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良い導き手に誘われ、極上の楽器が奏でられると、至高の音楽空間が生まれる。
バイオリニスト・髙木凜々子×ピアニスト・五十嵐薫子のカップリングによるコンサートは、いつも聞き手を幸福感に満たしてくれる。
甘く優しい音色から、激しい熱情を思わせる力強い旋律、繊細な表現から超絶技巧まで、髙木の演奏は常に聴衆を期待以上に満足させてきた。
今回は浜離宮朝日ホールにて開催された「髙木凜々子バイオリンリサイタル」の様子をお届けする。
~Program~
チャイコフスキー:メロディ
チャイコフスキー:憂鬱なセレナード
ストラヴィンスキー:イタリア組曲
フランク:バイオリン・ソナタ イ長調
近年のコロナ禍によって、制限を余儀なくされていたのはクラシック・コンサートも例外ではないが、ようやくその影もひそめつつある今、400名近くの観客によってホールは埋め尽くされている。
クラシック・コンサート特有の、開演前の厳かな緊張感の中、主役である髙木凜々子は本日のパートナーである五十嵐薫子とともに、ステージに現れた。
使用楽器は1702年製、ストラディバリウス。
300年の歳月を超えて今なお聴衆を魅了させる音色を持つこのバイオリンは、2021年から髙木の手によって奏で続けられている。今日はどのような演奏になるのか、聴衆の期待を受けながら、まずは調弦。
1曲目はチャイコフスキー作曲、懐かしい土地の思い出より『メロディ』。
どこかで聞いたことのあるような、親しみやすいその旋律は、コンサート開演前の張りつめた雰囲気をしっとりと解きほぐしていく。
今日も楽器のコンディションは良いようで、幸福な響きがホールを満たしていった。
2曲目、薄い紫の衣装に似合う、大人びた雰囲気の『憂鬱なセレナーデ』。
哀愁だけでなく少し明るい曲想も垣間見えるこの曲において、ストラディバリウスが持つ音色の幅広さを、存分に楽しむことができる。
物悲しい旋律で終わるこの曲を、髙木は最後の音まで丁寧に表現し、息を呑む聴衆はひと呼吸置いてから万雷の拍手でその芸術性を称えた。
3曲目は、ストラヴィンスキー作曲『イタリア組曲』。
原曲は同作曲家によるバレエ音楽『プルチネルラ』だ。
ロシア・バレエ団のために作られたこの曲は、もともと管弦楽のための組曲で、イタリアの古典的な劇をテーマとしているため、音楽も古風な雰囲気のものが多い。
とはいえ、近代の作曲家の作品であるため技巧的にも複雑で、色彩豊かなこの曲を、髙木はどのように料理するか。
・序奏
ややバロックを思わせるような、端正な出だしから始まる。
美しいトリルと重弦は、いとも簡単に弾いているように見えるが、細かなテクニックのなかにも髙木による繊細な表現が詰まっているように感じた。
・セレナータ
物悲しい旋律のこの曲も、美しいヴィブラートで歌い上げていく。
・タランテラ
跳ね弓(スピッカート)の技法で紡がれる曲調を、存分に味わうことができる。
髙木は楽弓をまるで自分の腕の延長のように巧みにつかい、複雑な響きを組み合わせていく。ピアニストの五十嵐との呼吸もぴったりだ。
・ガヴォット
古風で美しいテーマと、その変奏によって構成されている曲。
原曲はオーボエによって奏でられる旋律だが、髙木とストラディバリウスのコンビにかかれば、まるで彼女たちのために書かれた曲なのではないかと思えるほどの出来栄え。
・スケルツィーノ
速い舞曲。この曲も、ほぼすべてスピッカートの技法を駆使して表現される。
そのテクニックに聴衆も舌を巻く。
・メヌエットとフィナーレ
重弦を用いて表現される、まるで構築物を積み上げていくような立体的なメヌエットから、華やかな雰囲気のフィナーレ。
原曲では様々な楽器が入れ替わってメロディを織りなしていくが、コロコロと色彩を変えながら表現していく見事な髙木の演奏。
何よりも髙木自身が楽しんで演奏しているように見えることが、彼女の最大の魅力なのかもしれない。
髙木凜々子
6月4日(日)14:00
チャイコフスキー協奏曲
指揮 中田延亮
神奈川フィルハーモニー管弦楽団
海老名市民文化会館
6月25日(日)14時開演(13時半開場)
髙木凜々子リサイタル
ピアノ:五十嵐薫子
横須賀芸術劇場小ホール(ヨコスカベイサイドポケット)
8月13日(日) 15:00
のだめカンタービレの音楽会
チャイコフスキー協奏曲
指揮 茂木大輔
関西フィルハーモニー管弦楽団
兵庫県立文化センター KOBELCO 大ホール
他、詳しくは髙木凜々子公式webサイトまで↓
https://www.ririkotakagi.com/