待ちに待った瞬間だ。ここにたどり着くまでの一年間は、想像以上の長さだっただろう。LUNA SEAとスティーヴ・リリーホワイト氏による共同プロデュースでリリースされた『CROSS』を引っ提げ、2020年2月から予定されていた『LUNA SEA 30th Anniversary Tour 2020 -CROSS THE UNIVERSE-』は新型コロナウィルス感染拡大の影響で二箇所を除き延期、2021年初頭から予定していた振替公演もさらに再延期と、その先の見えない絶望感に押し潰されそうになりながらもやっとこの日を迎えたのだ。本来であれば30周年ツアーのグランドファイナルとして予定していた2021年5月28日から三日間にかけて東京ガーデンシアターで行われたこの公演は『30th Anniversary CROSS THE UNIVERSE -THE DAWN-』とタイトルも新たに30周年ツアーの門出として定められた。本稿ではその最終日の模様をレポートする。

SUGIZO(Gt/Vn)

定刻、暗転した会場に荘厳なSEが響くなかゆっくりとLUNA SEAのメンバーが登場するとSLAVE(LUNA SEAファンの総称)は大きな拍手で5人を出迎える。会場がまばゆいオレンジに染められると『LUCA』のイントロであるSUGIZO(Gt/Vn)とINORAN(Gt)の繊細なアルペジオが耳にすっと吸い込まれていく。それはこの日のライヴタイトルの通り、美しい夜明けの瞬間だった。そして、<いつしか慣れてしまっていた悲しい夜 その涙を拭うから この詩で>と歌うこの曲にはこれまでの果ての見えない一年間の辛い日々に寄り添う温かさがあった。

真矢(Dr)

その余韻を引き裂くように真矢(Dr)のカウントが入るとLUNA SEA流ロックチューン『Closer』へ。J(Ba)のうねるベースラインも健在で我々の手を掴んでグイグイと引っ張っていくようだ。「東京、会いたかったぜ!」というRYUICHI(Vo)の挨拶も早々に、SLAVEがハンズクラップで盛り上げたポップロック『Pulse』、Jがピアノを演奏するところも見どころのひとつである『PHILIA』といったLUNA SEAの新たな一面を見ることができる曲たちをプレイ。結成から30年以上経ってもなおLUNA SEAは進化していることを示してくれた。

RYUICHI(Vo)

進化をし続ける上で、その幅を広げていくのはもちろん、楽曲の持つ深みや高さや奥行きまでも年々広げていくのがLUNA SEAである。その象徴である『宇宙の詩~Higher and Higher~』や『静寂』では我々を宇宙の果てや深淵へと誘った。特に『静寂』の後半にかけての徐々に感情的になる、獣のようなRYUICHIのボーカリゼーションは圧巻の一言で、固唾をのんで見守ることしかできなった。

INORAN(Gt)

また、この日は会場に集まったSLAVE以外のストリーミングや映画館でのライヴビューイングで彼らのライヴを見ているSLAVEに向けても「みんなきっと心の声でこの会場に想いを届けてくれていると思うので、一緒に盛り上がっていきましょう!」と声を届け、1部のラストを『Hold You Down』『THE BEYOND』で締めくくった。

J(Ba)

『CROSS』の収録曲を中心に構成された1部とは打って変わり、2部のセットリストはLUNA SEAのライヴの定番曲で構成された。デジタリックにリアレンジされたSE『月光』の神聖な雰囲気をかき消すようにRYUICHIが<Jesus, don’t you love me?>と叫ぶと、真矢のパワーショットとSUGIZOのエッジィなリフが響く『JESUS』で2部の幕は切って落とされた。さらにここから『DESIRE』『TRUE BLUE』といったキラーチューンを立て続けに放ち、ライヴのギアをどんどんと上げていく。

ずっと終わらない夢を見ているみたいだね」とRYUICHIらしい甘い言葉をささやき『IN MY DREAM』を披露したところでトラブルが発生。なんとスピーカーが飛んでしまったというのだ。想定外のMCタイムとなってしまったわけだが、そこは百戦錬磨のLUNA SEA。このコロナ禍を振り返りながら「自分たちを突き動かしているのは何か、このコロナ禍でライヴをやれなかったことで気付いたことがたくさんあるんじゃないかなと思います」と話し、「SUGIちゃんも言ってたんだけど、音楽を止めちゃいけない。まぁ、スピーカーは飛びましたけどね」ときれいなオチまでつけてくれた。

また、このツアーが一年以上延期してしまったのにずっと待っていてくれたSLAVEに向けての感謝を述べると、その感謝の想いを『I for You』に乗せて届け、さらに本編のラストとして『ROSIER』『TONIGHT』をプレイし本編の幕を閉じた。

アンコールの会場は3月のさいたまスーパーアリーナ公演同様に医療従事者やフロントワーカー、エッセンシャルワーカーに感謝を伝えるための青い光で包まれ、その美しい光の海を見たSUGIZOとRYUICHIはオフマイクで感謝を伝えた。演奏されたのはもちろん『Make a vow』。SUGIZOが手話を用いて歌詞を表現する落ちサビもお決まりになってきた。また、メンバー紹介の際にJは「やっとツアーも始まるんで、俺たち全員でライヴ会場は安全なんだってことを証明していきましょう。全国のみなさん、待っていてください!」と意気込みを語れば、SUGIZOは「Jも言ったように安全安心を全国で証明して、音楽を止めさせない。音楽は止まらない。アートや文化は止まらない。一緒にこれからも音楽を鳴らしていきましょう。そして33年目が始まったよね。一緒に命尽きるまでこの旅を共に歩んでいきましょう」と語ってくれた。そして、33年目になってもなおSLAVEの心に火をつける「お前ら全員でかかってこい!」の煽りから『WISH』を演奏し、さらにSUGIZOの流麗なヴァイオリンとINORANの暖かなアコースティックギターが響いた『so tender…』をもってこの日のラストナンバーとした。

『so tender…』で使用されたヴァイオリンはエレアコヴァイオリンの最高峰、David Gage String Instruments社が製作したThe Realist RV5PeA SGZ。SUGIZOが5年の歳月をかけて監修し完成させたモデルだ。

LUNA SEAは6月12日の福岡公演を皮切りに全国ツアーを再開させる。もちろんまだ世間の風当たりは強いかもしれないが、メンバーの言葉を借りればこのツアーは音楽を止めないためのツアーであり、ライヴ会場が安全であること証明するツアーでもあるのだ。「音楽は決して無力じゃない。何かを伝えられるし、人の想いを変えられるし、意識を変えられるし、自分たちの意識がひとつになればどんな苦労でも乗り越えられる」とは本編中のRYUICHIの言葉だが、音楽は不要不急なんかではなく、困難に直面した時にこそ人々に寄り添い、時にその困難を乗り越える活力になり得るということを忘れてはならない。奇しくも22年前の5月30日、東京ガーデンシアターから1キロほどの距離にある東京ビックサイトでLUNA SEAは突風に見舞われ倒壊したステージセットを廃墟に見立て、中止も危ぶまれるなか当時野外ライヴとしては史上最高の10万人を動員した『[NEVER SOLD OUT]CAPACITY∞』で伝説を残した。またこの日、この場所からLUNA SEAの新たな伝説が始まる予感がしている。

取材・文:オザキケイト
Photo:田辺佳子、横山マサト、岡田裕介

《SET LIST》
  1. 1.LUCA
  2. 2.Closer
  3. 3.Pulse
  4. 4.PHILIA
  5. 5.宇宙の詩~Higher and Higher~
  6. 6.静寂
  7. 7.Hold You Down
  8. 8.THE BEYOND
  9. 9.JESUS
  10. 10.DESIRE
  11. 11.TRUE BLUE
  12. 12.IN MY DREAM
  13. 13.I for You
  14. 14.ROSIER
  15. 15.TONIGHT
  16. ENCORE
  17. 16.Make a vow
  18. 17.WISH
  19. 18.so tender…

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