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名曲は色褪せないどころか、その場の景色を似合う景観に染め上げる。藤巻亮太が『粉雪』の演奏を始めた途端、肌寒く、でも温かい思いが身体の奥からジンと上がってきた。『粉雪』でも彼は、ストラトキャスターをストロークしながら、心の中へ忘れられない愛しい人との想い出の景色を浮かべ、あの日の物語を語るように温かな声で歌っていた。サビで「粉雪　ねぇ心まで白く染められたなら」と、愛しい人へ思いを響かせるように歌う声が強く胸を打つ。場内にいる人たちも、白いライトを照らし、左右に大きく振りながら、この会場に雪を舞い踊らせていた。観客たちも一緒に、思いの景色を作り上げる。だから、より一層この歌が心を濡らしていった。

ふたたび、この場に熱い風を吹かせようと、藤巻亮太が歌いだしたのが『南風』。演奏に乗せて吹いた優しくて温かい歌声の風は、曲が進むにつれ弾みだし、いつしか大きな翼を持ってこの空間を駆け回っていた。場内でも、みんなが大きく笑顔で手を振り、ときには両手を高く掲げてクラップをしながら、ステージの上から心地好く吹く爽やかな歌声の風を胸いっぱい吸い込み、笑顔を膨らませていた。落ちサビでは、藤巻亮太も両手を大きく揺らし「君をもっと 愛をもっと欲しいのさ」と歌いながら、大勢の観客たちと、この場に喜びと幸せの風を巻き起こしていた。その風が、きっと何かを変えてくれると信じて…。

本編最後に藤巻亮太は、手にしたタオルをくるくる回しながら『ゆらせ』を力強く、高らかに歌っていた。彼自身が、胸の内から沸き立つ熱を抱いた思いを、歌声や演奏に乗せ、さらに熱くしながら歌っていた。情熱の火は、どんどん胸の内で燃え盛る。サビでは、場内中の人たちがタオルや掲げた手を大きく振り回し、気持ちも身体も揺らしながら、一緒に熱を分かちあっていた。

アンコールでのMCでは2025年4月に全国ツアー決定を発表した。そして「Mt.FUJIMAKI」の来年の開催へ向け、またここから新しい季節を始めようと、新曲の『新しい季節』を届けてくれた。赤いテレキャスターを掻き鳴らす藤巻亮太の力強い弾き語りからスタート。そこへ、次第にいろんな楽器の演奏や美しいコーラスが加わり、楽曲は芽吹くように色づきだす。「自分で決めた限界に挑みはしないのか」と声を上げて歌っていたように、この曲は、前を向いた思いを力強く放っている。触れた一人一人の心に勇気や希望、そして新しい景色（未来）へ連れ出す風を吹かせる楽曲だ。観客たちも、「昨日の僕を超えてゆけ」「暗闇を超えていこう 未来を照らしだすのさ」と、胸を力強く揺らす歌と演奏にあわせて手を振りながら、彼の思いをしっかり受け止めていた。この歌に触れていると、ちっぽけな自分でも変われそうな気持ちになれるのが嬉しい。

最後に藤巻亮太は、『3月9日』を温かい声で歌っていた。その歌声は、ここにいる人たちみんなを包み込むようだ。客席でも、彼の誘いに導かれて一緒に歌う人たちも。藤巻亮太の思いと感情のチューニングを合わせて共に歌う人や、心の中で歌う人など、その形は様々でも、みんなが『3月9日』を通して心を一つに溶け合わせていた。だから、手にした眩しい白い光を、舞台の上の彼に向けて大きく、でもゆっくりと揺らしていた。この歌に寄り添いながら、ほのかな温かさを感じていたい。灯火のようなその思いを胸に抱きながら、少しずつ、少しずつ思いの火を膨らませたい。そんな気持ちも感じながら、ずっとステージの上を見つめていた。

PHOTO：樋口涼
TEXT：長澤智典

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