
TEXT:長澤智典
意識を酩酊させるドラマを描きだすAsMR。彼女らのライブは、生で体感してこそ魂震える衝撃を覚える。
「囁揺的音楽集団」と名乗るAsMR(アズマー)。彼女たちが、3月23日(水) に渋谷Spotify O-WESTで行われたイベント「MUSIC SHUFFLE FESTIVAL」に参加。当日の模様を、ここにお伝えしたい。
一般的に知れ渡っている「ASMR」とは、「Autonomous Sensory Meridian Response」の略。いわゆる、「人が聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地良い、脳がゾワゾワするといった反応・感覚。自律感覚絶頂反応」のことを指す。それを音楽として具現化しているのが、AsMRになる。
みずからをAsMRと名乗るように、その始まりは奇妙な…いや、はっきり言ってしまおう、とても不気味な幕開けの音色だった。イントロとして流れた『AWAKE』に乗せ、メンバーらが厳かに舞台へ姿を現した。Violin & Scratching noiseのEschikaが弾きだした音色が、意識を恐怖や狂気へと誘う。そこへ絡みだしたのは、呪詛のように言葉を唱えるBass & WhisperのAyakaの声。彼女のつぶやくような言葉へ、Guitar & Roaring soundのGinaやVocal & PianoのMilliなど楽器陣が不穏な音を重ねだす。一瞬のブレイク、Ayakaによる「AsMR」の囁き声を合図に、AsMRのライブは幕を開けた。

猛々しい音を刻むGina。ゴシックでシンフォニックな音を軸に、そこへノイズにも似た音を重ねながら、楽曲は『雷命INFESTER』に形を成してゆく。厳かな、でも、激しさを携えた音の上で、Milliが祈りにも似た美しい声をはべらせる。楽曲は感情の起伏へ寄り添うように次第に熱を増しながら、情熱高揚した民族系の轟音交響曲へと形を進化。彼女たちは現世から感情を解き放ち、異なる異空間へ観ている人たちを導いてゆく。ただし、その音を心地よい/恍惚と感じるのか、感情をざわつかせる不協和音と捉えるかは、その人次第だろう。でも、激しくも親しみやすいゴスロック系アニソンのような高揚した音のうねりに身悶える感覚は、知れば知るほど深くはまってゆくはずだ。

もの悲しくも耳に印象深く残るリフレインするピアノの音色が、フロア中へスーッと染み渡る。そこへ優しく、でも狂気を覚えるノイジックな音を寄り添えるヴァイオリンの音色。その上で、Ayakaが「心地よくて気が奇怪しくなりそうだ」と囁くように語りだす。その言葉を合図に、次の物語へ。
Ayakaの秘めた狂気を覗かせる声を合図に、楽曲は『トレモロ』へ。たおやかな表情から、瞬時に楽曲は壮大かつ幻想浪漫な世界へと色を変えてゆく。Milliの願いや祈りにも似た歌声へ寄り添うよう、演奏も、心の慟哭を具現化するように進む。心壊れそうな悲哀な気持ちを覚えさす音楽は、悲しみへさらに悲しみを塗り重ね大きく膨らみながら、悲壮かつ熱情した音を募らせてゆく。

重厚なAyakaのベース音が観客たちを奈落へ引きずり込む。楽曲は、ノイジックなヴォイオリンの音色と熱情したピアノの音、轟音の絨毯敷きつめるギターの音とが絡み合う形で、荘厳で幻想的な音世界を作りあげる。『震撼SCREAMER』も、ゴシックシンフォニアなアニソン風の音楽性を絵筆に、幽玄な物語を描く楽曲だ。僕らは触れてはいけない音楽の扉を開けてしまったのだろうか。目の前に広がっていたのは、のめり込めばのめり込むほど甘美な恍惚に溺れてゆく、荘厳で妖美かつ幻想的で熱情したゴシックでシンフォニックなロックサウンド。溺れるほどに、心も淫らになっていく。

最後にAsMRが演奏したのは、心地よく跳ねた演奏も魅力的、気持ちを壮大な空間広がる世界へ一気に連れ出す『Saturated World』だ。感情剥き出しで轟音掻き鳴らすGina。Eschikaは美しさと狂気の両面を携えた音をドラマチックに描けば、ときにAyakaが語り部となり、物語へ色をつけてゆく。幻想麗美な世界が広がる音が渦巻く中、「呼んでるの」「泣いていた」と想い込めた美しい声で祈るように歌うMilli。闇の奥へ奥へと連れ出した音楽は、最後には夜明けを迎えるように、光射す世界へ観ている人たちを連れ出していった。
短い中にも、意識を酩酊させるドラマを描きだすAsMR。彼女らのライブは、生で体感してこそ魂震える衝撃を覚える。ぜひ、目の前でその衝撃を感じてもらいたい。
TEXT:長澤智典
《SET LIST》
- 1.AWAKE
- 2.雷命INFESTER
- 3.トレモロ
- 4.震撼SCREAMER
- 5.Saturated World