2021.6.28@Zepp Haneda Tour 2021 -Slow Dance- ライブレポート

BRAHMANの全国ツアー『Tour 2021 -Slow Dance-』の東京公演が、6月28日(月)にZepp Hanedaで行なわれた。

約3年ぶりとなるツアーは、彼らにとって初のコロナ禍における有観客の主催ライブ。 加えて、BRAHMANというバンドが併せ持つ静と動の基盤のうち、“静”の部分にスポットを当て、スローな楽曲を中心としたセットリストが組まれるとの予告もあった。 ほかにも、1Fフロアに椅子が並んだ座席指定のスタイル、ステージ前方にかけられた紗幕、そこにドドンと映し出されている7STARS DESIGNが手がけた今回のツアーロゴ、ゆったりと流れる映画音楽のようなBGMなどなど、通常のモードとは異なる特別感が満載のシチュエーションなだけに、開演前の場内にはなんとも言えない雰囲気が漂う。

BGMが止まって暗転し、『KAMUY-PIRMA』から板付きでライブがスタート。 まずは、TOSHI-LOW(Vo)が紡ぐアイヌ語とKOHKI(Gt)のクリーンサウンドがやさしく辺りを包み込む。 ステージに緑の照明が淡く灯り、紗幕には4人の影が伸びて映されるという、楽曲の崇高さを際立たせる演出も素晴らしい。

続く『FIBS IN THE HAND』になると、朧げだったメンバーの姿が幕越しながら少しずつクリアに。 拭えやしない悲しみを癒すような歌を支えるMAKOTO(Ba)とRONZI(Dr)のビートは、まるで心臓の鼓動みたいに温かく脈打つ。 曇天の分厚い雲がゆっくりと晴れていく感覚があった『空谷の跫音』、深いブルーに染められたステージの中で徐々にダイナミズムが増していった『終夜』。 起伏に富んだ4人のアンサンブルを座ったまま見つめるオーディエンスの多くも、衝動が抑え切れなくなって身体を揺らし出す。

序盤の4曲を終えたタイミングで、おなじみのSE『Molih ta, majcho i molih』が轟き、グラフィック映像が流れる。 そして『霹靂』の途中、ついにメンバーと客席を隔てていた紗幕が外れ、歓喜して一斉に立ち上がるオーディエンス。 これを機にバンドサウンドはいっそう凄みを増し、その後も2004年発表のアルバム『THE MIDDLE WAY』に収められた『FROM MY WINDOW』(ビル・ジョーンズのカバー)や『BYWAY』、イントロの切ないギターリフからグッとくる初期のナンバー『PLASTIC SMILE』と、英詞曲を心地よく披露したり、“答えなど何もないよ 叩きつけていたいだけ” “泣いている君の横で ただ涙をすするだけ”と歌う、慈愛と包容力に満ちた新曲を聴かせるなど、目の離せないシーンが絶え間なく続いていった。

印象深かったのは、やはり普段のBRAHMANのライブでは観られないアプローチ。 フィジカルの快楽こそ制限されたものの、映像や照明の効果的な導入が素晴らしく、逆境を補って余りあるパフォーマンスを届けてくれた。 祈りに似たメロディを経て苛烈な音塊へと変わりゆく『霹靂』は、幻想的に降り注ぐ光の雨がやがて雷を伴い豪雨になって吹き荒れる映像とともに演奏。 雨が地面に落ちるさままでを紗幕に再現していて、その壮大かつ繊細な見せ方に思わず歓声を上げてしまいそうに。 TOSHI-LOWが観衆の上に立って鬼神のように歌う姿など、もみくちゃになって楽しめていた頃のライブ写真がステージ後方のスクリーンに数多く投映された『PLASTIC SMILE』の演出もたまらない。 本来は着飾ったことをまったく必要としないバンドなので、こうした試みがとても新鮮に感じられるのだ。

そんな胸を打つ演出の中には、もちろん東北に想いを馳せたものもあった。 『ナミノウタゲ』では、同曲のMVのアナザーバージョンと言える新しい映像を使用。「ISHINOMAKI BUCHI ROCK」(通称:ブチロック)の開催地としても知られる石巻市・小渕浜の漁港、そこで働く漁師たちをはじめ、懸命に生きる人々の営みをバックに、気持ちを背に担ぐように演奏した。 『鼎の問』では、福島の海辺で美しく情熱的に踊るダンサーの舞いを映し、その生命力がバンドに乗り移って激流の如くあふれ出す。 東北ライブハウス大作戦など、これまで現実から目を逸らさずに支援活動を継続してきたBRAHMANならではの迫真性が凄すぎて、彼らのドキュメンタリー作品を観ているようでもあり、内面を揺さぶられて感情が追いつかない。 自分でもびっくりするくらい、曲に没入させてもらった。

歌心に振り切った後半のパートも見ごたえ十分。 『今夜』の“胸を張って 上を向いて 歩いて来れたなら たぶん俺ら 出逢ってないよ”は、まさに今の瞬間のために書かれたかのよう。 この曲はいつだってそんな特別な気持ちにさせてくれる。 “次はもっとそばにおいで”と、手招きをしながら笑顔で歌うTOSHI-LOWのやさしい表情も忘れられない。 そして、キャンドル状の光が灯る中で披露された『満月の夕』。 “言葉にいったい何の意味がある 乾く冬の夕”の部分をマイクなしの生声で聴かせるなど、深みのある歌唱がますます冴えわたり、掛け声に合わせて客席から強く握りしめた拳が突き上がる光景は、命の躍動と呼べるほどに美しかった。

温かくメロウなナンバーの数々は、何が正しいのかわからなくなる不安定な世の中を生きる僕らに、“今やるべきことは何なのか、もう一度立ち止まってよく考えてみないか?”と目を見て語りかけてくれているかのようだった。 モッシュやダイブはもちろん、MCも歓声も一切なし。 でも、こんなBRAHMANのライブも悪くない。 フロアで暴れられない状況とはいえ、駆け付けたファンはきっと満足感がハンパなかったはず。 なぜなら、演奏に十分すぎるほどのメッセージ性が詰まっていたから。 ロックバンドが聴かせる曲のみで圧倒するステージというのも、痺れるくらいにかっこいい振る舞いだと思う。

15曲を終えて、舞台に再び紗幕がかかった。 エンドロールに続いて投映されたのは、コロナ禍で閑散とした街の風景、中止に追い込まれてしまったフェス、苦境に置かれたライブハウス……しかし、それでもなんとか生きようとするバンドやスタッフの姿だ。 そんな厳しい現実を直視した映像を経て、ツアータイトルにもなった新曲『Slow Dance』が最後に届けられる。

“消えた賑わいの先にあった重さのない命” “でたらめと投げやり渦巻いた張子の虎の群れ” “行き先知れぬ闇の中を” “静かに踊れ 激しくSlow Dance” ――疾走するビートに乗せて紗幕の向こうから怒りを叫ぶTOSHI-LOWの歌声が、演出とともに聴き手を鮮やかに撃ち抜いていく。 今のBRAHMANが鳴らさなければいけないという使命感、未来のために絞り出したメッセージであることもビシビシ伝わってきて、ラストはこの日いちばんの衝撃を与えられたのだった。 自分には何ができるのか? ライブが終わってしばらく経っても、そんなシンプルな問いが胸に熱く残っている。

取材・文:田山雄士
ライブ撮影:三吉ツカサ(Showcase)
機材撮影:小野寺将也

《SET LIST》
  1. 1.KAMUY-PIRMA
  2. 2.FIBS IN THE HAND
  3. 3.空谷の跫音
  4. 4.終夜
  5. 5.霹靂
  6. 6.FROM MY WINDOW
  7. 7.BYWAY
  8. 8.PLASTIC SMILE
  9. 9.旅路の果て
  10. 10.ONENESS
  11. 11.ナミノウタゲ
  12. 12.今夜
  13. 13.PLACEBO
  14. 14.満月の夕
  15. 15.鼎の問
  16. 16.Slow Dance
BRAHMAN

BRAHMAN 『Slow Dance』 2021.9.22 Release!!

BRAHMANが、"Tour2018 梵匿"以来3年ぶりとなる前5箇所を回るZeppツアー「Tour 2021 -Slow Dance-」を開催。タイトルソング「Slow Dance」&LIVE「Slow Dance」をコンパイルした作品をリリース!

BRAHMAN「Tour 2021 -Slow Dance-」開催。有観客の主催ライブを行うこと自体がコロナ禍初。本ツアーはBRAHMANの特徴の一つでもある静と動の“静”にスポットを当て、スローな楽曲を中心に構成したコロナ禍の今だからこそ実現したLIVE映像集。Tour Slow Danceのテーマ曲となる「Slow Dance」の新曲がCD収録される。ボーナス映像には2020年、結成25周年に行われたBRAHMAN初のONLINE LIVE「ONLINE LIVE “In Your 【  】 House”」を完全収録。

■初回限定盤A(CD+BD2枚)定価6,600円 TFCC-89714~89716
■初回限定盤B(CD+DVD2枚)定価5,500円 TFCC-89717~89719
■通常盤 定価1,320円 TFCC-8972


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