闇が包み込む場内へゆっくりと姿を現した黒装束のメンバーたち。銘々に楽器を手にした彼女たちは、荘厳なSEを背に始まりのときを待っていた。SEの中から聞こえてくるのは、Ayakaの語る物語。その言葉が、語るその内容が、気持ちを嬉しく騒がせる。期待に胸が騒ぐ。そして…。
不狂(協)和音を響かせるヒステリックなピアノの音色と勇壮かつ狂気を帯びたヴォイオリンの調べ、螺子が外れ自由に飛び交う音符たちを、ギターとベースの演奏が重く、激しく支えてゆく。その上に絡みだした、秘めた想いを吐き出すように語る歌声。命を宿した歌声と四つの調べは、激しくもドラマチックな世界観を描き出していく。その音楽はラウド/ゴシック/エスニック/シンフォニックな四つの要素をコンフュージョンしながら進んでゆく。ライブの冒頭を飾った「Saturated World」を通し囁揺的音楽集団 AsMRは、美しくも荘厳でありながらも、何処か螺子の緩んだ不思議な物語を描きだした。狂気を掻き立てるヴォイオリンの旋律と、ときに美しく空間を彩り、ときに破壊するような歪んだ音を鳴らすピアノの音色が交じりあう。その感覚が、痛み伴う心地好さを持って神経を刺激する。混沌とした演奏の上で、聞き手の心を優しく招き入れるよう澄み渡る声を響かせるヴォーカルのMilli。美しさと狂気の交錯した音楽は、他には類を見ない衝撃だ。

物悲しいピアノの音に乗せ、次の楽曲にまつわる物語を語るAyaka。その語りが、囁揺的音楽集団 AsMRの作り出す音楽が、観ている人たちの意識を、ここ(現実)ではない闇の広がる異世界へと連れ出してゆく。その病んだ黒い物語が次に導いたのが…。
重厚なピアノの音色が、物悲しい調べを響かせる。その上に重なる悲哀を抱いたヴォイオリンの調べ。Ayakaの憂いを持った語りへ誘われるように、Milliが想いを零すよう、でも凛とした声で物語を歌いだす。そこへ絡むGINAの重厚なギターの調べ。ミッドメロウな「Snow drop」が響かせた、ヒリヒリとした心地好い緊張感を肌へ感じるたび、その刺激を肌の奥へ奥へと深く刷り込みたくなる。Ayakaの物悲しい語りに乗せた想いを、優しい歌声で増幅してゆくMilli。重なり合う二人の声が織りなす物語へ、演奏陣がさらに幽玄な色を塗り重ねだす。Eschikaのヴォイオリンの音色が、哀切な思いへ情緒という色を深く塗り重ねていく。「Snow drop」が作り出した落ちてゆくような感覚へ少し痛みを覚えながらも、何時の間にか心地好く溺れていた。

ふたたび、Milliの奏でるピアノの音色に乗せ、Ayakaが続く物語を語りだす。その物語は、永久の国の中、一人の”わたし”の心の孤独の声を代弁していた。Ayakaの朗読する物語へ、音という輪郭を与えながら、囁揺的音楽集団 AsMRは、病んだ主人公の心の声を音楽に変えてゆく。それこそが、囁揺的音楽集団 AsMRのスタイルだと言うように…。


最後にAsMRは、「震撼SCREAMER」を奏でだした。Milliの美しいピアノの音色に絡む、Eschikaのノイズにも似たヴォイオリンの音。慟哭する心の叫びを、囁揺的音楽集団 AsMRはヒステリックかつオルタナティブな演奏へと変え、見ている人たちを病んだ心の世界へと誘い込む。Milliの力強く真っ直ぐな歌声とは裏腹に、演奏陣はみんな歪んだノイジックな音を奏で、たがの外れた心の叫びを音楽として具現化してゆく。純粋が故の狂気を孕んだ囁揺的音楽集団 AsMRの音楽。それはまるで、心優しく手を伸ばす歌声に惹かれ同じく手を伸ばしたら、どす黒い無数の音の触手たちが腕に絡みついてきたような感覚だ。気持ちに痛い刺激を刻んでゆく、なんて不思議な、心を美しく歪ませる音楽だろう。短い時の流れの中とはいえ、デスフォニックな世界に心はずっと捕らわれていた。

TEXT:長澤智典
《SET LIST》
- 「Saturated World」
- 「Snow drop」
- 「震撼SCREAMER」