休憩を挟んでの4曲目は、本日のメインとなる『フランク:バイオリン・ソナタ』。
髙木にとっては十八番とも言える曲だが、その情緒的、ドラマチックなメロディは人気も高く、「この曲を聴きに来た」という聴衆も少なくはないはずである。
新進気鋭とも言える髙木だが、その表現は日に日に進化している。
今日はどのようなフランクを垣間見ることができるだろうか。

・第1楽章
哀愁を帯びた、幻想的な序奏からはじまる。
澄んだ音色を持つストラディバリウスと、まるで対話しているように奏でていく髙木。
決して楽器に無理をさせず、音楽的に充実していることに集中して、丁寧に音を紡いでいく。
ところどころ主題を入れ替わる五十嵐も、髙木に寄り添いながら自身の表現を余すところなく空間全体へ伝えていく。

・第2楽章
穏やかな第1楽章と一転して情熱的な曲想。
嵐を思わせるようなピアノの序奏を受けた髙木は、ここぞとばかりにストラディバリウスの芯をかき鳴らすような表現に変わる。
技術的に、バイオリニストにとってもピアニストにとっても高いものを要求されるこの曲だが、2人はまったくそれを感じさせることなく、軽快に、また大胆に、紡いでいく。
叙情的な箇所では印象深くヴィブラートで音色を変えて、聴衆を飽きさせない。
この楽章の出来栄えが素晴らしく盛り上がったおかげか、楽章間にも関わらず賛辞の拍手が聴衆より生まれたことを記しておきたい。

・第3楽章
幻のなかから浮かび上がってくるような、神秘的な曲想。
ゆったりとした曲調のおかげで、ストラディバリウスの高音から低音まで堪能することができる。
髙木は何かに語りかけるように穏やかに、しかし感情をたっぷりと込めてその旋律を奏でていく。
この曲全体のテーマが現れる箇所では、得も言われぬ情緒を味わうことができた聴衆も多かったのではないか。

・第4楽章
まさに幸福の極みである。
髙木、五十嵐の2人によって奏でられるこの曲は、いつものフランクよりもさらに鮮烈であり、感動的であった。2人のバトンの受け渡しも見事ながら、それぞれが楽譜に書いてある作曲者の意図をよく読み込み、余すところなく表現されていたように感じられた。
コンサート後に髙木に寄せられたコメントには「これまで聞いた中で最高のフランク」というものもあり、聴衆にとっても満足度の高い演奏であったことは疑いようがないようだ。

演奏後は、本日最大の拍手。
コンサートの最後を締めくくるに相応しい楽曲であったが、カーテンコールのなかで、髙木からは
もう一曲いいですか?
アンコールである。もちろん観客は待ってましたと言わんばかりに拍手。

演奏されたのはCDでもお馴染みの『アザラシヴィリのノクターン』。
髙木にとっては自身のファーストCDで取り上げた重要な楽曲であり、これまでもしばしば大事な演奏会のアンコールでこの曲を演奏してきた。
今回もこれを待ち望んでいた聴衆は多かったようで、期待通りの演奏を聴くことができた彼らからは、また万雷の拍手。

今度は髙木ひとりでカーテンコールに現れ、
これで帰れるわけないですよね?
とにこやかに告げる。

以前から舞台で演奏したかった、と述べてから演奏されたのは『パガニーニ 24のカプリスより 21番』。いわゆる超絶技巧曲である。
相変わらず髙木は飄々とこの高難度の曲を演奏し、またにこやかに聴衆へ向き直る。
喝采で包まれる中、3曲目のアンコールが続けられた。

プロコフィエフ 3つのオレンジへの恋より 行進曲(ハイフェッツ編)』。
この曲もファーストCDに収録されている楽曲で、短いながらもメリハリの利いた曲想は、アンコールにぴったりだ。
軽快に演奏した最後には、笑顔。

「本当に最後」という髙木から、なんと4曲目のアンコールが告げられた。大サービスである。
演奏されたのは本日の1曲目である『チャイコフスキー:メロディ』。
五十嵐とのペアをまたじっくりと堪能することができ、コンサートは終演となった。

終演後には聴衆へ向けて撮影タイムのサービスがあり、ロビーではサイン会を開催して長蛇の列を形成するなど、彼女の人気ぶりは今まさに白熱している。

終わってみればあっという間、2時間弱のコンサートであったが期待以上に満足することができるコンサートであったことは、帰路につく聴衆たちの晴れやかな表情からも窺い知ることができた。

髙木の魅力は、そのテクニック、表現の豊かさ、演奏の正確性などについては言うまでもないが、「楽しそうにバイオリンを弾く」「元気をもらえる演奏」という点は、彼女特有のものであり、人気を博している最大の要因だと思われる。

この4月からはパシフィック・フィルハーモニア東京のコンサートマスターとしても活躍しており、彼女の進化はまだまだ続いていくことになりそうだ。

Photo:加藤浩平
Text:新保壮太郎

髙木凜々子 使用楽器紹介

髙木凜々子

6月4日(日)14:00
チャイコフスキー協奏曲
指揮 中田延亮
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
海老名市民文化会館

6月25日(日)14時開演(13時半開場)
髙木凜々子リサイタル
ピアノ:五十嵐薫子
横須賀芸術劇場小ホール(ヨコスカベイサイドポケット)

8月13日(日) 15:00
のだめカンタービレの音楽会
チャイコフスキー協奏曲
指揮 茂木大輔
関西フィルハーモニー管弦楽団
兵庫県立文化センター KOBELCO 大ホール

他、詳しくは髙木凜々子公式webサイトまで↓
https://www.ririkotakagi.com/


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