Colors 〜Relay point〜』へ収録した楽曲を立て続けに披露。最初に演奏をしたのが、サックスの音色が優雅に舞い踊るように伝わった『Carnelian Dance』。跳ねた演奏の上で奏でる中村有里のサックスの音色は、まるでスカートの裾を翻して踊っているようだ。華やかで優雅な音が、触れた人たちの気持ちを華やかな宴の中へ連れ出す。途中にピアノのソロ演奏も挟みつつ、巧みにスタッカートした躍動的な音色も織り交ぜながら、美しさと高貴な様を持って自由に踊るその音色に、誰もがずっと思いを寄り添わせていた。
続く『White tender light』は、これから訪れる冬の季節をイメージして制作した楽曲。まさに、その印象通りだ。演奏は、粉雪となったピアノの音色が少しずつ、しっとりと舞い落ちるように響きだすところから幕を開ける。ひらひらと舞い散るような演奏の上に、中村有里のサックスの音色が寄り添うように淡い彩りを与える。一面モノクロの音世界へ、彼女のサックスの調べが景色を滲ませ、より濃淡を持った深みを与える色となって響いていた。ゆったりと、優しく音符の雪を降らせる中村有里のサックスの演奏。次第に淡さを増すその様へ、ずっと包み込まれているような穏やかさを覚えていた。
最後のブロックは、ふたたび一体化した熱気を作りあげようと、観客たちを立たせてライブをスタート。ZENTAの荒々しく歪んだギターの音が炸裂。その激しさを受けて、中村有里のサックスの演奏も熱く音を唸らせる。メンバー同士で沸き立つ感情を音にしてぶつけあうような、刺激的な演奏だ。中村有里は、身体を大きく揺らし、騒ぎたい一人一人の感情へ音を突き刺すようにサックスを吹いていた。途中にメンバー間のソロ回しも加え、そのセッションを境に、さらにテンション高く勢いを持った演奏の塊となって楽曲が突き進む。『Pink Spark』、まさにその曲名通り、とても色鮮やかに音がスパークした演奏だ。
先の勢いを加速するように、最後に届けたのが最新曲の『Navy Night』。熱を持って跳ねる演奏の上で、中村有里の吹く力強く躍動した音色が華やかに踊りだす。一つ一つの音がしっかりと主張しながら五線譜の上で力強く踊っている様に、気持ちが熱く揺さぶられる。ときに優雅さも見せながら、サビでは、天を貫くような凛々しい音も響かせる。この曲でも、途中にソロ回しを挟み、そこを合図に、さらに演奏が華やかさを増す。一緒に身を寄せ合い躍動したダンスを描きたい。心踊る様を作りながら、本編の幕は閉じていった。
アンコールでは、ふたたび『Gold City Lights』を演奏。メンバーも観客たちも、最初から理性のスイッチを切り、色鮮やかに駆けだす演奏に気持ちを乗せていた。心地好いのに、スリリングな刺激も与える演奏だ。プレイヤーたち一人一人が熱を持った音を交わし、気持ちを踊らせる演奏を作りあげる。中村有里も、ときに挑発するような音色で迫りながら、この空間を煌めく世界へ染め上げる。未来へと続く輝く道を、この演奏に乗って一緒に駆けるように、華やかながらも雄々しい演奏に心を踊らせ、この宴を楽しんでいた。
TEXT:長澤智典
PHOTO:西槇太一
※ライブ写真は一部2nd.showのものを含みます
《SET LIST》
- 1.Gold City Lights
- 2.Purple Moon
- 3.Red Leaves
- 4.Blue Spirit
- 5.いのちのかぎり
- 6.Green Breeze
- 7.Bloomy merry-go-round
- 8.Carnelian Dance
- 9.White tender light
- 10.Pink Spark
- 11.Navy Night
- -ENCORE-
- EN.Gold City Lights
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