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自身の愛称を冠したベストアルバム『WHO IS BENZIE?』の発売に合わせ、全国19ヵ所で開催された浅井健一の『BEST SELECTION TOUR 2025』。オールキャリアから厳選した楽曲をプレイするツアーとあってオーディエンスの熱量は尋常ではなく、7月4日(金)の東京・Zepp Shinjuku公演も早々にソールドアウトとなった。

浅井健一(Vo&Gt)、宇野剛史(Ba)、小林瞳(Dr)がステージに現れるとフロアが大歓声で沸き、イントロの妖艶なギターが興奮をいっそう掻き立てる。ライブはBLANKEY JET CITYの『ICE CANDY』からスタート。ベンジーの歌とリズム隊の音が重なった瞬間の迫力も耳を疑うほどに凄まじい。
オリジナリティしかない世界観と声質と節回し、トレードマークのグレッチを豪快に鳴らす佇まいが光る浅井を中心に、スリリングかつタイトな最新型のグルーヴで突っ走る3ピースは、ギラついた照明のもと、気を抜いたら振り落とされてしまいそうなスピード感で、浅井健一&THE INTERCHANGE KILLSの『Vinegar』、ソロ名義での初リリース曲『危険すぎる』と、のっけからアップチューンを連発。



すぐさまブランキーの『斜陽』へ。コアなファンにはたまらないチョイスだけに、またもやギターリフから歓喜の声が上がり、ベンジーならではの刹那的でいて情景を呼び起こす歌、そして独創性に富んだフレーズが場内に染みわたっていく。
「唐突ですが、日本って税金高いよな? 選挙行こうぜ!」と始まったのは、昨年発表のオリジナルソロアルバム『OVER HEAD POP』のリード曲『Fantasy』。あえて開き直った感じの明るいサウンド、不可思議な社会をシニカルに綴った歌詞が印象的で、“AIってよく聞くね すごいのか チープすぎるのか そのうちわかるわ”といった本質に迫る一節も。辛辣でユーモラスな提言に共鳴するように、ハンドクラップがフロアにあふれ出す。

さらに「懐かしい曲やります!」と、ブランキーの『小さな恋のメロディ』。同名映画をモチーフにしつつ、“行くあてはないけど ここには居たくない”と若者特有の焦燥を巧みに表現したこのナンバーでは、とりわけオーディエンスが幸せそうなムードに包まれ、それぞれに噛み締めるような面持ちで聴き入っている感じがグッときた。あの頃にタイムスリップして楽しめた人も、リアルタイムで観られず念願の初目撃だった人も、すべてのファンが存分に酔いしれていたのではないだろうか。
小林とのツインボーカルっぽい響きが心地よかったAJICOの『キティ』、激しいストロボとともにぶっ放したソロ3rdシングルの『FIXER』がテンポよく届けられる中、左足を時折リズミカルに捻らせながら演奏したり、「地球ができて45億年。こうやって集まれたことは奇跡的だと思うので、そんな夜はみんなで楽しもう。レッツパーティー!」と呼びかけたり、すこぶるゴキゲンな浅井の姿も見受けられた。

光の広がりをイメージさせるミディアム曲『ハラピニオ』(ソロ6thアルバム『Nancy』に収録)を筆頭に、中盤は詩人・浅井健一が持つ孤高の哲学に浸れる、一段とディープなメニューを展開。緑の照明や回転するミラーボールでドリーミーな雰囲気を演出した『アクセル』、理想と現実の狭間で揺れるやるせなさが染みた『本当の世界』(宇野がエレピ、小林がベースを弾くシーンもあり)と、JUDEからのセレクトがライブに奥行きを生む。
豊かな自然の恵み、人間本来の温かみ。そういった根源的な美しさを歌った曲の数々からは“どうにか世の中が良い方向へ進んでほしい”という浅井の願いが伝わってくる。ベスト盤で新録されたブランキーの『2人の旅』に続く流れもいい。こうしてどの時代の作品だろうとナチュラルに繋げて聴かせられるのは、今までのスタンスに揺るぎない一貫性があること、ベンジーはいつだってベンジーであることの証明だ。

JUDEのインスト曲『Brown Bunny』が投下されれば、宇野とステージ前方へせり出し、疾走パートでギターヒーロー感を爆発させる浅井。そのままソロ初期のシングル曲『WAY』『Dark Cherry』になだれ込み、ロックとポップを掛け合わせたチャーミングな魅力も大解放。気づけばクライマックスに突入し、ベンジーは薄水色のストラトキャスター(新鮮!)に持ち替えている。

楽曲の強度、メロディアスさ、多作ぶりにも改めて唸らされ、もはや欠かせないキラーチューンであるJUDEの『DEVIL』、眩しすぎる大合唱を巻き起こしたブランキーの『赤いタンバリン』が会場のボルテージをMAXに高め、浅井のピック投げ+ボウアンドスクレープで鮮やかにフィニッシュとなった本編。余計なアジテートはなく、最小限のMCで駆け抜け、観る側に満足感と爽快感を残すパフォーマンスが素晴らしかったと思う。
程なくして3人がステージに戻ったあとは、恒例のダジャレコーナーがいきなり始まる。「俺、そんなに好きなわけじゃないんだよ?」と言いつつ、今回のツアーで生まれた“剛史シリーズ”として「剛史の革ジャン、あったけーし」「剛史のピアノ、レベルたけーし」「剛史のベース、やっべーす」を浅井が報告すると、次々にダジャレが飛び交い、「いいね!」「よくわからんな」と笑顔を見せるベンジー。

ダジャレのやりとりなんて以前は皆無だっただけに時の流れをしみじみと実感するが、浅井がファンと朗らかにコミュニケーションを交わす光景はギャップ満点でとても楽しい。もちろんライブのカッコよさが変わることはなく、アンコールでもブランキーの名曲『綺麗な首飾り』『ダンデライオン』『SALINGER』をトリプルコンボで披露。キーを下げて歌う場面こそ若干あったものの、期待を超えるスペシャルなセットリストで、オーディエンスは各自の想いを重ねながら大いに熱狂していた。
ラストは、近年のソロレパートリーから『けっして』。ベストセレクション公演とはいえ、ここまで感傷的な言動はいっさいなかった浅井が、しばし自身を振り返っては“前だけ見て 生きろ”と結ぶ、また新たな旅に出るようなこの曲を締めに歌うさまが味わい深かった。次なるツアーも2026年に決定するなど、ベンジーの歩みはまだまだ止まらない。
取材・文:田山雄士
《SET LIST》
- 1.ICE CANDY
- 2.Vinegar
- 3.危険すぎる
- 4.斜陽
- 5.Fantasy
- 6.小さな恋のメロディ
- 7.キティ
- 8.FIXER
- 9.ハラピニオ
- 10.アクセル
- 11.本当の世界
- 12.2人の旅
- 13.Brown Bunny
- 14.WAY
- 15.Dark Cherry
- 16.DEVIL
- 17.赤いタンバリン
- <ENCORE>
- 1.綺麗な首飾り
- 2.ダンデライオン
- 3.SALINGER
- 4.けっして