心地好い歌の風を吹かせながら、この場を、ドノヴァンの暮らす街の匂いが漂う景色に染め上げていった。

「サーフィンをこよなく愛する、ギターを抱えた吟遊詩人」の異名を持つドノヴァン・フランケンレイターが、ソロデビュー20周年アルバム『Get Outta Your Mind』を手に、9年ぶりに来日。スペシャル・ゲストにジギー・アルバーツを迎え、10月31日に渋谷クラブクアトロで行った公演の模様を、ここにお伝えしたい。

満員の場内に、ドノヴァン・フランケンレイター(以下、ドノヴァン)の奏でるブルーズなギターの音色が心地好く流れだす。ドノヴァンがマイクの前に立つや、歌いだしたのが、最新アルバムのタイトルにも冠した『Get Outta Your Mind』。穏やかで、心地好い幕開けだ。彼の歌声が優しく吹く南風になり、会場中にそよぎだす。やがてビートを増した演奏に乗せ、ドノヴァンは艶やかな歌声で、この場を大陸から運んできた特有の空気で満たしていく。次第に現実が消えてゆく…。

続く『More By Yourself』でも、特有のしゃがれた歌声を魅力に、ときに甘く、ときに燻銀な声の色を持って、ドノヴァンが観客たちにせまってきた。メンバーらと心地好く演奏を交わしつつも、彼は力強くギターをストロークしながら、この場に場末の酒場での宴の様のような景色を描きだす。いつしか演奏は、ブルーズなロックンロールのセッションへ。自由奔放に音を交わしあうメンバーらの様に興奮する観客たち。途中にRolling Stonesの『Miss You』の演奏を巧みに挟む遊び心も見せながら、ブルーズでロックンロールなセッションは続いてゆく。

カッティングしたギターの音を通して生み出す渋い演奏を軸に、跳ねたビートに乗せて楽曲が駆けだした。フロアをじっと見つめながら、ドノヴァンは『What’cha Know About』を歌唱。途中には、ベーシストであり、ブルースハープの名手でもあるマット・グランディの吹くハープとのセッション演奏も。何時しかそこには、南部の泥臭い音楽の空気が渦巻いていた。

オルガンの音色も心地好い。ドノヴァンはしゃがれた声で『Your heart』を歌いながら、大勢の観客たちと、心と心を結びあっていた。同じフレーズを、メンバーみんなで回すようなセッション演奏も加えつつ、この場にハートウォームな空気を作りあげる。

続く『All I Ever Wanted』では、温もりを覚えるギターの旋律を奏でつつ、甘い歌声で一人一人のハートを優しく包み込む。とても心地好い歌声と演奏だ。ドノヴァンがこの場に作りだしたのは、触れた人たちの凝り固まった気持ちをゆっくり溶かしてゆくパラダイスのような空間。微睡むように流れるスチールギターの音色も、心を解きほぐす。気づいたら、とろけるような甘いひとときに浸っていた。

マットの吹くハープの音色とドノヴァンのブルーズなギターが音を交わしあう。『Them Blues』のタイトルではないが、この曲では、気持ちを踊らせるハープの音色へ誘われるように…いや、ハープの音色に刺激を受け、メンバーらがノリノリでブルーズな演奏を重ねあっていた。その刺激は、ときに熱情した声も飛び交うほどに、フロア中の人たちの気持ちと身体も揺らしていった。

ドノヴァンがギターを切り刻むように演奏をしながら届けたのが、『Big Wave』。大波とタイトルしながらも、その演奏は爽やかな風を吹かせるようにも胸に届いていた。ドノヴァンの歌声が、眩しい太陽の日射しとなって全身に降り注ぐ。とても甘く心地好いひとときだ。ドノヴァンがギターの弦の上で指を踊らせるたびに、光の波飛沫が起きるような感覚も覚える。景色が変わる!? そう、この感覚に触れたくて会場に足を運んでいた人たちもきっと多かったに違いない。終盤に向けて上がっていく展開も、嬉しく気持ちを騒がせた。

郷愁を覚えるギターの音色が流れだす。少し思い詰めたような歌声で、ドノヴァンは『Never Too Late』を歌いだした。「けっして遅すぎることはない」。彼自身が、自らへ問いかけるように歌う姿が印象深く目に焼きついた。歌声やサウンド自体は心地好いが、そこからは深みのある揺れ動く思いも見えていた。

Gotta Believe』では力強くギターを鳴らしながらも、ドノヴァンは甘く囁くように優しい声で歌っていた。楽曲に強い意志や思いを記そうと、彼はしゃがれた声で優しく歌いかける。だから、ドノヴァンの歌や楽曲に心地好く寄り添いながらも、彼の届ける思いが何時しか心の奥へ奥へと染み渡り、気持ちを揺さぶっていく。後半へ向かうにつれ、セッション風の演奏に広がる様にも、ライブ特有の空気を覚えていた。

マットのベースの演奏に誘われるように、『Heading Home』がスタート。ドノヴァンがギターを掻き鳴らせば、その音に合わせるように演奏陣みんなでグルーヴを作りだす。何処か哀愁を帯びて始まった楽曲だったが、途中に、メンバーそれぞれのソロ演奏を挟みながら進むに従い、ブルーズなセッション演奏が熱を帯びだし、フロア中の人たちの気持ちも熱く沸かせていた。気心知れた仲間たちとセッションしてゆく姿に刺激を受け、身体が大きく揺れ続ける。

ギターを爪弾くドノヴァンの演奏へ、煌めくようにスチールギターの音色が重なりだす。彼は、思いを巡らせるように『Call Me Papa』を歌いだした。ノスタルジーを覚える?確かにそうだろう。ドノヴァン自身も、いろんな想い出を含む心模様を描きながら、歌声をはべらせていた。途中、観客たちが、ドノヴァンと一緒に「BABY」と歌う場面も登場。共に思いを分かち合い、気持ちを上げてゆく。その関係性が素敵じゃないか。それが、この後に生まれる、一緒に歌や思いを共有する一つのきっかけにもなっていた。

ゲストで、アルバムでも共演したジギー・アルバーツが登場。もちろん、歌ったのは『I’ll Come A-Runnin’』だ。先にドノヴァンがリードを取り、その声を受けてジギーが歌いだす。ドノヴァンの甘さと渋みを混ぜ合わせた奥深い歌声とは対象的に、ジギーは思いを真っ直ぐな歌声に乗せて届けてきた。途中からドノヴァンは一歩引いてギターとコーラスに専念。ジギーの芯を持った歌声に、優しく絡みあっていた。

躍動するドラムのビートに乗って、ここからロックンロールなセッション演奏がスタート。『Byron Jam』でドノヴァンは、溜めを生かした歌声でダンディに迫ってきた。まさに、彼の燻銀な魅力を存分に見せた楽曲だ。ドノヴァンが攻めるように歌うたび、フロア中から興奮した声が上がる。直立不動の様で歌う彼の姿も印象的だ。この曲でもブルーズでロックンロールなセッションが描きだされ、ドノヴァン自身も次々とフレーズを繰り出し、この場に生まれた熱気へ、さらに興奮や高揚という熱を加えるように演奏を続けていた。そして…。

熱い旋律をギターで刻みながら、ドノヴァンが「Free!!」と声を上げた。『Free』の登場だ。心を解き放つような、まさに自由という空気を感じさせる演奏だ。途中からは、ドノヴァンと観客たちが、一緒に「Free!!」と歌い叫んでいた。この場にいる大勢の人たちが、気持ちを軽やかに、すべての縛りを解き放ち、「Free!!」と声を上げながら自由を謳歌していた。

軽快に弾むビートに乗せ、最後に届けた『It Don’t Matter』 ても、ドノヴァンの歌声にあわせて、大勢の観客たちが一緒に「if don’t matter to you / It don’t matter to me」とサビを大合唱。この曲でも、メンバーのソロ演奏が入るが、その演奏に合わせ、大勢の観客たちが「if don’t matter to you / It don’t matter to me」と合唱。それを、ベース・キー・ード・ドラムとセクションごとに実施。もちろん、ドノヴァンのギターソロ中にも、巧みに「if don’t matter to you / It don’t matter to me」と歌いあげる。その様を見たドノヴァンが、逆に観客たちへ歌ってくれと煽りだす。いつしか立場が逆転、終盤には観客たちがリードを取り、バンド陣の演奏にあわせて大きな声で合唱。最後のシメも、あえてドノヴァンは観客たちへ譲り、大勢の人たちの歌う「if don’t matter to you / It don’t matter to me」の声でライブの幕を閉じ、ドノヴァンも高揚した笑顔を浮かべてフロアを見つめていた。

アンコールでは、弾き語りで、しゃがれた歌声を魅力に『Swing On Down』を歌唱。まさにその姿は、吟遊詩人そのものだ。途中から、マットがハープを携えて登場。後半は、2人のセッションプレイによる熱いグルーヴを作りあげた演奏へ。ドノヴァンは最後の最後まで、心地好い歌の風と、気持ちを騒がす熱風の両方を作りながら、この場を、ドノヴァンの暮らす街の匂いが漂う景色に染め上げていった。

TEXT:長澤智典
PHOTO:SHUN ITABA

《SET LIST》
  1. 1.Get Outta Your Mind
  2. 2.More By Yourself
  3. 3.What’cha Know About
  4. 4.Your heart
  5. 5.All I Ever Wanted
  6. 6.Them Blues
  7. 7.Big Wave
  8. 8.Never Too Late
  9. 9.Gotta Believe
  10. 10.Heading Home
  11. 11.Call Me Papa
  12. 12.I’ll Come A-Runnin’
  13. 13.Byron Jam
  14. 14.Free
  15. 15.It Don’t Matter
  16. -ENCORE-
  17. EN.Swing On Down

ドノヴァン・フランケンレイター使用楽器・機材紹介

Donavon Frankenreiter

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2004年大ヒットを記録したメジャー・デビュー・アルバム『ドノヴァン・フランケンレイター』のリリースから20周年記念の年となる今年、9年ぶりのオリジナル・アルバム『ゲット・アウタ・ユア・マインド』をドノヴァンはリリースする。今作はカリフォルニア州ピノン・ヒルズのスーパー・ブルーム・スタジオとハワイ州カウアイ島のドノヴァン自宅近くのマウカ・ビュー・スタジオでセルフ・プロデュースにより、制作された。このアルバムには、ドノヴァンの家族への愛とハワイへの愛が込められている。「このアルバムは、僕を笑わせ、泣かせ、そして愛を感じさせる。最初から、最後まで自分自身を感じさせる唯一の作品だよ」とドノヴァンは語っている。

【通常盤】
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■解説・歌詞・対訳付
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